社長のX(旧Twitter)は投資に使えるか?探し方と注意点

上場企業の社長や創業者のX(旧Twitter)は、投資判断の材料として使えます。ただし「業績に直結する重要情報」を取る目的では使えません。制度上、そうならないようになっているためです。

2018年4月に施行されたフェア・ディスクロージャー・ルールという決まりがあります。上場企業が未公表の重要情報を特定の相手に伝えるときは、同時に、あるいは速やかに全体へ公表しなければならないという制度です。

そして重要なのがここです。SNSでの発信は、この「公表」の手段として認められない公算が高いとされています。

つまり社長のXに決算や新規事業の重要情報が先に出ることは、制度上あってはならないということになります。もし出ていたら、それはスクープではなく問題事案です。

では見る意味がないのか。そんなことはありません。取れる情報の種類が違うだけです。この記事では、何が取れて何が取れないのかを整理します。

この記事でわかること

経営者のSNSから「重要情報」が取れない制度上の理由
・フェア・ディスクロージャー・ルールとは何か
・それでも経営者の発信を見る価値がある3つのこと
アカウント一覧をフォローしても意味がない理由
・自分で正しいアカウントを探す手順
・なりすましと投資詐欺の見分け方
・経営者の発信で株価が動いたとき、何が起きているのか
・使うときのチェックリストとよくある質問

経営者のSNS発信とは

上場企業の社長・会長・創業者が、自分名義のアカウントで発信することは珍しくなくなりました。とくに創業者が経営を続けているオーナー企業では、経営者本人の発信量が多い傾向があります。

投資家がこれを見る動機は明確です。決算資料には書かれない「経営者が何を考えているか」を知りたいということです。

ただし、その期待には制度上の天井があります。

期待していること 実際に取れるか
決算の中身を早く知りたい 取れない。制度上あってはならない
新規事業やM&Aの予告 取れない。同上
業績予想の修正 取れない。適時開示の対象
経営者の考え方・判断の軸 取れる
事業への温度感・優先順位 取れる
不祥事・トラブル時の姿勢 取れる。しかも最も価値が高い

フェア・ディスクロージャー・ルールという制度

フェア・ディスクロージャー・ルール(読み方:ふぇあでぃすくろーじゃーるーる)

金融商品取引法第27条の36に定められた制度で、2018年4月に施行されました。英語の頭文字からFDルールとも呼ばれます。

項目 内容
根拠法 金融商品取引法 第27条の36
施行 2018年4月
目的 一部の投資家だけが先に情報を得る状態をなくす
対象者 上場会社等の役員・従業員など、業務に関して情報を伝える者
求められること 意図的な伝達は同時に、意図しない伝達は速やかに公表
SNSの扱い 公表手段として認められない公算が高い

SNSが公表手段として認められにくい理由は、誰もが等しくアクセスできる状態とは言えないからです。フォローしていなければ流れてきませんし、アルゴリズムによって表示のされ方も変わります。企業のウェブサイトや適時開示システムとは、届き方が根本的に違います。

結果として、上場企業は次の運用になります。

重要情報
適時開示システム(TDnet)と自社サイト

ここで初めて公表される

SNS
公表後の補足、日常の発信、考え方の共有

重要情報は流せない

この構造を知っているかどうかで、SNSの見方が変わります。「重要情報を早く取ろう」という目的で見ている限り、時間を無駄にすることになります。

それでも経営者の発信を見る価値がある3つのこと

制度上の限界を踏まえたうえで、実際に価値がある情報を整理します。

取れるもの なぜ価値があるか
① 資本の使い方に対する考え方 配当・自社株買い・投資のどれを優先するか。長期の株主還元姿勢が見える
② 事業の優先順位 何に時間を使っているか。決算資料の建前と実際のズレが出る
③ 逆風のときの振る舞い 最も価値が高い。不祥事・株価急落時に説明するか、沈黙するか

とくに③は、決算資料からは絶対に読み取れません。業績が良いときに前向きなことを言うのは誰でもできます。問題が起きたときに、自分の言葉で状況を説明できるかどうか——ここに経営の姿勢が出ます。

逆に注意したいのが、株価について頻繁に言及する経営者です。株価は結果であって経営目標ではありません。日々の値動きに反応している経営者は、事業より市場を見ている可能性があります。

アカウント一覧をフォローしても意味がない理由

「上場企業の社長アカウント一覧」のようなリストは、以前からよく作られてきました。ただし、この形式には構造的な欠陥があります。

一覧が使えなくなる5つの理由

① 社長が交代する… 元社長のアカウントを追っても意味がない
② 会社が上場廃止になる… MBOや買収で市場から消える
③ アカウントが削除・非公開になる… 本人の判断でいつでも起きる
④ ユーザー名が変更される… URLが変わりリンクが切れる
⑤ なりすましが混入する… 一覧の形式では見分けがつかない

とくに⑤が危険です。一覧に並んでいるというだけで「検証済み」だと錯覚してしまうためです。実際には、一覧を作った時点では本物でも、その後に本人がアカウントを消し、同じユーザー名を第三者が取得できてしまうことがあります。

金融情報において、更新されない名簿は時間とともに危険物になっていきます。だからこの記事では一覧を掲載せず、自分で正しいアカウントに辿り着く方法を扱います。

正しいアカウントを自分で見つける手順

確実なのは、企業の公式情報から辿ることです。検索してヒットしたアカウントをそのままフォローするのは避けてください。

手順 やること
企業の公式サイトのIRページを開く
公式SNSアカウントの記載を探す(フッターやIR情報の欄にあることが多い)
会社の公式アカウントから、経営者アカウントへの言及を辿る
決算説明会の資料・動画に本人のアカウントが出ていないか確認する
見つからなければ「発信していない」と判断する。無理に探さない

⑤が重要です。公式に確認できないアカウントは、本物でない可能性を常に含みます。投資判断に関わる場面で、確認できないものを材料にする理由はありません。

なりすましと投資詐欺を見分ける

経営者の名前を騙るアカウントは、実際に大量に存在します。そして被害額は増え続けています。

SNS型投資詐欺(2025年) 数値
認知件数 9,538件(前年比+48.7%)
被害額 1,274.7億円(前年比+46.3%)
きっかけ DM経由3,576件・広告経由3,760件で約8割

出典:警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」

被害の約8割が、DMと広告から始まっています。そして詐欺で最も使われる手口のひとつが、実在する著名な経営者の名前と写真を使うことです。

危険なサイン なぜ危険か
DMを送ってくる 本物の上場企業経営者が個人にDMで投資を勧めることはない
別アプリやグループへ誘導する 記録が残らない場所へ移すのが常套手段
利益率や元本保証を語る 金融商品取引法上、そもそも問題のある勧誘
アカウント作成が最近 本人なら発信の履歴が積み上がっている
会社の公式サイトに記載がない 最も確実な判定基準
未公表の業績や材料を語る 本物ならFDルール違反。偽物なら詐欺。どちらでも近づかない

最後の行が、この記事の要点をそのまま示しています。「未公表の情報を語る経営者アカウント」は、本物でも偽物でも関わってはいけません。

SNS全般での情報の扱い方は株のX(旧Twitter)活用術で詳しく扱っています。

経営者の発信で株価が動いたとき、何が起きているのか

経営者の投稿がきっかけで株価が動くことは実際にあります。ただしその中身は、多くの場合「情報」ではありません。

起きていること 中身 持続性
注目度が上がった 拡散されて認知が広がっただけ 短い
既出情報の再確認 開示済みの内容を経営者が補足した 中程度
姿勢が伝わった 株主還元や事業方針への本気度が読み取れた 長い
炎上・失言 ブランド毀損への懸念 内容次第で長引く

1行目の「注目度が上がっただけ」が最も多く、そして最も危険です。材料が増えていないのに株価だけが動いている状態であり、関心が薄れれば元の水準に戻ります。

SNSをきっかけに急騰した銘柄に飛び乗る危険についてはジャンピングキャッチも参考になります。

使うときのチェックリスト

経営者の発信を投資判断の補助として使うなら、次の順序を守ると安全です。

この順番で使う

① 決算短信と有価証券報告書を先に読む
 数字が土台。SNSは土台の上に乗せる補助情報

② アカウントの真正性を公式サイトで確認する
 確認できないものは使わない

③ 1年分をさかのぼって読む
 直近の投稿だけでは判断できない。逆風のときの発信を必ず見る

④ 投稿を売買のきっかけにしない
 使うのは「この会社を長く持てるか」の判断材料としてのみ

⑤ DMが来たら即ブロック
 例外なし。本物の経営者が個人に投資の話でDMを送ることはない

③を補足します。好調なときの発信は、どの経営者も似たような内容になります。差が出るのは業績が悪化したときや、不祥事が起きたときです。そこで沈黙するのか、自分の言葉で説明するのか。1年分をさかのぼれば、その場面がひとつは見つかるはずです。

経営者のSNSに関するよくある質問

社長のXをフォローすれば決算を早く知れますか?
知ることはできません。フェア・ディスクロージャー・ルールにより、上場企業は未公表の重要情報を特定の相手にだけ伝えることが制限されています。またSNSは重要情報の公表手段として認められない公算が高いとされているため、決算や業績修正がSNSに先に出ることは制度上あってはならないことになります。もし出ていた場合は、本物なら制度上の問題事案、偽物なら詐欺の可能性が高い状況です。
上場企業の社長アカウントの一覧はどこにありますか?
この記事では一覧を掲載していません。社長の交代、上場廃止、アカウントの削除や名称変更、なりすましの混入といった理由で、一覧形式は時間とともに正確性を失うためです。とくに危険なのは、本人が削除したユーザー名を第三者が取得できる点で、古い一覧に載っているというだけで本物だと錯覚する状態が生まれます。企業の公式サイトのIRページから辿るのが確実です。
フェア・ディスクロージャー・ルールとは何ですか?
金融商品取引法第27条の36に定められた制度で、2018年4月に施行されました。上場会社等が未公表の重要情報を証券会社や特定の投資家に伝える場合、意図的な伝達なら同時に、意図しない伝達なら速やかに、その情報を公表しなければならないという決まりです。一部の投資家だけが先に情報を得る状態をなくすことが目的で、対象は役員に限らず社内で重要情報を知る広い範囲の関係者とされています。
経営者のSNSから何がわかりますか?
資本の使い方に対する考え方、事業の優先順位、そして逆風のときの振る舞いの3つです。とくに価値が高いのは3つ目で、業績が悪化したときや不祥事が起きたときに自分の言葉で説明するかどうかは、決算資料からは読み取れません。反対に、株価そのものについて頻繁に言及する経営者は、事業より市場を見ている可能性があるため注意が必要です。
なりすましアカウントはどう見分けますか?
最も確実なのは企業の公式サイトに記載があるかどうかです。そのうえで、DMを送ってくる、別のアプリやグループへ誘導する、利益率や元本保証を語る、アカウントの作成が最近である、といった特徴があれば危険と判断してください。とくにDMは決定的で、本物の上場企業経営者が個人投資家に投資の勧誘をDMで送ることはありません。
SNS型の投資詐欺はどのくらい起きていますか?
警察庁の統計によると、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,538件で前年比48.7%増、被害額は1,274.7億円で前年比46.3%増となっています。きっかけはDM経由が3,576件、広告経由が3,760件で、合わせて全体の約8割を占めます。実在する著名な経営者の名前と写真を使う手口が多いため、経営者アカウントを探す行為そのものにリスクが伴う点は認識しておく必要があります。
経営者の投稿で株価が動いたら買っていいですか?
慎重に判断してください。投稿による株価変動の多くは、新しい情報が加わったのではなく注目度が上がっただけです。この場合は関心が薄れると元の水準へ戻ります。持続性があるのは株主還元や事業方針への本気度が伝わったケースで、これは投稿ひとつではなく継続的な発信から判断するものです。値動きを見てから飛び乗る形になりやすい点にも注意が必要です。
Twitterという名称は今も使いますか?
2023年7月にサービス名が「X」へ変更されているため、現在は「X(旧Twitter)」と表記するのが一般的です。URLもx.comが正式なものになっています。古い記事やまとめページがtwitter.comのリンクのままになっている場合、その情報自体が長期間更新されていない可能性が高く、掲載されているアカウントの状況も現在と異なると考えたほうが安全です。

まとめ

経営者のSNSは「情報を早く取る場所」ではなく「人物を長く観察する場所」です。

制度上、重要情報はSNSに出てきません。出てきたとしたら、それは本物なら問題事案で、偽物なら詐欺です。期待する種類を間違えなければ、経営者の発信は長期保有の判断において有用な材料になります。

この記事のまとめ

経営者のSNSから未公表の重要情報は取れない。制度上そうなっている
・根拠はフェア・ディスクロージャー・ルール(2018年4月施行・金商法27条の36)
・SNSは重要情報の公表手段として認められない公算が高い
・取れるのは「考え方」「事業の優先順位」「逆風のときの振る舞い」
最も価値があるのは、業績悪化時に説明するかどうか
・アカウント一覧は交代・上場廃止・削除・なりすましで正確性を失う
・確実なのは企業の公式サイトのIRページから辿ること
・確認できないアカウントは使わない
・SNS型投資詐欺は2025年で9,538件・1,274.7億円。DMと広告が約8割
未公表情報を語る経営者アカウントは、本物でも偽物でも近づかない

※ 本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく解説であり、特定の銘柄や投資判断を推奨するものではありません。制度の詳細や運用は変更される可能性があります。

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