モルガン・スタンレーMUFG証券の空売り|377銘柄の残高と株価を徹底解説

空売り残高の一覧で「モルガン・スタンレー」という名前を見つけたとき、それがどの会社のことなのかまで確かめた人は少ないはずです。

JPXが公表している報告には、名前がよく似た3つの法人が、別々に載っています。東京の大手町から報告している会社が2つと、ロンドンから報告している会社が1つです。3つとも別の会社で、出資している相手も、担っている業務も違います。

そのうち最も多く名前が出ているのが、モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社です。2026年8月26日から2026年9月2日の報告では377銘柄。バークレイズに次いで2番目の多さでした。

この記事では、その377銘柄を1件ずつ数えます。どんな銘柄に名前が出ているのか、売り建てはどれくらいの規模なのか、そして名前が出た銘柄の株価がその後どうなったのか。数字はすべて、誰でも無料でダウンロードできる公表データから計算しています。

この記事でわかること

・モルガン・スタンレーMUFG証券がどんな会社なのか(法人向け専業の合弁会社)
名前がよく似た3つの「モルガン」が同じ報告書に別々に載っている
・名前が出ているのは377銘柄。平均残高1.22%・売り建ての合計は約7,926億円
残高割合が大きい銘柄と、金額が大きい銘柄はまったく別
・この機関だけが名前を出している112銘柄の内訳
・377銘柄の年初来は上がった222/下がった155(中央値+6.5%)
インバース型ETFとREITにも名前が出ているという事実
・上位8機関との比較。名前を見たときに確認したい5つのこと

※ この記事は制度と公表データの解説であり、特定の銘柄や売買、特定の事業者の評価を目的とするものではありません。集計は2026年8月26日から2026年9月2日に公表された空売り残高の報告にもとづきます。株価はYahoo Financeの日足終値です。

モルガン・スタンレーMUFG証券とはどんな会社か

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社は、米モルガン・スタンレーと三菱UFJ側の合弁による、法人向け専業の証券会社です。個人向けの店舗や口座を持っていません。

個人投資家が口座を開いて売買する相手ではなく、機関投資家や事業会社を相手に、株式・債券・デリバティブの売買や引受けを行う会社です。

項目 内容
正式な社名 モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社
出資比率 議決権ベースでモルガン・スタンレー51%/三菱UFJ証券ホールディングス49%
位置づけ モルガン・スタンレーの連結子会社
発足 2010年5月(日本における証券合弁事業の再編)
業務 ホールセール(法人・機関投資家向け)専業。個人向けの営業店はない
資本金 621億4,900万円(2025年3月31日現在)
本店 東京都千代田区大手町一丁目9番7号 大手町フィナンシャルシティ サウスタワー

この本店の住所は、JPXの空売り残高の報告書でそのまま確認できます。報告者の住所欄には「東京都千代田区大手町一丁目9番7号大手町フィナンシャルシティサウスタワー」と記載されています。報告書に載っている住所と会社の登記上の本店が一致しているかは、機関の正体を確かめるときの手がかりになります。

ここが後の章につながります。報告書の住所欄が日本国内なのか、ロンドンやニューヨークなのかで、同じグループでも別の法人であることが分かるためです。

名前がよく似た3つの「モルガン」が並んでいる

ここが最初に押さえておきたい部分です。2026年8月26日から2026年9月2日の報告には、「モルガン」を含む名前が3つ、別々に載っています。

報告者の名前 報告書の住所 銘柄数 平均残高
モルガン・スタンレーMUFG証券 東京都千代田区大手町(日本) 377 1.22%
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 東京都千代田区大手町(日本) 6 0.55%
Morgan Stanley & Co. International ロンドン(英国) 1 0.70%

この3つはすべて別の法人です。そして役割も違います。

会社 出資(議決権ベース) 立場
モルガン・スタンレーMUFG証券 モルガン・スタンレー51%/三菱UFJ側49% 法人向け専業。個人の口座はない
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 三菱UFJ側60%/モルガン・スタンレー40% 個人向けの営業店網を持つ
Morgan Stanley & Co. International plc モルガン・スタンレーの英国法人 ロンドンから報告している別法人

2010年5月、モルガン・スタンレーと三菱UFJの日本での証券事業は2社体制で発足しました。当初は1社に統合する計画でしたが、最終的に投資銀行部門を三菱UFJ側の会社に集約し、それ以外を別会社として残す形になっています。名前が似ているのは、同じ合弁から生まれた2社だからです。

実際に、1つの銘柄に複数のモルガンが同時に名前を出している例があります。SHIFT(3697)には7機関が名前を出していますが、そのうち3つがモルガン系です。

報告者 残高割合 残高数量
ゴールドマン・サックス 4.65% 12,453,534株
モルガン・スタンレーMUFG証券 3.41% 9,132,472株
バークレイズ銀行 0.93% 2,511,510株
Morgan Stanley & Co. International 0.70% 1,883,414株
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 0.53% 1,442,105株
野村インターナショナル 0.52% 1,394,637株
バークレイズ・キャピタル 0.45% 1,219,363株

名前だけを見て「モルガンが4.64%も売っている」と読むと、実態を取り違えます。3つは別の法人で、それぞれが別の理由で残高を報告しています。集計するときは、報告者の名前を正確に区別してください。

空売り残高に名前が出ているのは377銘柄

まず全体の規模を数字で見ます。

項目 数字
名前が出ている銘柄数 377銘柄(報告が出ている全1,043銘柄の36.1%)
報告している39機関のなかの順位 2番目(1番目はバークレイズの428銘柄)
平均の残高割合 1.22%
残高割合の中央値 0.89%
最も大きい残高割合 6.79%(KLab)
売り建ての合計(時価換算) 約7,926億円
この機関だけが名前を出している銘柄 112銘柄
計算年月日 2026年8月31日/2026年9月1日/2026年9月2日(1日分ではない)

売り建ての合計は約7,926億円です。これは残高数量に2026年9月4日前後の株価をかけて時価に直したもので、報告書に金額として載っているわけではありません。

ここで注意したいのは、報告が始まるのは残高割合が0.5%に達したときだということです。0.5%に1度も届いていない売り建ては、公表されません。つまり377銘柄という数字は「この会社が空売りしている銘柄の全部」ではなく、「基準に達して報告義務が生じた銘柄」です。

ただし0.5%は「載る下限」ではありません。1度報告した後は、基準を下回ったことを届け出るまで一覧に載り続けます。そのため今回の377銘柄にも、残高割合が0.5%未満のものが46銘柄(うち0.00%が3銘柄)含まれています。

0.5%を下回った報告は、買い戻しが進んでいることを示します。一覧に名前があること自体より、その数字が上がっているのか下がっているのかを見てください。

残高割合が大きい銘柄トップ12

残高割合の大きい順に並べます。年初来は2026年9月4日前後の終値と、その年の最初の終値を比べたものです。

銘柄(コード) 市場 残高割合 年初来
① KLab(3656) プライム 6.79% −46.0%
② QDレーザ(6613) グロース 6.50% +501.5%
③ 地盤ネットホールディングス(6072) スタンダード 6.12% +425.5%
④ オンコリスバイオファーマ(4588) グロース 5.97% +207.6%
⑤ TerraDrone(278A) グロース 5.90% +868.3%
⑥ フィックスターズ(3687) プライム 5.60% +35.2%
⑦ AIメカテック(6227) スタンダード 5.38% +262.8%
⑧ ReYuuJapan(9425) スタンダード 5.09% −43.6%
⑨ ユニチカ(3103) スタンダード 4.66% +389.7%
⑩ トリドールホールディングス(3397) プライム 4.17% +1.9%
⑪ メタプラネット(3350) スタンダード 4.03% −37.4%
⑫ イオレ(2334) グロース 3.83% +37.0%

残高割合が最も大きいのはKLab(3656)の6.79%です。ただし上位12銘柄のうち、年初来がプラスなのは9銘柄あります。

TerraDroneは+868.3%、QDレーザは+501.5%です。残高割合が大きい銘柄ほど下がっている、という関係は見られません。

むしろ株価が大きく上がった銘柄ほど、空売り残高も膨らみやすいという面があります。値上がりした銘柄は割高だと判断する参加者が増え、同時に貸株の需要も増えるためです。仕組みは貸借倍率とは?で整理しています。

割合が大きい銘柄と、金額が大きい銘柄はまったく別

ここが空売り残高の一覧で最も誤解されやすいところです。報告書に載る「残高割合」は、発行済株式数に対する比率であって、金額ではありません。

同じ377銘柄を、今度は売り建ての時価が大きい順に並べ替えます。

銘柄(コード) 残高割合 売り建ての時価
① 三菱重工業(7011) 0.64% 818.6億円
② キヤノン(7751) 0.93% 574.4億円
③ レーザーテック(6920) 1.73% 541.3億円
④ JX金属(5016) 0.82% 284.4億円
⑤ IHI(7013) 0.86% 247.0億円
⑥ ルネサスエレクトロニクス(6723) 0.39% 242.7億円
⑦ 川崎汽船(9107) 1.01% 215.3億円
⑧ 資生堂(4911) 1.43% 197.5億円
⑨ トリドールホールディングス(3397) 4.17% 158.9億円
⑩ メタプラネット(3350) 4.03% 151.6億円

金額で最も大きいのは三菱重工業(7011)の約818.6億円です。ところが残高割合は0.64%しかありません。発行済株式数が多いため、割合としては小さく見えます。

逆に、残高割合が最大のKLab(3656)は6.79%ですが、金額に直すと約10.8億円です。割合では10.6倍ですが、金額では三菱重工業のほうが約75.7倍大きいという逆転が起きています。

この2つを混同すると、「大量に空売りされている」の意味を取り違えます。

状態 意味 読み方
残高割合が大きい 発行済株式数に対する比率が高い 買い戻しの影響が株価に出やすい(浮動株に対して重い)
金額が大きい 売り建ての時価が大きい その機関にとっての規模は大きいが、株価に対する重さは別
両方が大きい 該当は少ない 需給として最も意識される

時価総額の大きい銘柄では、0.5%でも数百億円になります。逆に小型株では、数億円の売り建てでも残高割合が5%を超えます。「割合」と「金額」は別の指標として見てください。

どんな銘柄に名前が出ているのか

市場区分で分けます。市場区分が確認できたのは371銘柄です(残りの6銘柄はREITとETFで、後の章で扱います)。

市場区分 銘柄数 構成比 報告全体の構成比
プライム 197銘柄 53.1% 60.6%
スタンダード 89銘柄 24.0% 21.0%
グロース 85銘柄 22.9% 18.4%

プライムが53.1%を占めています。報告が出ている全銘柄の構成比(60.6%)と比べても、大きく偏っているわけではありません。グロースの小型株ばかりを狙っている、という姿にはなっていません。

業種で分けると次のようになります。

業種 銘柄数 この機関での比率 報告全体での比率
情報・通信業 80銘柄 21.6% 19.4%
電気機器 41銘柄 11.1% 10.0%
サービス業 39銘柄 10.5% 9.9%
小売業 32銘柄 8.6% 8.3%
機械 31銘柄 8.4% 6.9%
化学 22銘柄 5.9% 6.3%
医薬品 16銘柄 4.3% 4.3%
卸売業 16銘柄 4.3% 4.5%
精密機器 13銘柄 3.5% 2.5%
建設業 11銘柄 3.0% 2.9%

最も多いのは情報・通信業の80銘柄(21.6%)です。ただし報告全体でも19.4%を占める業種なので、この機関だけが特定の業種に集中しているわけではありません。

つまり「この業種が狙われている」という読み方は、このデータからは成り立ちません。並んでいるのは、報告全体の縮図に近い顔ぶれです。

この機関だけが名前を出している112銘柄

報告が出ている銘柄のうち、他の機関の名前がなく、モルガン・スタンレーMUFG証券だけが載っているのが112銘柄あります。377銘柄の29.7%にあたります。

銘柄(コード) 市場 残高割合 年初来
① トリドールホールディングス(3397) プライム 4.17% +1.9%
② 岡本硝子(7746) スタンダード 3.28% +101.0%
③ 広済堂ホールディングス(7868) プライム 2.45% +21.0%
④ 助川電気工業(7711) スタンダード 2.06% −19.6%
⑤ トライアルホールディングス(141A) グロース 2.06% +31.3%
⑥ チャットプラス(598A) グロース 1.83% −34.6%
⑦ VALUENEX(4422) グロース 1.75% +238.2%
⑧ レーザーテック(6920) プライム 1.73% +4.6%
⑨ ネクステージ(3186) プライム 1.61% +16.1%
⑩ 高速(7504) プライム 1.59% +62.2%
銘柄数 平均残高 年初来の中央値
この機関だけ 112銘柄 0.88% +3.7%
他の機関も名前を出している 265銘柄 1.36% +9.2%

この機関だけが名前を出している銘柄は、平均残高が0.88%と小さめです。複数の機関が並んでいる銘柄(1.36%)より低い水準にあります。

名前が1つしかないということは、その1社の判断で建てられている可能性が高いということです。ただし0.5%に達していない売り建ては報告されないため、「他に誰も売っていない」という意味にはなりません。

名前が出ている377銘柄の株価はどうなったか

ここがこの記事で最も確かめたかった部分です。「この機関に空売りされた銘柄は下がる」という受け止め方が正しいなら、377銘柄の年初来はマイナスに偏るはずです。

実際に全377銘柄を数えました。

年初来 銘柄数 構成比
年初来がプラス 222銘柄 58.9%
年初来がマイナス 155銘柄 41.1%
年初来の中央値 +6.5%
+50%以上 63銘柄 16.7%
+100%以上 28銘柄 7.4%
−30%以下 27銘柄 7.2%

上がった銘柄が222、下がった銘柄が155でした。中央値は+6.5%です。

比較のため、報告が出ている全銘柄でも同じ計算をしました。全1,043銘柄では上がったのが615銘柄(59.0%)、中央値は+5.9%です。この機関の名前が出ている銘柄だけが特に下がっている、という結果にはなっていません。

残高割合の大きさで分けても同じです。

残高割合 銘柄数 年初来プラス 中央値
0.5〜1%未満 160銘柄 87銘柄 +4.1%
1〜2%未満 117銘柄 68銘柄 +3.5%
2〜3%未満 31銘柄 17銘柄 +3.1%
3%以上 23銘柄 16銘柄 +22.2%

残高割合が3%以上の23銘柄でも、年初来がプラスなのは16銘柄です。中央値は+22.2%でした。

これは「空売りされても大丈夫」という意味ではありません。年初来のリターンは空売り以外の要因でも決まります。言えるのは「名前が並んでいること自体は、その銘柄が下がる理由になっていない」という1点だけです。

もうひとつ、売り建ては最後に必ず買い戻して返す取引だという点も押さえておきたいところです。今回の377銘柄に積み上がっている株数は、いずれ市場で買い戻されます。残高の大きさは、その銘柄にとって将来の買いの予約でもあります。信用取引の期限との関係は信用期日とは?で解説しています。

なぜこの機関の名前がこれだけ並ぶのか

個人向けの口座を1つも持たない会社が、377銘柄に売り建てを報告している。これはこの会社の業務が、機関投資家や事業会社を相手にしたものに特化していることと結びついています。

ここまで見てきたデータにも、その形が表れています。

データに出ている形 数字 読み取れること
金額の上位を大型株が占める 三菱重工業約818.6億円、キヤノン約574.4億円 顧客の注文や引受けの規模が、そのまま残高になる
ETFとREITにも名前が出ている ETF1件・REIT5件 個別企業の評価とは別の理由で売り建てが立つ
単独で名前を出している銘柄は残高が小さい 112銘柄の平均0.88% 1社で大きく張っている形にはなっていない

売り建てが残る理由として代表的なものは、次のとおりです。

種類 内容 性質
転換社債の引受け・保有 転換社債を持ちながら、株価変動の影響を打ち消すために株を売り建てる 買いと売りがセット
顧客注文の反対側 機関投資家から「売りたい」という注文を受け、その反対側を一時的に持つ 通過点であり、方向感を持った売りではない
ETFとの価格差 ETFと組入銘柄の価格差を取るために、片方を買い片方を売る 両建て
増資・売出しの引受け 引き受けた株を売りさばくまでの間、価格変動を抑える 一時的に大きくなりやすい
貸株の在庫調整 株を貸す業務にともなう在庫の調整 需給の裏方
デリバティブの提供 顧客に売ったオプションなどのリスクを株の売買で打ち消す 売買を続けるため残高は日々動く

いずれも買いと組み合わせた取引です。それでも報告義務があるのは売りの側だけなので、外から見ると「売りだけを大量に持っている」ように見えます。買い持ちの側は、大量保有報告の基準である5%を超えるまで名前が出ません。制度の違いは大株主とは?で整理しています。

ただし、これは「この機関が下落を狙った売りを一切していない」という証明ではありません。報告書には理由が書かれていないため、外から確かめる方法がないというのが正確なところです。確実に言えるのは、公表されているのが残高だけだという事実です。

インバース型ETFとREITにも名前が出ている

報告されている377銘柄には、事業会社ではないものが6件含まれています。REITが5件、ETFが1件です。

銘柄(コード) 種類 残高割合
日経平均ダブルインバース連動型ETF(1357) ETF 2.13%
エスコンジャパンリート投資法人(2971) REIT 0.82%
スターツプロシード投資法人(8979) REIT 0.82%
霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A) REIT 0.68%
マリモ地方創生リート投資法人(3470) REIT 0.63%
MIRARTH不動産投資法人(3492) REIT 0.00%

注目したいのは、残高割合2.13%で報告されているETF(1357)です。正式名称は「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信」といいます。日経平均が下がると値上がりするように作られた、インバース型のETFです。

そのETFを空売りしているということは、形のうえでは「日経平均が下がると損をする」向きになります。個別銘柄を叩いて下げるという文脈とは、まったく別の取引です。

もっとも、これがどんな目的の取引なのかは報告書からは分かりません。ETFの設定・交換にともなうマーケットメイクや、他の商品と組み合わせた取引の一部である可能性があります。ここで言えるのは、空売り残高の一覧に載っているものすべてが「株価の下落を狙った売り」ではないという事実です。

REITが5件入っているのも同じ文脈で読めます。REITは公募増資による資金調達を繰り返す仕組みで、引受けにともなう売り建てが立ちやすい商品です。投資口の発行済口数が少ないため、金額が小さくても0.5%の基準に届きやすいという事情もあります。

上位8機関と比べるとどう違うか

同じ期間の報告を、機関ごとに並べます。

報告者 銘柄数 平均残高 年初来の中央値
1. バークレイズ・キャピタル 428 1.17% +7.4%
2. モルガン・スタンレーMUFG証券 377 1.22% +6.5%
3. ゴールドマン・サックス 319 1.07% +8.2%
4. 野村インターナショナル 204 0.84% +2.0%
5. JPM Securities Japan 130 0.94% +8.2%
6. メリルリンチ 87 0.84% +9.0%
7. UBS AG 70 0.74% +12.6%
8. 大和証券 61 0.93% −6.0%

銘柄数は428のバークレイズに次いで2番目、平均残高1.22%は上位のなかで最も高い水準です。1銘柄あたりの建て方がやや大きいという特徴があります。

ただし年初来の中央値を見ると、どの機関も似た水準に並んでいます。バークレイズ・キャピタルが+7.4%、モルガン・スタンレーMUが+6.5%、ゴールドマン・サックスが+8.2%、野村インターナショナルが+2.0%、JPM Securitiが+8.2%。「この機関に名前を出された銘柄だけが下がる」という差は出ていません。

また、他の機関と同じ銘柄に名前が出ていることも多くあります。

同じ銘柄に名前が出ている機関 重なっている銘柄数 377銘柄に占める比率
Barclays Capital Securities 152銘柄 40.3%
GOLDMAN SACHS INTERNATIONAL 124銘柄 32.9%
Nomura International plc 83銘柄 22.0%
JPM Securities Japan 62銘柄 16.4%
UBS AG 26銘柄 6.9%
MERRILL LYNCH INTERNATIONAL 25銘柄 6.6%

バークレイズとは152銘柄、ゴールドマン・サックスとは124銘柄が重なっています。複数の証券会社が同じ銘柄に同時に名前を出すのは珍しいことではありません。

1つの銘柄に何機関の名前が出ているかを数えると、次のようになります。

同じ銘柄に名前を出している機関の数 銘柄数 構成比
この機関だけ 112銘柄 29.7%
2機関 100銘柄 26.5%
3機関 78銘柄 20.7%
4機関 52銘柄 13.8%
5機関 18銘柄 4.8%
6機関 11銘柄 2.9%
7機関 4銘柄 1.1%
8機関 2銘柄 0.5%

残高は毎日動いている

空売り残高は固定されたものではありません。前回の報告と比べた増減を数えます。

前回報告との比較 銘柄数 構成比
前回より増えた 195銘柄 52.1%
前回より減った 179銘柄 47.9%
うち残高が0%になった 3銘柄 0.8%

増えたのが195銘柄、減ったのが179銘柄で、ほぼ半々です。一方向に積み上げているわけではなく、日々建てたり解消したりしています。

変化の大きかった銘柄を挙げます。

銘柄(コード) 前回 今回 増減
ZenmuTech(338A) 2.68% 3.58% +0.90
AIメカテック(6227) 4.52% 5.38% +0.86
精工技研(6834) 1.12% 1.97% +0.85
児玉化学工業(4222) 1.56% 2.34% +0.78
メタプラネット(3350) 3.30% 4.03% +0.73
MIRARTH不動産投資法人(3492) 1.48% 0.00% −1.48
タマホーム(1419) 1.22% 0.27% −0.95
イーソル(4420) 0.87% 0.00% −0.87
ナガワ(9663) 1.08% 0.22% −0.86
テスホールディングス(5074) 1.10% 0.40% −0.70

最も減ったのはMIRARTH不動産投資法人(3492)で、1.48%から0.00%になりました。0%になった報告は「残高が基準を下回った」という届け出で、買い戻しが終わったことを示します。

つまり一覧に名前が載っている状態は、その銘柄の固定的な性質ではありません。数週間で消えることもあります。1度名前を見ただけで判断せず、前回からの増減とあわせて見てください。

名前を見たときに確認したい5つのこと

保有している銘柄にこの機関の名前を見つけたとき、何を確認すればよいかを順番に整理します。

① 残高割合と金額を分けて見る

0.5%でも大型株なら数百億円、5%でも小型株なら数億円です。株価への重さを見るなら残高割合、その機関にとっての規模を見るなら金額です。一覧の並び順だけで「大量に空売りされた」と判断しないでください。

② 前回からの増減を見る

今回の集計でも、増えた銘柄と減った銘柄はほぼ半々でした。報告書には前回の残高割合も載っています。増えているのか、減っているのか、0%に向かっているのかで意味が変わります。

③ 他の機関も名前を出しているかを見る

この機関だけが名前を出している銘柄は112銘柄で、平均残高は0.88%でした。複数の機関が並んでいる銘柄のほうが、残高は大きくなる傾向があります。

④ 1日分のファイルで全体を判断しない

JPXの日次ファイルには、その日に報告があったぶんだけが載ります。今回の377件も計算年月日は3日に分かれていました。「今日のファイルに名前がない=解消した」ではありません。

⑤ 3つのモルガンを1つに足さない

1つの銘柄に、モルガン・スタンレーMUFG証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、Morgan Stanley & Co. International の名前が同時に出ることがあります。この3つは別の法人です。

合算して「モルガンが◯%売っている」と読むと、別々の理由で建てられた残高を、1つの意思のように見てしまいます。報告者の名前は末尾まで読んで区別してください。住所欄を見れば、東京から報告しているのかロンドンから報告しているのかも分かります。

この集計で分からない3つのこと

ここまでの数字は、すべて公表されている報告から計算したものです。逆に、この方法では分からないことも決まっています。

注意 内容
報告書に建値の欄がない いくらで売ったのかが分からないため、この機関がその売り建てで儲かっているかどうかも判断できない
0.5%に届かない売りは見えない 1度も0.5%に達していない売り建ては報告されない。一覧にない=売られていない、ではない(逆に、1度報告すると基準を下回るまで載り続けるため、0.5%未満の数字も出てくる)
日次ファイルは全体ではない その日に報告があったぶんだけが載る。銘柄と機関ごとに最新の計算年月日を残して集計する必要がある

この記事の集計も、上の3つの制約のなかで数えたものです。2026年8月26日から2026年9月2日に公表された報告を、銘柄と機関ごとに最新の1件だけ残して集計しています。

また、ここで示したのは公表されている残高という事実と、その読み方です。特定の機関の姿勢や意図を評価するものではありません。報告書に理由は書かれておらず、外から確かめる方法もないためです。

データそのものは日本取引所グループの「空売り残高に関する情報」で、誰でも無料でダウンロードできます。

モルガン・スタンレーMUFG証券の空売りに関するよくある質問

モルガン・スタンレーMUFG証券に空売りされている銘柄は、株価が下がるのですか。
今回のデータでは、そう言い切れる結果になっていません。名前が出ている377銘柄の年初来を調べると、上がったのが222銘柄、下がったのが155銘柄で、中央値は+6.5%でした。報告が出ている全1043銘柄の中央値+5.9%と比べても大きな差はありません。
モルガン・スタンレーMUFG証券と三菱UFJモルガン・スタンレー証券は同じ会社ですか。
別の会社です。どちらも2010年5月に発足した合弁会社ですが、モルガン・スタンレーMUFG証券は議決権ベースでモルガン・スタンレーが51%を持つ法人向け専業の証券会社、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は三菱UFJ側が60%を持ち、個人向けの営業店網を持つ証券会社です。JPXの空売り残高の報告には、両方の名前が別々に出てきます。
0.5%という報告の基準は、金額のことですか。
金額ではなく、発行済株式数に対する割合です。そのため時価総額の大きい銘柄では、0.5%でも数百億円規模になります。今回の集計でも、残高割合が0.64%しかない三菱重工業が、金額に直すと818.6億円で最大でした。
なぜ1つの証券会社がこれだけ多くの銘柄を空売りしているのですか。
顧客の注文や自社の在庫にあわせて、リスクを打ち消すための売り建てが残るためです。転換社債の引受け、ETFとの価格差、貸株の在庫調整、デリバティブの提供など、いずれも買いと組み合わせた取引です。公表されるのは売りの側だけなので、売りだけを大量に持っているように見えます。
空売り残高が減ったら、株価は上がりますか。
買い戻しは買い需要になりますが、それだけで株価が決まるわけではありません。今回の集計では、前回の報告と比べて残高が増えたのが195銘柄、減ったのが179銘柄で、ほぼ半々でした。日常的に増えたり減ったりしている数字です。
報告書を見れば、いくらで空売りしたか分かりますか。
分かりません。公表されるのは計算年月日・銘柄コード・銘柄名・報告者の名前・住所・空売り残高割合・残高数量だけです。建値を書く欄そのものが報告書にありません。そのため、この機関がいまその売り建てで儲かっているのか損をしているのかも、外からは判断できません。
1日分のファイルを見れば、その日の残高がすべて分かりますか。
分かりません。JPXが公表する日次のファイルには、その日に報告があったぶんだけが載ります。今回のモルガン・スタンレーMUFG証券の377件も、計算年月日は2026年8月31日・2026年9月1日・2026年9月2日に分かれていました。1日分だけを見て「増えた」「減った」と判断すると誤ります。
この会社はレポートを出して株価を下げる機関ですか。
系統が違います。企業の問題を指摘する調査レポートを公表して株価を動かす機関は、今回集計した39の機関に1社も入っていませんでした。詳しくは空売り機関の手口で整理しています。

まとめ

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社の空売り残高を、公表データだけで整理しました。

この記事のポイント

法人向け専業の合弁会社。議決権ベースでモルガン・スタンレー51%/三菱UFJ側49%
名前がよく似た3つの「モルガン」が同じ報告書に別々に載っている
・名前が出ているのは377銘柄(バークレイズに次いで2番目)。平均残高1.22%
・売り建ての合計は約7,926億円。最大は三菱重工業の約818.6億円(残高割合は0.64%)
割合が大きい銘柄と金額が大きい銘柄はまったく別
・377銘柄の年初来は上がった222/下がった155(中央値+6.5%)。全体の+5.9%と大差なし
・残高割合3%以上の23銘柄でも、年初来プラスが16銘柄
・前回比で増えた195/減った179とほぼ半々。残高は毎日動いている
インバース型ETFとREITにも名前が出ている(下落を狙った売りだけではない)

名前が並んでいること自体は、その銘柄が下がる理由になっていませんでした。一方で、報告書に載っているのは残高だけなので、ここから分かることにも限りがあります。

一覧の順位だけで動くのではなく、残高割合と金額の両方を見て、前回からどちらに動いたかを確かめる。そのうえで、その銘柄の利益と現金の動きが離れていないかを決算で確認する。この順番なら、機関の名前が出ていてもいなくても、同じ手順で判断できます。決算の読み方はキャッシュフローとは?で解説しています。

空売り機関そのものの仕組みや、調査レポートを公表して株価を動かす機関との違いは個人投資家を苦しめる空売り機関の手口で整理しています。

他の機関の空売り残高を見る

同じ報告データを、機関ごとに全数で数えたページを用意しています。同じ日のデータでも、機関によって形がまったく違います。

機関 銘柄数 その機関の特徴
バークレイズ 428銘柄 報告が出ている銘柄の41.0%に名前がある
ゴールドマン・サックス 319銘柄 銘柄数は3番目だが、売り建ての金額は最大
野村 225銘柄 東京とロンドンで1銘柄あたり5.6倍違う
JPモルガン証券 130銘柄 割合の上位10と金額の上位10に共通が0件
メリルリンチ 87銘柄 3%超えが1つもない
UBS 70銘柄 3分の2が報告ラインのすぐ上に集まっている

7機関の全体像と、空売り機関がどう見られているかは 空売り機関の手口|「悪の機関」と呼ばれる理由 にまとめています。

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