ゴールド・シルバー暴落の原因はJPモルガンか|データで検証

2026年1月30日、金は1日で−11.37%、銀は−31.35%下げました。どちらも2000年以降で最大の下落率です。

SNSでは「JPモルガンが仕掛けた」という説が広く拡散しました。この記事では、その説をデータで検証します。

まず、何が起きたのかを数字で確認します。

2026年1月30日 前日比 2000年以降の順位
−11.37% 1位(2位は2013年の−9.35%)
−31.35% 1位(2位は2011年の−17.75%)

銀の−31.35%は、2位の下落率の1.8倍という異常な数字です。

ここまで極端だと「誰かが意図的に売った」と考えたくなります。ただし検証すると、その説では説明がつかない事実がいくつも出てきます。

この記事でわかること

2026年1月30日に何が起きたか(日次の独自集計)
金と銀の下落率ランキング(2000年以降)
・JPモルガン主犯説が広まった理由
その説では説明できない4つの事実
・報じられている本当のきっかけ
8か月たった現在の水準
・なぜ銀は金より大きく下げたのか
・貴金属の急落から株式投資が学べること

※ この記事は公開データに基づく検証であり、特定の企業や個人の行為を断定するものではありません。また特定の商品の売買を推奨するものでもありません。

【独自集計】2026年1月30日前後の値動き

日付 金(ドル) 前日比 銀(ドル)
1月26日 5,079.7 115.08
1月28日 5,301.6 +4.36% 113.11
1月29日 5,318.4 +0.32% 114.04
1月30日 4,713.9 −11.37% 78.29
2月2日 4,622.5 −1.94% 76.78
2月3日 4,903.7 +6.08% 83.04
2月9日 5,050.9 +2.01% 82.07
3月26日 4,375.5 この局面の安値 67.67

出典:金(GC=F)・銀(SI=F)の日足終値(Yahoo!ファイナンス)をもとに独自集計。

金は1月29日に5,318.4ドルという最高値をつけた翌日に、−11.37%下げています。銀は1月26日の115.08ドルが最高値でした。

注目したいのは、1月30日で終わっていない点です。2月に一度戻したものの、下落は3月まで続き、3月26日に金4,375.5ドル・銀67.67ドルまで下げました。

高値からどれだけ下げたか

項目
最高値(終値) 5,318.4
(1月29日)
115.08
(1月26日)
この局面の安値 4,375.5
(−17.7%)
67.67
(−41.2%)
2026年8月末の水準 4,510.6
(高値比 −15.2%
67.30
(高値比 −41.5%

銀は暴落から7か月たっても、まだ高値の−41.5%の水準にあります。3月の安値からほとんど戻っていません。

JPモルガン主犯説が広まった理由

言われていること 背景
大手金融機関が価格を操作している 貴金属の市場では大口の取引が価格に影響しやすい
「銀の天井」を事前に指摘していた JPモルガンは下落を予測するレポートを出していたと報じられている
過去に不正取引の問題があった 貴金属取引をめぐる過去の事案が記憶に残っている
下落幅が異常だった 通常の値動きでは説明しにくい規模だった

説が広まった最大の要因は、事前に下落を予測していたという点だと考えられます。

ただし「予測していたこと」と「引き起こしたこと」は別です。この区別が、検証の出発点になります。

この説では説明できない4つの事実

事実 なぜ説明がつかないか
① 1日で終わっていない 下落は3月まで約2か月続いた。仕掛けなら、売り終われば止まるはず
② 7か月たっても戻っていない 銀は現在も高値比−41.5%。一時的な売り崩しなら価格は戻る
③ 金と銀が同時に下げた 別々の市場で同時に起きている。共通の外部要因を示唆する
④ 直前に急騰していた 1月28日に金が+4.36%。過熱した状態からの反落という形

①と②がとくに重要です

単一の主体が売って価格を崩したのなら、売り終えた時点で下落は止まり、その後は買い戻しで価格が戻ります。

実際に起きたのは逆でした。
・1月30日の後、2月に一度戻したが3月にさらに安値を更新
・7か月たった現在も銀は高値比−41.5%のまま

🔵 これは「誰かが売った」ではなく、市場全体が価格の前提を見直した形に近い動きです。

報じられているきっかけ

複数の報道では、この急落の引き金としてケビン・ウォーシュ氏のFRB議長指名が挙げられています。

段階 起きたこと
① 人事 インフレ抑制に厳しい姿勢で知られる人物が次期議長に指名された
② 金利の見通し 金融引き締めが続くという見方が強まった
③ ドル高 ドルが買われた
④ 金・銀の下落 利息を生まない資産の魅力が下がり、売られた

金や銀は利息や配当を生みません。だから金利が上がると、預金や債券に対して相対的に不利になります。

この経路なら、金と銀が同時に下げたことも、下落が長引いたことも説明がつきます。金利の見通しは一度の売買で終わる話ではないためです。

金利と資産価格の関係は金利が上がると株価はどうなるかの記事でも扱っています。

なぜ銀は金より大きく下げたのか

理由 内容
① 市場が小さい 金より市場規模が小さいため、同じ売り注文でも価格が大きく動く
② 産業用の需要がある 銀は工業製品にも使われるため、景気の見通しにも左右される
③ 投機的な資金が多い 値動きが大きいぶん短期資金が集まりやすく、逃げるときも速い

①が最大の理由です。市場が小さいほど、同じ量の売買で価格が大きく動きます。

これは株式でも同じ構造で、出来高の少ない銘柄ほど値動きが荒くなります。詳しくは出来高の記事で解説しています。

この一件から株式投資が学べること

学べること 中身
① 犯人捜しは判断を止める 「誰かのせい」で説明が終わると、本当の理由を調べなくなる
② 急落は1日で終わらない 金・銀とも、1月30日の後にさらに安値を更新した
③ 戻らないこともある 銀は7か月たっても−41.5%。「いつか戻る」は保証ではない
④ 高値の直前は加速する 1月28日に金は+4.36%上げていた。最後の急騰が天井だった

④は株式でも繰り返し起きる形です。買いたい気持ちが最も強くなる場面が、実際には最も危ない場面になっていることがあります。

急騰と急落の関係についてはメルトダウン・メルトアップの記事で、日経平均のデータをもとに扱っています。

よくある質問

JPモルガンが金・銀を暴落させたのですか?
公開されている値動きのデータからは、その説を裏づけることはできません。単一の主体が売り崩したのであれば、売り終えた時点で下落は止まり、価格は戻るはずです。実際には1月30日の後も下落が続き、3月26日にさらに安値を更新しています。そして7か月たった現在も銀は高値比−41.5%のままです。同社が事前に下落を予測するレポートを出していたと報じられていますが、予測していたことと引き起こしたことは別の話になります。
2026年1月30日の下落はどのくらい異常だったのですか?
2000年以降で最大でした。金が−11.37%、銀が−31.35%で、どちらも1位です。金の2位は2013年4月15日の−9.35%、銀の2位は2011年9月23日の−17.75%なので、とくに銀は2位の1.8倍という水準になります。過去に例のない下落率だったことは事実です。
暴落のきっかけは何だったのですか?
複数の報道ではケビン・ウォーシュ氏のFRB議長指名が引き金として挙げられています。インフレ抑制に厳しい姿勢で知られる人物が指名されたことで金融引き締めが続くという見方が強まり、ドルが買われました。金や銀は利息や配当を生まないため、金利が上がると預金や債券に対して相対的に不利になります。この経路であれば、金と銀が同時に下げたことも、下落が長引いたことも説明がつきます。
なぜ銀のほうが大きく下げたのですか?
最大の理由は市場規模の小ささです。金より市場が小さいため、同じ量の売り注文でも価格が大きく動きます。加えて銀は工業製品にも使われるため景気の見通しにも左右され、値動きの大きさから短期の投機資金も集まりやすくなっています。これは株式でも同じ構造で、出来高の少ない銘柄ほど値動きが荒くなります。
金・銀の価格はもう戻ったのですか?
金は戻りつつありますが、銀は戻っていません。2026年8月末時点で、金は高値比−15.2%、銀は−41.5%です。銀は3月26日につけた安値67.67ドルからほとんど動いておらず、7か月にわたって低い水準にとどまっています。「暴落しても時間がたてば戻る」とは限らないという例になっています。
大手金融機関は価格を操作できるのですか?
大口の取引が価格に影響を与えることはあります。とくに市場規模の小さい商品ではその度合いが大きくなります。ただし影響を与えることと、数か月にわたる価格水準を決めることは別です。今回のように7か月続く下落は、単一の主体の売買では維持できません。個別の事案について断定はできませんが、値動きのデータから読み取れるのは「市場全体が価格の前提を見直した」という形に近い動きです。
SNSで拡散する「主犯説」はどう扱えばいいですか?
確認できる事実と、推測を分けて読むことです。今回であれば「1月30日に金が−11.37%下げた」は検証できる事実ですが、「誰が下げたか」は公開データからは特定できません。犯人が特定できたつもりになると、そこで調べるのをやめてしまうという問題があります。実際には金利の見通しという、次に生かせる要因が背景にありました。
株式投資にとって学べることはありますか?
4つあります。①急落を「誰かのせい」で説明すると、本当の理由を調べなくなる ②急落は1日で終わらない(金・銀とも3月まで下げ続けた)③戻らないこともある(銀は7か月たっても−41.5%)④高値の直前は加速する(1月28日に金は+4.36%上げていた)——です。とくに④は株式でも繰り返し起きる形で、買いたい気持ちが最も強くなる場面が、実際には最も危ない場面になっていることがあります。

まとめ|予測と実行は別

この記事の要点
2026年1月30日、金−11.37%・銀−31.35%。ともに2000年以降で最大
銀の下落率は2位(2011年の−17.75%)の1.8倍
下落は1日で終わらず3月26日まで続いた(金−17.7%、銀−41.2%)
7か月後の現在も銀は高値比−41.5%。売り崩しなら価格は戻るはず
報じられているきっかけはFRB議長人事と金利の見通し
予測していたことと、引き起こしたことは別

下落の規模が異常だったのは事実です。ただし「誰かが仕掛けた」という説明は、その後7か月にわたって価格が戻っていないという事実と噛み合いません。

相場が理解しにくい動きをしたとき、犯人を特定できたと感じると安心できます。ただしそこで調べるのをやめてしまうと、次に同じことが起きたときに何も準備ができていない状態になります。今回の場合、金利の見通しという次に生かせる要因が背景にありました。

※ 本記事の価格データは金(GC=F)・銀(SI=F)の日足終値(Yahoo!ファイナンス)に基づく独自集計で、2026年8月末時点のものです。急落のきっかけに関する記述は各種報道に基づきます。特定の企業や個人の行為を断定するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

スポンサーリンク

Xでフォローしよう

おすすめの記事