減価償却とは、高額な資産の購入代金を、その資産を使う年数にわたって少しずつ費用にしていく会計処理のことです。
読み方は「げんかしょうきゃく」。投資家にとって重要なのは、これが「現金が出ていかない費用」だという点です。
利益は減るのに、お金は減らない。この性質を知らないと、決算書の数字を読み違えます。
この記事でわかること
・🔴 現金が出ていかない費用という性質
・定額法と定率法で利益がどう変わるか
・耐用年数の決まり方と、10万円・20万円・30万円の区切り
・決算書のどこに載るか(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)
・減価償却累計額と純額の読み方
・🔴 償却が終わると利益が急に増える理由
・設備投資額と減価償却費を比べて分かること
目次
減価償却とは
1億円の機械を買ったとき、その1億円をその年の費用に全部計上するわけではありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | げんかしょうきゃく |
| 意味 | 資産の代金を、使う年数にわたって費用に配分すること |
| 対象になる資産 | 建物、機械、車両、工具器具備品、ソフトウェアなど |
| 対象にならない資産 | 土地(時の経過で価値が減らないため) |
| 配分する年数 | 耐用年数(税法で資産ごとに決まっている) |
| 投資家にとっての要点 | 現金が出ていかない費用 |
土地が対象外なのは、使っても価値が減らないと考えられているからです。
建物は50年経てば古くなりますが、その下の土地は古くなりません。減価償却は「時間とともに価値が減る資産」だけが対象です。
なぜ一括で費用にしないのか
理由は「収益と費用を対応させるため」です。
| 年 | 一括で費用にした場合 | 減価償却した場合 |
|---|---|---|
| 1年目 | 7,000万円の赤字 | 2,000万円の黒字 |
| 2年目以降 | 3,000万円の黒字 | 2,000万円の黒字 |
| 見え方 | 業績が乱高下して実力が読めない | 毎年の実力が比較できる |
一括で費用にすると、設備投資をした年だけ大赤字になります。
その機械は10年間稼ぐのに、費用だけ初年度に集中してしまう。これでは会社の実力を年ごとに比べられません。そこで費用を10年に分けて、その年の売上と対応させます。
現金が出ていかない費用という性質
ここが投資家にとって最も重要な部分です。
| 年 | 実際に払った現金 | 損益計算書に載る費用 |
|---|---|---|
| 購入した年 | 1億円 | 1,000万円 |
| 2年目 | 0円 | 1,000万円 |
| 3〜10年目 | 0円 | 毎年1,000万円 |
2年目以降、この会社は機械のために現金を1円も払っていません。
それでも損益計算書には毎年1,000万円の費用が並びます。つまり利益は1,000万円ぶん低く表示されているのに、その現金は手元に残っています。
だからキャッシュフロー計算書では、営業活動によるキャッシュ・フローを計算するときに減価償却費を足し戻します。CFPSやEBITDAという指標が存在するのも、この性質があるからです。
定額法と定率法の違い
費用の配り方には2種類あります。どちらを選ぶかで、初期の利益が変わります。
利益が安定して見える。建物は定額法しか選べない
導入直後の利益が小さく見える
| 年 | 定額法 | 定率法 |
|---|---|---|
| 1年目 | 200万円 | 400万円 |
| 2年目 | 200万円 | 240万円 |
| 3年目 | 200万円 | 144万円 |
| 4〜5年目 | 200万円ずつ | 残りを配分 |
| 合計 | 1,000万円 | 1,000万円(同じ) |
合計は同じです。違うのは「いつ費用にするか」だけです。
大きな設備投資をした直後の会社は、定率法だと利益が小さく見えます。そこだけを見て「業績が悪い」と判断すると読み違えます。
建物は定額法しか選べない
| 資産 | 選べる方法 |
|---|---|
| 建物 | 定額法のみ(1998年4月1日以後の取得分) |
| 建物附属設備・構築物 | 定額法のみ(2016年4月1日以後の取得分) |
| 機械装置・車両・器具備品 | 定額法・定率法から選べる |
| ソフトウェア | 定額法 |
どの方法を採用しているかは、有価証券報告書の会計方針に書かれています。同業他社と比べるときは、ここをそろえてください。
耐用年数と金額の区切り
何年で償却するかは、税法で資産ごとに決まっています。
| 資産 | 耐用年数 |
|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物 | 50年 |
| 木造の事務所用建物 | 24年 |
| 普通自動車 | 6年 |
| パソコン(サーバー用を除く) | 4年 |
| 機械装置 | 業種ごとに細かく決まっている |
金額にも区切りがあります。安いものまで何年もかけて償却すると、事務が煩雑になるためです。
| 取得価額 | 扱い |
|---|---|
| 10万円未満 | その年の費用にできる(減価償却しない) |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等償却できる |
| 30万円未満 | 中小企業者等なら一括で費用にできる(年間300万円まで) |
| それ以上 | 耐用年数にわたって減価償却する |
なお2007年4月1日以後に取得した資産は、備忘価額1円まで償却できます。それ以前は取得価額の10%を残す決まりでした。
貸借対照表のどこに載るか
ここからは実際の決算書で見ていきます。まず貸借対照表です。

| 番号 | 項目 | 意味 |
|---|---|---|
| ① | 建物及び構築物 | 買ったときの金額(取得価額) |
| ② | 減価償却累計額 | これまでに費用にした金額の合計(△で表示) |
| ③ | 純額 | ① − ②。まだ費用にしていない残り |
②と①を比べると、設備の古さが分かります。
取得価額に対して減価償却累計額の割合が大きいほど、その会社の設備は償却が進んでいる=古いということです。近いうちに設備の更新投資が必要になる可能性があります。
損益計算書のどこに載るか
次に損益計算書です。減価償却費という項目が独立して載っているとは限りません。

| 設備の使い道 | 計上される場所 |
|---|---|
| 工場の機械(製品を作る) | 売上原価 |
| 本社ビル・営業車 | 販売費及び一般管理費 |
| 賃貸不動産 | 売上原価(賃貸事業の原価) |
つまり製造業では、減価償却費の多くが売上原価に埋もれています。
売上原価が増えていても、それが原材料費なのか減価償却費なのかは損益計算書だけでは分かりません。正確な金額を知るには、次のキャッシュフロー計算書か注記を見ます。
キャッシュフロー計算書で正確な金額が分かる
減価償却費の金額を最も確実に確認できるのは、ここです。

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益からスタートして、現金が動いていない項目を足し引きして計算します。
| 項目 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | +(足し戻す) | 費用だが現金は出ていない |
| 減損損失 | + | 同じく現金は出ていない |
| のれん償却額 | + | 同じく現金は出ていない |
| 売上債権の増加 | − | 売上は立ったが入金がまだ |
この一覧の先頭に減価償却費が並ぶのが、ほぼすべての会社に共通しています。
償却が終わると利益が急に増える
減価償却には終わりがあります。耐用年数が過ぎれば、費用の計上も止まります。
| 項目 | 償却中 | 償却が終わった翌年 |
|---|---|---|
| 売上高 | 100億円 | 100億円(変わらず) |
| 減価償却費 | 10億円 | 0円 |
| 営業利益 | 5億円 | 15億円(3倍) |
事業は何ひとつ変わっていないのに、利益だけが3倍になります。
これは実力が上がったわけではありません。設備を更新すれば、また減価償却費が発生して元に戻ります。
逆に大型の設備投資をした翌年は、利益が落ちて見えます。決算で「営業利益が減少」と出ていても、原因が減価償却費の増加なら、事業そのものは悪化していない可能性があります。
設備投資額と減価償却費を比べる
この2つを並べると、その会社が拡大しているのか縮んでいるのかが読めます。
| 関係 | 読み取れること |
|---|---|
| 設備投資 > 減価償却費 | 設備を増やしている(拡大局面) |
| 設備投資 ≒ 減価償却費 | 現状維持。減った分だけ入れ替えている |
| 設備投資 < 減価償却費 | 設備が減っている。縮小か、投資を抑えている |
3行目の状態が長く続く会社は注意が必要です。
短期的には現金が残るため業績が良く見えます。ところが設備は古くなり続けているので、いずれまとめて更新投資が必要になります。そのとき利益とキャッシュが一気に圧迫されます。
設備投資額は、キャッシュフロー計算書の投資活動によるキャッシュ・フローにある「有形固定資産の取得による支出」で確認できます。
減価償却が重い業種・軽い業種
| 重い業種 | 軽い業種 |
|---|---|
| 鉄道・電力・ガス | コンサルティング・人材 |
| 通信・データセンター | ソフトウェア(受託型) |
| 半導体・素材・鉄鋼 | 卸売・商社 |
| 海運・空運 | フランチャイズ本部 |
重い業種は、利益が構造的に小さく見えます。
そのためPERだけで比べると割高に見えることがあります。CFPSやPCFR、EV/EBITDA倍率を併用してください。シクリカル銘柄の多くがこのタイプです。
減価償却と株価指標の関係
| 指標 | 減価償却費の扱い |
|---|---|
| EPS・PER | 引かれたあと。重い会社ほど不利に見える |
| CFPS・PCFR | 足し戻す。現金に近い数字で比べられる |
| EBITDA | 足し戻す。国や会計基準をまたぐ比較に使う |
| ROA | 償却が進むと総資産が減るので、数値が良く見える |
最後の行は見落としやすい落とし穴です。
古い設備をそのまま使い続けている会社は、分母の総資産が小さくなっているためROAが実力以上に高く出ます。設備が新しい競合と比べるときは、この点を意識してください。
投資家が減価償却を見るときのチェックリスト
決算書で見る順番
・② 同じくキャッシュフロー計算書で設備投資額を確認する
・③ 設備投資 と 減価償却費 の大小を比べる
・④ 貸借対照表で減価償却累計額 ÷ 取得価額を見る(設備の古さ)
・⑤ 有価証券報告書の会計方針で定額法か定率法かを確認する
・⑥ 利益が減っていたら、原因が償却費の増加でないかを確かめる
・⑦ 利益が急増していたら、償却が終わっただけでないかを疑う
・⑧ 同業他社と比べるときはPERだけでなくPCFRも並べる
⑥と⑦が、決算を読み違えないための要点です。
減価償却費は事業の実力とは別に動きます。利益の増減を見たら、まず「償却費が変わっていないか」を確認する習慣をつけてください。読み方の全体像は財務諸表とはにまとめてあります。
減価償却に関するよくある質問
まとめ
減価償却は「利益は減るのに、お金は減らない」という会計の仕組みです。
この記事のまとめ
・土地は対象外(時の経過で価値が減らないため)
・🔴 現金が出ていかない費用。営業CFでは足し戻される
・定額法と定率法は合計が同じで、いつ費用にするかが違うだけ
・建物は定額法しか選べない(1998年4月1日以後の取得分)
・10万円未満は一括費用、20万円未満は3年、中小企業は30万円未満まで一括可
・貸借対照表では取得価額・減価償却累計額・純額の3行で並ぶ
・損益計算書では売上原価か販管費に埋もれている
・正確な金額はキャッシュフロー計算書で確認する
・🔴 償却が終わると、事業が同じでも利益が急増する
・🔴 設備投資 < 減価償却費 の状態が続く会社は要注意
・重い業種はPERだけでなくPCFR・EV/EBITDAを併用する
・🔵 償却が進むと総資産が減るので、ROAが実力以上に高く出る
※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な解説であり、個別の税務・会計判断を行うものではありません。実際の処理にあたっては税理士等にご確認ください。
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