クロス取引とは、同じ銘柄に同じ数量の買い注文と売り注文を同時に出す取引です。株価が動いても損益がほぼ発生しません。
使われる目的は3つあります。株主優待の取得(優待クロス)、含み損の実現(損出し)、信用建玉の期日乗り換えです。
ただし「タダ取り」という呼び方は正確ではありません。手数料・貸株料・逆日歩・配当調整金というコストが必ずかかります。とくに逆日歩は事前に金額が分からず、優待の価値を超えることさえあります。
この記事でわかること
・優待クロスの手順と、実際にかかるコストの内訳
・一般信用と制度信用の決定的な違い(逆日歩の有無)
・権利付最終売買日に逆日歩が跳ね上がる理由
・損出しクロスで同じ日に買い戻すと効果が消える仕組み
・相場操縦とみなされないための注意点
目次
クロス取引とは?まず結論から
クロス取引(読み方:くろすとりひき)
クロス取引とは、同一銘柄について同じ数量の買い注文と売り注文を同時に出し、同じ価格で約定させる取引です。
買いと売りを同時に持つため、その後に株価が上がっても下がっても、両方の損益が打ち消し合います。
両方を同時に持てば、株価がどう動いても損益は相殺される
買い方と売り方それぞれの負担については買い方・売り方で整理しています。
クロス取引の3つの目的
| 目的 | 何をしたいのか | 実行する時期 |
|---|---|---|
| 優待クロス | 値下がりリスクなしで株主優待を取る | 権利付最終売買日まで |
| 損出し | 含み損を確定して利益と相殺する | 年末まで(受渡日基準) |
| 期日乗り換え | 制度信用の6か月の期限を延ばす | 返済期限が近づいたとき |
もっとも利用されているのは優待クロスです。以下ではこれを中心に説明します。
優待クロスの手順
株主優待は権利確定日に株主名簿へ載っていれば受け取れます。そのために必要なのが権利付最終売買日(権利確定日の2営業日前)までに買っておくことです。
ところが人気の優待銘柄は、その翌日(権利落ち日)に株価が下がりやすくなります。優待と配当の権利がなくなるためです。この下落を打ち消すのが優待クロスです。
③の現渡しを忘れると、金利や貸株料が発生し続けます。権利落ち日には必ず決済してください。
実際にかかるコストの内訳
「タダ取り」と呼ばれますが、実際には次のコストがかかります。
| コスト | 発生する取引 | 事前に分かるか |
|---|---|---|
| 売買手数料 | 現物買い・信用売り | 分かる |
| 貸株料 | 信用売り(日数分) | 分かる |
| 逆日歩(品貸料) | 制度信用の売りのみ | 分からない |
| 配当落調整金 | 信用売り(配当がある場合) | おおむね分かる |
配当落調整金は少し複雑です。現物では配当を受け取れますが、信用売りをしていると配当相当額を支払うことになります。受取配当は税引後、支払う調整金は配当の全額に相当するため、その差額が実質的な負担として残ります。
優待の価値がこれらの合計を上回るかどうかが、クロス取引を行うかの判断基準になります。優待利回りだけで判断すると、コストを見落とします。
一般信用と制度信用の決定的な違い
優待クロスで最も重要な選択がこれです。
| 項目 | 一般信用 | 制度信用 |
|---|---|---|
| 逆日歩 | 発生しない | 発生する(金額は事前に不明) |
| 貸株料 | 高め | 低め |
| 返済期限 | 証券会社が設定(無期限も) | 6か月 |
| 在庫 | 証券会社ごとに限りがある | 貸借銘柄なら基本的に可能 |
結論はシンプルです。優待クロスは一般信用で行うのが原則です。貸株料は高くなりますが、金額が事前に確定するためです。
制度信用は貸株料が安い代わりに、逆日歩という上限の読めないコストを背負うことになります。
逆日歩で損をする仕組み
逆日歩は、市場全体で株が不足したときに、空売りしている側が買い方に支払うコストです。
問題は上限です。日本証券金融の規定では最高料率が定められていますが、状況に応じてその倍率が引き上げられます。
| 状況 | 最高料率の倍率 |
|---|---|
| 権利落日の6〜2営業日前 | 2倍 |
| 権利付最終売買日 | 4倍 |
| 注意喚起と重複する場合 | 8倍 |
| 極めて異常な貸株超過 | 10倍 |
出典:日本証券金融「品貸入札、逆日歩、最高料率、応札ランク」
優待クロスを行うのはまさに権利付最終売買日です。その日は最高料率が4倍になります。優待目当ての売りが集中して株不足になりやすく、そこに4倍の上限が重なるため、想定外の金額になります。
「優待は3,000円相当なのに逆日歩が1万円だった」という事態は、この構造から生じます。制度信用でのクロスは、優待の価値を失うリスクがあると理解してください。
損出しクロスのやり方
損出しとは、含み損を抱えた株をいったん売却して損失を確定させ、その年の利益と相殺して税負担を減らす方法です。
売却しても同じ銘柄を持ち続けたい場合に、クロス取引が使われます。
損出しの基本形
→ 売却して40万円の損失を確定
→ 同じ年に確定した利益40万円と相殺
→ 利益にかかる税金(20.315%)の負担が軽くなる
期限にも注意が必要です。損益が計上されるのは約定日ではなく受渡日(約定の2営業日後)を基準に判定されます。年内に間に合わせるには、12月最終営業日の2営業日前までに約定させる必要があります。
同じ日に買い戻すと効果が消える
ここが損出しで最も間違えやすい部分です。
「売った直後に同じ株を買い戻せばいい」と考えがちですが、同一日に現物を売って現物を買い戻すと、損失額が想定より小さくなります。
株式の取得価額は、同一銘柄について平均して計算されます。同じ日に買い付けがあると、その買付価格を含めて平均取得単価が計算し直されるため、確定できる損失が圧縮されてしまうのです。
| やり方 | 結果 |
|---|---|
| 同じ日に現物を売って現物を買い戻す | 平均取得単価が下がり、損失が小さくなる |
| 現物を売り、同日に信用買いを入れて翌営業日以降に現引きする | 損失を全額確定でき、保有も継続できる |
| 現物を売り、翌営業日に買い戻す | 損失は確定するが、1日分の株価変動リスクを負う |
保有を続けたいなら2番目の方法になります。現物売りと信用買いを同じ日に行い、現引き(品受け)は翌営業日以降に回すのが基本形です。
※ 税務上の取扱いは口座区分や取引状況によって異なります。実行前に証券会社の説明を確認し、判断に迷う場合は税理士にご相談ください。
相場操縦とみなされないための注意
クロス取引そのものは違法ではありません。ただしやり方によっては仮装売買・馴合売買として規制の対象になり得ます。
避けるべき行為
・株価を意図的に動かす目的で不自然な価格に注文を出す
・出来高の少ない銘柄で、大量のクロス注文を繰り返す
・他人と通謀して同一価格・同一数量の売買を行う
優待取得や損出しといった正当な目的で、通常の価格帯で行う個人のクロス取引は問題になりません。気になる場合は、寄付の成行注文で市場価格に従って約定させるのが最も無難です。
クロス取引に向いている証券会社
優待クロスを行うなら、証券会社選びで結果が変わります。判断の基準は3つです。
選ぶときの3条件
・手数料が安いこと(クロスでは往復の手数料が直接コストになる)
・在庫が多いこと(一般信用の売り建てできる株数は証券会社ごとに限りがある)
在庫は人気銘柄ほど早く無くなります。権利付最終売買日の当日では間に合わないことが多いため、複数の証券会社に口座を持ち、在庫が出るタイミングを分散して押さえるのが現実的です。
※ 手数料体系や一般信用の取扱条件は変更されることがあります。最新の条件は各社の公式サイトでご確認ください。
※ 本記事は手法の解説であり、特定の銘柄や取引を推奨するものではありません。信用取引には元本を超える損失が生じるおそれがあります。税務上の取扱いは個別の事情により異なるため、判断に迷う場合は税理士等の専門家にご相談ください。
クロス取引に関してよくある質問
まとめ
この記事のまとめ
・目的は優待取得・損出し・期日乗り換えの3つ
・「タダ取り」ではなく、手数料・貸株料・配当落調整金・逆日歩がかかる
・優待クロスは一般信用が原則。制度信用は権利付最終売買日に逆日歩が4倍になる
・決済は現渡しが基本。忘れるとコストが増え続ける
・損出しで同じ日に買い戻すと、平均取得単価が下がり損失が圧縮される
クロス取引は「リスクを消す」手法であって「儲かる」手法ではありません。かかるコストを先に計算し、優待や節税の効果がそれを上回るときだけ実行してください。










