為替介入とは?決めるのは日銀ではない|過去最大11.7兆円が3か月で戻された検証

為替介入とは、政府と日銀が為替相場を動かすために、自ら円やドルを売買することです。正式には「外国為替平衡操作」といいます。円安が行きすぎたと判断すればドルを売って円を買い、円高が行きすぎたと判断すれば円を売ってドルを買います。

財務省が公表している1991年4月以降の全記録を集計すると、介入が実施された日は386日しかありませんでした。35年間の営業日数からすればごくわずかです。介入は毎日行われるものではなく、めったに使われない手段です。

この記事では、その386日ぶんの公式データを使って「介入は本当に効いたのか」を実際の為替レートで検証します。結論を先に書くと、過去最大の11兆7,349億円を投じた2026年4〜5月の介入は、60営業日後には介入前より円安に戻っていました。

この記事でわかること

・為替介入の仕組みと、決めているのが日銀ではなく財務大臣だということ
・1991年以降で介入した日は386日だけ。うち円買いは42日しかないこと
・円買い介入をした年は7年だけで、24年間まったくなかった時期があること
2026年の介入額が過去最大になっていること
6つの局面を検証すると、金額が最大だった介入がいちばん早く戻されたこと
・効果が続いた局面に共通していたもの
・2026年9月の円高が介入ではないこと
・介入があった日に日経平均がどう動いたか

※ この記事は制度とデータの解説であり、特定の取引を推奨するものではありません。介入額は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」、為替レートは終値どうしの比較です。

為替介入とは何か

為替介入は、相場が一方向に行きすぎたときに、その動きを止めるために使われます。目的は水準そのものを決めることではなく、急激な変動をならすことだと説明されています。

項目 内容
正式名称 外国為替平衡操作
円安を止めたいとき ドルを売って円を買う(円買い介入)
円高を止めたいとき 円を売ってドルを買う(円売り介入)
決める人 財務大臣(財務省)。日銀ではない
実行する人 日本銀行。財務大臣の指示を受けて売買を担当する
お金の出どころ 外国為替資金特別会計(外為特会)
公表 総額は月ごと、実施日と金額の内訳は3か月ごと

いちばん誤解されやすいのが「誰が決めているか」です。ニュースでは「政府・日銀が介入した」と伝えられるため日銀が主体のように見えますが、判断するのは財務大臣で、日銀は実務を担当する立場です。

ここは金融政策とはっきり分かれています。利上げや利下げを決めるのは日銀の金融政策決定会合ですが、介入を決めるのは財務省です。同じ「円安対策」でも、動かす主体も手続きもまったく別のものだと考えてください。日銀の会合については日銀金融政策決定会合で解説しています。

円買いと円売りでは、使えるお金の上限が違う

円買い介入と円売り介入は、方向が逆というだけではありません。決定的に違うのは、使えるお金に限りがあるかどうかです。

項目 円買い介入 円売り介入
狙い 円安を止める 円高を止める
やること 外貨準備のドルを売って円を買う 円を用意してドルを買う
上限 外貨準備の残高まで。弾切れがある 理論上は限りがない
1991年以降の実績 42日 / 41.13兆円 344日 / 80.99兆円
全体に占める日数 11% 89%

1991年以降の介入386日のうち、344日は円売りでした。全体の89%です。介入といえば円安を止めるものという印象がありますが、歴史的にはむしろ円高を止めるために使われてきた手段でした。

そして円買い介入には「弾切れ」があります。売れるドルは外貨準備の範囲内だからです。円売り介入は円を用意すればよいので理論上は限りがありません。この非対称性が、円買い介入の効き方に影響します。

円買い介入をした年は7年しかない

円買い介入を年ごとに数えると、実施された年は7年だけでした。

実施日数 金額
1991年 3日 0.06兆円
1992年 23日 0.72兆円
1997年 3日 1.06兆円
1998年 3日 3.05兆円
2022年 3日 9.19兆円
2024年 4日 15.32兆円
2026年 3日 11.73兆円

1998年から2022年まで、約24年間にわたって円買い介入は一度も行われませんでした。この間はむしろ円高が問題で、円売り介入のほうが繰り返されていました。

いまの円安局面で円買い介入が使われるようになったのは2022年からです。それ以前の20年以上を知っている人にとっては、円買い介入自体が久しぶりの出来事でした。

2026年の介入は過去最大になっている

金額でみると2026年は突出しています。財務省が日次で公表している2026年4〜6月期の11兆7,349億円に加えて、2026年7月30日から8月26日までに15兆3,993億円の介入があったと公表されています。

期間 介入額 備考
2026年4月28日〜5月27日 11兆7,349億円 日次の内訳も公表ずみ(4月30日・5月4日・5月6日)
2026年7月30日〜8月26日 15兆3,993億円 日次の内訳は2026年11月に公表される
2026年の合計 27兆1,342億円 2024年の年間15.32兆円の約1.8倍

1日あたりでも記録が出ています。2026年4月30日の6兆2,787億円は、円買い介入として過去最大の1日です。

実施日 金額 向き
① 2011/10/31 8.07兆円 円売り
② 2026/04/30 6.28兆円 円買い
③ 2024/04/29 5.92兆円 円買い
④ 2022/10/21 5.62兆円 円買い
⑤ 2026/05/06 4.68兆円 円買い
⑥ 2011/08/04 4.51兆円 円売り
⑦ 2024/05/01 3.87兆円 円買い
⑧ 2024/07/11 3.17兆円 円買い

最大の1日は2011年10月31日の8.07兆円ですが、これは円高を止めるための円売りです。円買いにしぼると2026年4月30日が最大になります。

外貨準備は実際に減っている

円買い介入は外貨準備のドルを売るので、介入した分だけ外貨準備が減ります。財務省が毎月公表している数字で確かめられます。

時点 外貨準備高 前月末比 補足
2026年3月末 13,747億ドル 介入の前
2026年4月末 13,830億ドル +83億ドル 4月30日の介入は決済の関係でまだ表れていない
2026年5月末 13,059億ドル -771億ドル 771億ドル減。同じ時期の介入11兆7,349億円とほぼ一致する
2026年7月末 12,871億ドル 3月末からは876億ドル減っている

5月末に771億ドル減っています。同じ時期の介入額11兆7,349億円を当時のレートで換算するとおよそ750億ドルで、ほぼ一致します。

外貨準備は米国債の値動きや為替の換算でも増減するため、減った分がすべて介入というわけではありません。ただし円買い介入が「残高を取り崩す行為」であることは、この数字から見て取れます。

介入は効いたのか|6つの局面を検証した

ここからがこの記事の本題です。2022年以降の円買い介入を6つの局面に分けて、介入の直前・直後・その後のドル円を並べました。

比べているのは終値どうしです。「20日後」「60日後」は営業日で数えています。

局面 介入額 介入の直前 介入の直後 動いた幅 60営業日後
2022年9月 2.84兆円 144.32円 142.28円 −1.41% 137.75円
2022年10月 6.35兆円 149.82円 148.89円 −0.62% 128.32円
2024年4〜5月 9.79兆円 158.22円 155.70円 −1.59% 153.89円
2024年7月 5.53兆円 161.61円 158.20円 −2.11% 146.84円
2026年4〜5月 11.73兆円 160.18円 156.51円 −2.29% 163.30円
2026年7〜8月 15.40兆円 163.30円 159.26円 −2.48% まだ60日たっていない

どの局面でも、介入した直後は円高方向に動いています。動いた幅は0.62〜2.48%でした。つまり「その場では効く」ことは共通しています。

分かれるのはそのあとです。60営業日後を見ると、4つの局面では円高が続いていたのに対し、1つの局面だけは介入前より円安に戻っていました。

過去最大の11.7兆円が、いちばん早く戻された

戻ってしまったのは2026年4〜5月の局面です。

項目 数字
介入額 11.73兆円(当時として過去最大)
介入の直前 160.18円
介入の直後 156.51円(2.29%の円高)
20営業日後 159.94円 すでにほぼ戻っている
60営業日後 163.30円 介入前より3.12円の円安

11.73兆円を使って2.29%の円高に動かしたのに、3か月後には介入前より円安になっていました。

金額と効果は比例していません。比較として、2024年7月の局面は5.53兆円と半分以下の金額でしたが、60営業日後は146.84円で、介入前の161.61円から14.77円の円高が続いていました。

同じ「円買い介入」でも、結果はここまで違います。では何が違ったのでしょうか。

効果が続いた局面に共通しているもの

効果が続いた4局面と、戻ってしまった局面を並べると、はっきりした違いがあります。

局面 結果 そのとき何が起きたか
2022年10月 効果が続いた 介入後に日銀が長期金利の運用を見直し、米国の利上げペースも鈍った
2024年7月 効果が続いた 介入の直後に日銀が利上げを決めた
2026年4〜5月 戻った 金融政策の転換がともなわなかった

効果が続いた局面は、いずれも金利の方向が変わった時期と重なっていました。介入だけで流れが変わった例は見当たりません。

理由は考えれば当然です。円安の背景に日米の金利差があるなら、金利差が変わらないかぎり同じ力がかかり続けます。介入は時間を買う手段であって、方向を決める手段ではないということです。金利と株価の関係は長期金利の記事で整理しています。

2026年9月の円高は介入ではない

直近の動きが、この見方をそのまま裏づけています。

2026年9月3日、円は1日で約4円上昇し、1か月ぶりに1ドル=155円台をつけました。ただしこれは介入によるものではありません。報道によれば、日銀の審議委員が連続した利上げや大幅な利上げの可能性に触れたことと、米FRBの利上げ期待が後退したことが理由とされています。

時点 ドル円 出来事
2026年7月28日 163.86円 2026年の終値でいちばんの円安
2026年7月30日〜8月26日 15兆3,993億円の介入
2026年8月26日 159.26円 介入の期間が終わった時点
2026年9月1日 160.20円 160円台に戻っていた
2026年9月3日 155円台 日銀の利上げ観測で1日に約4円の円高。介入なし

15兆3,993億円を投じた介入のあとに160円台へ戻り、その後わずか1日で4円の円高になりました。動かしたのは介入ではなく金利の見通しです。

ここまでの検証と完全に同じ構図です。介入は流れを止められませんでしたが、金利の見方が変わった1日で相場は大きく動きました。次の日銀の金融政策決定会合は2026年9月17日・18日で、市場では政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げるとの見方が8〜9割を占めています(日銀金融政策決定会合)。

※ 2026年9月に介入が行われたかどうかは、2026年9月30日の月次公表で確定します。現時点では当局からの発表はありません。

覆面介入と口先介入

介入には、実際にお金を使わないものと、使っても公表しないものがあります。

種類 お金 内容
口先介入 お金を使わない 「投機的な動きには断固たる措置をとる」といった発言で相場を牽制する。効果は一時的なことが多い
覆面介入 お金を使うが公表しない 実施した事実をその場では認めない。月次・四半期の公表で後から分かる
通常の介入 お金を使い、当局が認める 財務省の担当者が実施を認めるケース

覆面介入があるため、「介入があったかどうか」はその日には確定しません。市場では為替の急な動きから推測しますが、公式に分かるのは公表を待ってからです。

公表の仕組みは次のとおりです。総額は毎月末に、実施日と金額の内訳は3か月ごとに公表されます。2026年7月30日から8月26日の15兆3,993億円についても、どの日にいくら使ったのかは2026年11月まで分かりません。

介入があった日の株価はどう動いたか

円買い介入は円高方向に働くため、輸出企業には逆風になります。実際に介入があった日の日経平均を調べました。

介入日 介入額 前日の終値 当日の終値 前日比
2022/09/22 2.84兆円 27,313円 27,154円 −0.58%
2022/10/21 5.62兆円 27,007円 26,891円 −0.43%
2022/10/24 0.73兆円 26,891円 26,975円 +0.31%
2024/05/01 3.87兆円 38,406円 38,274円 −0.34%
2024/07/11 3.17兆円 41,832円 42,224円 +0.94%
2024/07/12 2.37兆円 42,224円 41,191円 −2.45%
2026/04/30 6.28兆円 59,917円 59,285円 −1.06%

7日のうち5日が下落し、平均は−0.52%でした。下げやすい傾向はありますが、必ず下げるわけではありません。介入と同じ日に別の材料が出れば、そちらが勝ちます。

もうひとつ気づくことがあります。2022年以降の円買い介入10日のうち3日は、東証が休場の日に行われていました。市場参加者が少ない日ほど、同じ金額でも相場を大きく動かせるためだと説明されています。

為替と株価の関係そのものは円高・円安は株価にどう影響する?、円安で恩恵を受ける業種は外需関連株とは?で解説しています。

これから何を見ればよいか

介入をめぐる話は、日程が決まっているものが多く追いかけやすいのが特徴です。

見るもの 時期 何が分かるか
財務省の月次公表 2026年9月30日 午後7時 2026年8月27日〜9月28日の介入総額。9月に介入があったかどうかが確定する
日銀の金融政策決定会合 2026年9月17日・18日 1.00%→1.25%の利上げ観測が8〜9割。為替への影響は介入より大きい
財務省の日次公表 2026年11月2日〜9日 7〜9月分。15兆3,993億円をどの日にいくら使ったかが分かる
外貨準備高 毎月上旬 円買い介入の「残弾」を測る数字
米国の金融政策 FOMCごと 日米の金利差が動くかどうか(FOMCとは?

とくに9月17日・18日の日銀の会合は、この記事で見てきた「効果が続いた局面の条件」に直接かかわります。介入の有無より、金利がどう動くかを見るほうが為替の方向をつかみやすくなります。

為替介入に関するよくある質問

為替介入とは何ですか。
政府と日銀が、為替相場を動かす目的で自ら円やドルを売買することです。正式には「外国為替平衡操作」といいます。円安が行きすぎたときはドルを売って円を買い、円高が行きすぎたときは円を売ってドルを買います。1991年4月以降で介入があったのは386日だけです。
誰が決めているのですか。日銀ですか。
決めるのは日銀ではなく財務大臣です。日銀は財務大臣の指示を受けて実務を担当します。金融政策決定会合とは別の話で、日銀が自分の判断で介入することはありません。「日銀が介入した」という言い方をよく見かけますが、正確には「政府(財務省)が決めて、日銀が実行した」です。
介入があったかどうかは、どこで分かりますか。
財務省が実績を公表します。総額は月ごとに毎月末、実施日と金額の内訳は3か月ごとに公表されます。つまり実施した瞬間には公式には分かりません。市場では為替の急な動きや日銀当座預金の見込みから推測しますが、確定するのは公表を待つ必要があります。
円買い介入と円売り介入は何が違うのですか。
使えるお金の上限が決定的に違います。円売り介入は円を用意すればよいので理論上は限りがありませんが、円買い介入は外貨準備のドルを売るため、残高の範囲内でしかできません。1991年以降の実績も円売りが344日(80.99兆円)に対し、円買いは42日(41.13兆円)と大きく偏っています。
介入すれば円安は止まりますか。
止まるとは限りません。この記事で6つの局面を調べたところ、2026年4〜5月の介入は過去最大の11兆7,349億円を使いながら、60営業日後には介入前より円安に戻っていました。一方で効果が続いた局面は、いずれも日米の金融政策が動いた時期と重なっていました。
介入のお金はどこから出ているのですか。
外国為替資金特別会計(外為特会)という国の会計です。円売り介入では政府短期証券を発行して円を調達し、円買い介入では外為特会が持っている外貨準備のドルを売ります。2026年5月末の外貨準備高は前月末から771億ドル減りました。これは同じ時期の介入額とほぼ一致します。
介入があると株価は上がりますか、下がりますか。
決まっていませんが、下げた日のほうが多くなっています。2022年以降の円買い介入のうち東証が開いていた7日を調べると、日経平均は5日で下落し、平均は−0.52%でした。円買い介入は円高方向に働くため、輸出企業には逆風になります。詳しくは外需関連株とは?で解説しています。
2026年9月に進んだ円高は、介入によるものですか。
当局は介入を実施したと発表していません。報道では、日銀の審議委員が連続利上げの可能性に触れたことと、米FRBの利上げ期待が後退したことが理由とされています。介入がなくても、金利の見方が変われば為替は大きく動きます。実際に介入があったかどうかは、2026年9月30日の月次公表で分かります。

まとめ

為替介入は、政府(財務大臣)が決めて日銀が実行する、めったに使われない手段です。1991年以降で介入した日は386日、うち円買いは42日しかありません。

この記事のポイント

・決めるのは日銀ではなく財務大臣。日銀は実行役
・1991年以降の介入は386日。うち円買い42日/円売り344日
・円買いは外貨準備の残高までしかできない(円売りは理論上は無制限)
・円買い介入があった年は7年だけ。1998年から2022年まで約24年の空白
・2026年の介入は27兆1,342億円で過去最大。1日の最大は2026年4月30日の6.28兆円
6局面を検証すると、金額が最大だった2026年4〜5月がいちばん早く戻された
・効果が続いた局面はいずれも金融政策が動いた時期と重なっていた
2026年9月の円高は介入ではなく、日銀の利上げ観測によるもの

介入は流れを止める手段であって、方向を変える手段ではありません。過去最大の金額を使っても3か月で戻った局面がある一方、金利の見方が変わった日には1日で4円動きました。

ニュースで「介入か」と報じられたときは、金額よりも「金融政策が動いているか」を先に確かめてください。そこが一致していない介入は、時間を稼ぐだけで終わることが多くなります。

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