標準偏差とは、株価が平均からどれくらい散らばっているかを、1つの数値で表したものです。

数値が大きいほど値動きが激しく、小さいほど落ち着いています。株式投資でいう「リスク」は、この標準偏差のことを指しています。

この記事では、計算方法だけでなく「実際の株価には理論どおりに当てはまらない部分がある」という点まで解説します。

この記事でわかること

・標準偏差が測っているもの
・1σ・2σ・3σに収まる確率
・ボリンジャーバンドとの関係
・年率に直す方法
・株価では理論どおりにならない理由

標準偏差とは

標準偏差(読み方:ひょうじゅんへんさ)は、データのばらつきの大きさを表す統計の指標です。記号ではσ(シグマ)と書きます。

同じ平均でも中身は違う
A社 1,000円 → 1,010円 → 1,005円 → 995円 標準偏差が小さい
B社 1,000円 → 1,300円 → 750円 → 950円  標準偏差が大きい
どちらも平均は近い。でも持っているときの感覚はまったく違う
この違いを数値にしたものが標準偏差。

株式投資では、この「ばらつきの大きさ」がそのままリスクの大きさとして扱われます。ボラティリティという言葉も、ほぼ同じ意味で使われます。

何を計算しているのか

標準偏差は、次の4つの手順で求めます。

手順 やること
平均を出す
各データと平均の差を出す
その差を2乗して平均する(=分散)
分散の平方根をとる(=標準偏差)

③で2乗するのは、プラスの差とマイナスの差を打ち消し合わせないためです。そのままだと平均からの差の合計はゼロになってしまいます。

④で平方根に戻すのは、2乗したままだと単位が元と合わないためです。2乗して足し、最後に平方根で戻す。これが標準偏差の正体です。

計算例

ある銘柄の5日間の終値が次のとおりだったとします。

終値 平均との差 差の2乗
1日目 980円 −20 400
2日目 1,010円 +10 100
3日目 990円 −10 100
4日目 1,030円 +30 900
5日目 990円 −10 100
平均 = 1,000円
分散 = (400+100+100+900+100) ÷ 5 = 320
標準偏差 = √320 ≒ 17.9円

「この銘柄はふだん平均から18円くらいの幅で動いている」という読み方になります。

1σ・2σ・3σに収まる確率

データが正規分布に従う場合、平均から±何σの範囲に収まる確率が決まっています。

範囲 収まる確率 外れる頻度の目安
±1σ 約68.3% 3回に1回は外れる
±2σ 約95.4% 20回に1回程度
±3σ 約99.7% 300回に1回程度

ここで注意してほしいのは、1σの外側は「3回に1回」も起きるということです。1σを基準に「めったに起きない」と考えるのは間違いです。

チャートでの見え方

証券会社のツールでは、標準偏差を下段のサブチャートとして表示できます。

上段にボリンジャーバンド、下段に標準偏差を表示した2段組みのチャート例

上段がボリンジャーバンド、下段が標準偏差そのものです。標準偏差が上がっている=バンドが広がっている、という関係が一目でわかります。

標準偏差が低い水準で横ばい → 値動きが小さい。エネルギーをためている
標準偏差が急に立ち上がる → 大きく動き出した。トレンド発生の可能性

標準偏差そのものは方向を示しません。上がるか下がるかではなく、「動きの大きさ」だけを表しています。

ボリンジャーバンドとの関係

ボリンジャーバンドは、標準偏差をそのまま可視化した指標です。

中身
真ん中の線 単純移動平均線
+1σ / −1σ 移動平均線 ± 標準偏差
+2σ / −2σ 移動平均線 ± 標準偏差 × 2

つまりバンドの幅=標準偏差の大きさです。バンドが広がるのは値動きが大きくなったからで、逆にバンドが狭まるのは動きが小さくなったからです。

「バンドが広がったから売買サイン」ではありません。バンドの動きは結果であって、原因は値動きそのものです。

期間設定

標準偏差を計算する期間は、証券会社の初期設定では20日または25日が使われることが多くなっています。

期間 性質 向いている使い方
短い(9〜10日) 反応が速い。振れが大きい 短期売買
標準(20〜25日) 約1か月分の営業日 初期設定のままで可
長い(50日以上) なめらか。反応が遅い 中長期の水準確認

20日前後が標準なのは、1か月の営業日数がおよそ20日だからです。特別な理屈があるわけではありません。

年率に直す方法

投資信託の資料などで「リスク(標準偏差)15%」と書かれているのを見たことがあるかもしれません。これは年率に換算した標準偏差です。

年率換算の式
年率の標準偏差 = 日次の標準偏差 × √(年間の営業日数)
年間の営業日数はおよそ250日なので、√250 ≒ 15.8
1日あたりの標準偏差が1%なら → 1% × 15.8 = 年率およそ16%

日数そのものではなく平方根を掛けるのがポイントです。値動きのばらつきは、時間に比例するのではなく、時間の平方根に比例して大きくなるためです。

この換算を知っておくと、投資信託の目論見書に書かれたリスクの数値と、自分が見ている日足の標準偏差を同じ土俵で比べられます。

リスク量として使う

標準偏差の最も実用的な使い方は、「いくら買うか」を決めることです。

値動きの大きい銘柄と小さい銘柄を同じ金額で買うと、値動きの大きいほうだけが損益を支配してしまいます。標準偏差を使えば、これをそろえられます。

銘柄 1日の標準偏差 同じリスクにするには
A社(値動き小) 1% 基準の金額
B社(値動き大) 3% 金額を3分の1にする

この考え方はポートフォリオを組むときの基本です。値動きの大きい銘柄を同じ金額で買うのは、そこにだけ賭けているのと同じです。

株価は正規分布に従わない

ここが最も重要な注意点です。1σ・2σの確率は「正規分布に従うなら」という前提の話であり、実際の株価はその前提を満たしていません。

現実の株価に起きること
① 極端な値動きが理論より多い
理論上300回に1回のはずの3σ超えが、実際にはもっと頻繁に起きる(ファットテール)
② 大きな動きが固まって起きる
暴落は1日で終わらず、荒れた日が連続する
③ 上と下が対称でない
下落は上昇より短期間で大きく動きやすい

実際、2024年8月5日の日経平均は1日で4,451円安と過去最大の下げ幅を記録しました。これは平常時の標準偏差から計算すると本来ほとんど起きないはずの水準です。

したがって「2σの外側だから95%は安全」という考え方で資金管理をするのは危険です。想定外は、想定より頻繁に起きます。

ばらつきを測る他の指標との違い

値動きの大きさを測る道具は標準偏差だけではありません。目的によって使い分けます。

指標 測っているもの 向いている場面
標準偏差 終値の平均からの散らばり リスク量の把握・銘柄間の比較
ATR 1日の値幅(窓を含む) 損切り幅の設定
分散 標準偏差を2乗したもの 計算の途中段階。単位が合わず直感的でない
移動平均乖離率 平均からいま何%離れているか 現時点の行き過ぎの判断

標準偏差は「ふだんどれくらい動くか」、移動平均乖離率は「いまどれくらい離れているか」を見ています。過去の平均像を見るか、現在地を見るかの違いです。

使うときの手順

① 期間は初期設定のまま 20〜25日で十分
② 方向の判断には使わない 大きさしか表していない
③ 銘柄間の比較に使う どちらが激しく動くかを客観的に見る
④ 買う株数を決める材料にする 値動きが大きいなら金額を減らす
⑤ 想定外を前提に損切りを置く 2σの外は思ったより頻繁に来る

※ 本記事は指標の解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

標準偏差に関するよくある質問

標準偏差とボラティリティは同じものですか?
ほぼ同じ意味で使われます。厳密には、値動きのばらつきを統計的に表した数値が標準偏差で、それを年率換算したものが一般的にボラティリティと呼ばれます。実務上はどちらも「値動きの大きさ」を指していると理解して差し支えありません。
σ(シグマ)とは何ですか?
標準偏差を表すギリシャ文字です。1σは標準偏差1つ分、2σは2つ分の幅を意味します。ボリンジャーバンドの±1σ・±2σという表示も、移動平均線から標準偏差の何倍離れているかを示しています。
なぜ差を2乗するのですか?
プラスの差とマイナスの差が打ち消し合わないようにするためです。平均からの差をそのまま足すと合計はゼロになり、ばらつきの大きさが測れません。2乗してすべてプラスにしたうえで平均し、最後に平方根で元の単位に戻します。
2σの外に出たら逆張りしていいですか?
おすすめしません。強いトレンドが出ている局面では、株価が2σの外側に張り付いたまま動き続けることがあります。これはバンドウォークと呼ばれる状態で、逆張りすると損失が拡大します。σの水準はレンジ相場でのみ意味を持ちます。
年率のリスクはどう計算しますか?
1日あたりの標準偏差に、年間営業日数の平方根を掛けます。年間営業日数をおよそ250日とすると、√250はおよそ15.8です。日次1%なら年率でおよそ16%となります。日数そのものではなく平方根を掛ける点に注意してください。
標準偏差が高い銘柄は避けるべきですか?
避ける必要はありませんが、買う金額を調整すべきです。標準偏差が3倍の銘柄を同じ金額で買えば、損益への影響も3倍になります。金額を3分の1にすれば、他の銘柄とリスクの大きさをそろえられます。
なぜ正規分布を前提にできないのですか?
実際の株価は、理論上ほとんど起きないはずの極端な値動きが想定より頻繁に発生するためです。これはファットテールと呼ばれます。また下落は上昇より急激に進みやすく、荒れた日が連続する傾向もあります。σの確率は目安として使い、資金管理は想定外が起きる前提で組んでください。
標準偏差だけで売買判断できますか?
できません。標準偏差は値動きの大きさしか表さず、方向をまったく示しません。売買のタイミングには移動平均線やオシレーター系の指標を使い、標準偏差は「どれだけ買うか」を決める材料として使うのが本来の役割です。

まとめ

標準偏差は「どちらに動くか」ではなく「どれだけ動くか」を測る指標です。売買サインではなく、資金配分の道具として使ってください。

この記事のまとめ

・株価が平均からどれだけ散らばっているかを表す
・±1σに約68.3%、±2σに約95.4%が収まる
・1σの外側は3回に1回起きる。珍しくない
・ボリンジャーバンドの幅そのものが標準偏差
・期間は20〜25日の初期設定で十分
・年率換算は日次の標準偏差 × √250
・値動きが大きい銘柄は金額を減らしてそろえる
・実際の株価は正規分布に従わない

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