セルインメイとは、「5月に売って market から離れろ」という英語圏の相場格言です。
読み方は「せるいんめい」。ところが日本で広まっているのは、この格言の前半だけです。
本来は「いつ戻ってくるか」まで指定した、二部構成の格言です。後半を知ると、意味がまったく変わります。
この記事でわかること
・セント・レジャー・デーとは何の日か
・米国版と英国版の違い
・由来となったロンドンの金融街の習慣
・ハロウィン効果との関係
・🔴 日本の5月に実際に起きていること
・検証するときに結果が変わる3つの落とし穴
・この格言どおりに売買するとどうなるか
セルインメイとは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | せるいんめい |
| 日本での理解 | 「5月に売れ」 |
| 本来の意味 | 「5月に売って、9月まで戻ってくるな」 |
| 発祥 | イギリス(ロンドンの金融街) |
| 分類 | 季節性のアノマリー |
| 現在の有効性 | 2010年代以降はほとんど機能していない |
この格言が有名になったのは、語呂がよく覚えやすいからです。
統計的な裏づけが強いから残ったわけではありません。まずは正しい全文を確認します。
格言には後半がある
英語圏で伝えられている形は、次のようなものです。
5月に売って、market から離れろ
セント・レジャー・デーまで戻ってくるな
つまりこの格言は、売る時期だけでなく「買い戻す時期」まで指定しています。
| 読み方 | 意味すること |
|---|---|
| 前半だけ | 5月は下がる、という予想になってしまう |
| 全文 | 夏は市場から離れて休め、という季節の助言 |
前半だけを切り取ると、意味が変わります。
全文で読めば、これは「5月に暴落する」という予想ではありません。「夏場は参加者が減って値動きが不安定になるから、その期間は休みなさい」という趣旨です。
格言としては休むも相場に近い性格を持っています。
なお表現にはいくつかのバリエーションが伝わっており、「come back on St Leger's Day」など細部の言い回しは資料によって異なります。
セント・レジャー・デーとは
金融用語ではありません。競馬のレース名です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | セント・レジャー・ステークス(St Leger Stakes) |
| 開催地 | イギリス・ドンカスター競馬場 |
| 時期 | 9月中旬ごろ |
| 位置づけ | イギリスのクラシック三冠の最終戦 |
| 格言での役割 | 社交シーズンの終わり=ロンドンへ戻る合図 |
当時のイギリスでは、社交行事のカレンダーが季節の区切りでした。
夏のあいだは競馬やヨットレースなどの行事が続き、それが終わるとロンドンへ戻る。その戻る合図として、この大レースが使われたわけです。
相場の統計から出てきた日付ではありません。ここが、この格言の性格を理解する鍵になります。
米国版と英国版
| 版 | 戻る時期 | 背景 |
|---|---|---|
| 英国版 | セント・レジャー・デー(9月中旬) | 社交シーズンの終わり |
| 米国版 | レイバーデー(9月第1月曜) | 夏休みの終わり |
| 別の言い方 | ハロウィン(10月31日) | ハロウィン効果として知られる |
どの版でも共通しているのは「夏のあいだは離れる」という点です。
戻る日付が9月なのか10月末なのかは、その国の生活習慣に合わせて変わっています。相場の統計に合わせて調整されたものではありません。
ハロウィン効果との関係
学術的な文脈では、ハロウィン効果という名前で扱われることがあります。
| 期間 | 呼び名 | 言われていること |
|---|---|---|
| 11月〜4月 | 好調期 | リターンが高い傾向があるとされてきた |
| 5月〜10月 | 不調期 | リターンが低い傾向があるとされてきた |
ただし「とされてきた」という点が重要です。
過去の一定期間を切り取ればそう見えるというだけで、将来も同じになる保証はありません。実際、近年の検証では成立しない年が続いています。
アノマリー全般がなぜ消えていくのかはアノマリーとはで詳しく扱っています。
なぜ夏が弱いと言われたのか
| 説明 | いまも成り立つか |
|---|---|
| 運用者が夏季休暇に入る | 弱い。24時間・世界中で取引される |
| ヘッジファンドの決算が重なる | 一定の説明力はあるが決定的ではない |
| 出来高が細り、値が振れやすい | これは今も観測されることがある |
| 格言が有名だから、皆が売る | 先回りされて時期がずれるので、自壊する |
最後の説明が、この格言の運命を決めています。
「5月に下がるなら4月に売ろう」と考える人が現れ、さらにその先回りをする人が出ます。結果として時期が前倒しになり、やがて傾向そのものが消えていきます。
日本の5月に実際に起きていること
格言の由来はイギリスですが、日本の5月にはそれとは無関係な、はっきりした事情があります。
| 出来事 | 株価への働き |
|---|---|
| 決算短信の発表 | 翌期予想が保守的だと、好決算でも売られる |
| 連休前のポジション整理 | 売り圧力になりやすい |
| 配当の権利落ち後 | 配当目的の買いがいったん引く |
| 材料出尽くし | 期待で買われていた銘柄の利益確定が出る |
つまり日本の5月が弱く見えるとしたら、それは季節のせいではありません。
決算発表という、最も大きな材料が集中している月だからです。会社が出す翌期予想が市場予想に届かなければ売られます。この仕組みはコンセンサスとはで扱っています。
いま通用するのか
| 論点 | 現状 |
|---|---|
| 2010年代以降の再現性 | 機能しない年が続いている |
| 前提となった習慣 | 24時間・世界中で取引される現在では成立しにくい |
| 知名度 | 有名すぎて先回りされる |
| 他の要因との比較 | 金融政策や企業業績のほうが遥かに大きく効く |
最後の項目が本質です。
金利の変更、企業業績の伸び、為替の水準。これらは「何月か」ということより、はるかに大きく株価を動かします。
年ごとの検証の詳細はアノマリーとはにまとめてあります。
検証するときの3つの落とし穴
「セルインメイは当たるのか」を自分で確かめようとすると、条件の設定で結果が変わります。
| 落とし穴 | 内容 |
|---|---|
| ① 期間の切り方 | 5月の始値か終値か、9月か10月末かで結果が変わる |
| ② 配当の扱い | 配当込みか除くかで、長期の差が大きく出る |
| ③ サンプル期間 | どの年から数えるかで結論が逆になる |
③がとくに深刻です。
「1990年から2010年まで」で検証すればセルインメイは有効に見え、「2010年以降」で検証すれば無効に見えます。都合のよい期間を選べば、どちらの結論も作れてしまいます。
年に1回しか試せない指標は、統計的に有意かを確かめる前に何十年もかかります。これがアノマリー検証の根本的な限界です。
格言どおりに売買するとどうなるか
| 起きること | 影響 |
|---|---|
| 売却益に課税される | 20.315%。毎年やれば複利効果が削られる |
| 売買手数料がかかる | 年2回の往復ぶん |
| 上がった年の機会損失 | 外れた年の上昇をまるごと取り逃がす |
| 配当を受け取れない | 夏の権利確定を逃す銘柄がある |
| 積立を止めてしまう | ドルコスト平均法の前提が崩れる |
当たった年の利益より、外れた年の損失のほうが大きくなりやすい構造です。
株式市場は長期では上昇してきたため、市場から離れている期間そのものがコストになります。NISA口座で売れば、その年の非課税枠を消費し直すことにもなります。
5月に本当にやるべきこと
5月にやる価値のあること
5月は日本株にとって、1年で最も情報が出る月です。
その情報を読まずにカレンダーだけで売買するのは、最も価値のある材料を捨てているのと同じです。
この格言をどう扱うか
| 扱い方 | 評価 |
|---|---|
| 売買の根拠にする | おすすめできない |
| 夏は無理をしないという心構え | これは有用 |
| 出来高が細る時期だと知っておく | 有用(板が薄くなる) |
| 相場の会話として知っておく | 有用(有名な格言なので通じる) |
格言は「行動の指示」ではなく「注意の喚起」として使うのが実務的です。
夏場は市場参加者が減って値が振れやすくなる。それを知っていれば、その時期に大きな持ち高を抱えないという判断ができます。これは売買ルールとは別の話です。
セルインメイに関するよくある質問
まとめ
セルインメイは「相場の統計」ではなく「イギリスの社交カレンダー」から生まれた言葉です。
この記事のまとめ
・前半だけだと「5月は下がる」という予想に読めてしまう
・全文なら「夏は市場から離れて休め」という季節の助言
・🔴 セント・レジャー・デーは競馬のレース名(9月中旬)
・米国版はレイバーデー、別の言い方ではハロウィン
・11月〜4月と5月〜10月を比べる形がハロウィン効果
・由来はロンドンの金融街の避暑の習慣。統計由来ではない
・🔴 日本の5月が動くのは、本決算が集中しているから
・有名になりすぎて先回りされ、時期がずれて自壊した
・検証は期間の切り方ひとつで結論が逆になる
・毎年実行すると税金・手数料・機会損失が積み上がる
・🔵 売買の根拠ではなく「夏は無理をしない」という心構えに使う
※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく解説であり、特定の銘柄や投資判断を推奨するものではありません。過去の傾向は将来の株価を保証するものではありません。
あわせて読みたい:アノマリーとは / 休むも相場 / 決算短信とは / コンセンサスとは / お化粧買いとは / リバランスとは / 人の行く裏に道あり花の山

