EV/EBITDA倍率とは、その会社を丸ごと買収したとき、何年で買収資金を回収できるかを示す指標です。だから「簡易買収倍率」とも呼ばれます。

目安は8倍前後。これを下回れば割安、大きく上回れば割高という見方をします。

ただし、この指標には絶対に使ってはいけない相手があります。銀行と保険です。理由は本文で扱います。

この記事でわかること

・EV(企業価値)とEBITDAの計算方法
・なぜ「何年で回収できるか」を表すのか
・目安の8倍はどこから来ているか
・PERとの決定的な違い3つ
・銀行・保険に使ってはいけない理由
・マイナスになる2つのケース
・減価償却を無視するという弱点
・実際にどう使えばよいか

EV/EBITDA倍率とは

EV/EBITDA倍率(読み方:いーぶいいーびっとだーばいりつ)は、企業価値(EV)が、EBITDAの何倍あるかを示す指標です。

項目 内容
計算式 EV ÷ EBITDA
何を測るか 株価の割安・割高(企業価値の視点から)
読み方の核 買収資金を何年で回収できるか
目安 8倍前後。低いほど割安
別名 簡易買収倍率/EV/EBITDAマルチプル
主な用途 M&Aの価格算定、国をまたいだ企業比較

この指標は、株主だけでなく債権者も含めた「会社全体の値段」で見るところに特徴があります。

EV(企業価値)の計算

EVはEnterprise Valueの略で、その会社を丸ごと手に入れるのに必要な金額を表します。

EVの計算式

EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金及び現金同等物

時価総額… 株を全部買うのに必要な金額
+ 有利子負債 … 買収後は借金も引き継ぐので、その分も負担になる
− 現金買った瞬間に手元に入る現金は、実質的な負担を減らす

3つ目の考え方が肝心です。100億円の会社を買って、その会社が30億円の現金を持っていたら、実質の出費は70億円ということになります。

項目 A社 B社
時価総額 1,000億円 1,000億円
有利子負債 0 800億円
現金 400億円 100億円
EV 600億円 1,700億円

時価総額は同じでも、実質的な会社の値段は約3倍違います。これが、時価総額だけを見ていては分からない部分です。

EBITDAの計算

EBITDA(イービットダー)はEarnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略。「利息・税金・減価償却を引く前の利益」という意味です。

計算方法
簡易法(よく使われる) 営業利益 + 減価償却費
厳密な定義 税引前当期純利益 + 支払利息 + 減価償却費

なぜこの3つを足し戻すのか。理由は明確です。

利息を足す理由
借金が多いか少ないかは資金の集め方の違い。本業の稼ぐ力とは別
税金を足す理由
税率は国によって違う。国際比較のとき邪魔になる
減価償却を足す理由
現金が出ていかない費用。償却方法や耐用年数も企業ごとに違う

つまりEBITDAは「本業が現金をどれだけ生んだか」に近い数字です。営業利益と何が違うかは損益計算書とはとあわせて読むと理解しやすくなります。

なぜ「簡易買収倍率」と呼ばれるのか

この指標のいちばん分かりやすい読み方です。

「何年で元が取れるか」という読み方

・EV(買うのに必要な金額)= 800億円
・EBITDA(毎年生む現金)= 100億円

→ EV/EBITDA倍率 = 8倍
→ 意味:この会社を買収したら、8年で買収資金を回収できる

・5倍なら5年で回収 → 割安
・20倍なら20年かかる → 割高、または高い成長を期待されている

M&Aの現場で実際に使われている指標です。買収価格の妥当性を測る物差しとして、投資銀行やファンドが日常的に用いています。

目安は8倍。ただし前提がある

水準 評価 確認すること
5倍未満 かなり割安 なぜ安いのか。構造的な問題がないか
5〜8倍 割安〜標準 同業他社との比較
8倍前後 標準的な目安
8〜15倍 やや割高 成長率が説明できるか(売上高成長率など)
15倍超 割高 高成長企業では珍しくない。期待が織り込まれている

「8倍」は業種を問わない万能の基準ではありません。M&Aの実務で目安として使われてきた水準であって、業種や成長率によって適正値は動きます。

PERとの決定的な違い

どちらも割安性を測る指標ですが、見ている範囲がまったく違います。

観点 PER EV/EBITDA倍率
誰の視点か 株主だけ 株主+債権者(会社全体)
借金の扱い 見えない EVに含まれるので反映される
手元現金の扱い 見えない EVから引かれるので反映される
減価償却の方針 影響を受ける 影響を受けない
税率の違い 影響を受ける 影響を受けない
国際比較 やりにくい やりやすい
赤字企業 使えない EBITDAが黒字なら使える

PERだけでは見えない例

・PERが同じ15倍の2社があったとする
・A社は無借金で現金を厚く持っている
・B社は時価総額と同じくらいの有利子負債を抱えている

PERでは同じに見えるが、EV/EBITDA倍率ではB社のほうが明確に割高になる
→ 買収する側から見れば、B社は借金も引き継ぐことになるため

PERの弱点を補うのがEV/EBITDA倍率の役割です。両方を並べて、乖離があればその理由を探すのが正しい使い方になります。

銀行・保険にこの指標を使ってはいけない

これは非常に重要な注意点です。

スクリーニングで「EV/EBITDA倍率が低い順」に並べると、銀行や保険会社が上位に大量に現れることがあります。しかしこれは割安なのではなく、指標が成立していないだけです。

理由 内容
有利子負債の意味が違う 銀行にとって預金や借入は商売の原材料。返すべき重荷ではない
現金の意味が違う 手元資金は規制で持たされているもので、自由に使える余剰金ではない
減価償却がほぼない 大規模な設備を持たないため、EBITDAを使う意味が薄い
支払利息が本業の費用 預金金利は営業費用そのもの。足し戻すと実態から離れる

金融機関の割安性は、PERとPBR、そして自己資本比率(BIS基準)で見ます。EV/EBITDA倍率が0.7倍などと表示されても、それは「7カ月で買収資金を回収できる」という意味ではありません。

同じ理由で、不動産投資法人(J-REIT)や一部のリース会社でも扱いに注意が必要です。

マイナスになる2つのケース

原因 状況 評価
EBITDAがマイナス 減価償却を足し戻しても営業赤字 危険。本業で現金を生めていない
EVがマイナス 現金が「時価総額+有利子負債」を上回る 理屈上は超割安。ただし理由の確認が必須

EVがマイナスというのは「その会社を買うと、買収額より多い現金が手に入る」状態です。いわゆるネットキャッシュ超過。

ただし安易に飛びつくべきではありません。現金があっても株主に還元する意思がなければ、投資家にとっての価値にはなりません。自社株買いや増配の実績、東証の資本効率改善要請への対応状況をあわせて確認してください。

EBITDAの弱点:減価償却を無視する

この指標を使ううえで、必ず知っておくべき批判があります。

減価償却は「無視してよい費用」ではない

・工場も機械もサーバーも、いつか必ず買い替えが必要になる
・減価償却費は、その買い替えコストを毎年に割り振ったもの
・EBITDAはこれを足し戻すため、設備投資が重い会社ほど数字が良く見える

設備投資額(CAPEX)とセットで見ないと、実態を見誤る

こういう会社は要注意 確認方法
EBITDAは大きいが、営業利益は小さい 差=減価償却費。差が大きいほど設備が重い
設備投資が減価償却費を毎年上回る キャッシュフロー計算書の投資CF
EBITDAは黒字なのに営業CFが弱い 運転資金が膨らんでいる可能性

EBITDAは「本業の現金創出力に近い」だけであって、フリーキャッシュフローそのものではありません。この違いが分かっていれば、指標に振り回されずに済みます。

業種で目安が違う

業種 倍率の傾向 理由
ソフトウェア・IT 高い 成長期待が織り込まれる。設備が軽い
医薬品・ヘルスケア 高め 特許による安定収益が評価される
製造業全般 標準(5〜10倍)
シクリカル(鉄鋼・海運・化学) 低い 好況期は低く出る。天井のサインのことも
電力・鉄道・通信インフラ 中〜高 設備が重くEBITDAが大きいが、有利子負債も大きい
銀行・保険 使わない 指標が成立しない(前述)

シクリカル銘柄の落とし穴はPERと同じです。好況の最終局面ではEBITDAが最大化するため倍率が最も低く出ますが、そこが天井であることが多くあります。詳しくはシクリカル銘柄とはで解説しています。

実際にどう使えばよいか

手順 やること
① 同業他社と並べる 単体の数字ではなく、業界内での位置を見る
② PERと見比べる 乖離があれば理由を探す(借金か、現金か、減価償却か)
③ 過去の推移を見る その会社自身の平均より高いか低いか
④ 設備投資を確認する EBITDAと営業利益の差、投資CFの大きさ
⑤ 成長率と突き合わせる 高い倍率が成長で説明できるか(PEGレシオの発想)

この指標が最も威力を発揮するのは、②のPERとの比較です。「PERは平均並みなのにEV/EBITDA倍率が高い」なら、借金の重さが効いています。逆なら手元現金が厚いということです。

どこで確認できるか

場所 見方
証券会社の銘柄画面 「指標」「財務」のタブ。PERやPBRと並んで載っていることが多い
スクリーニング機能 金融業を除外する条件を必ず入れる
自分で計算する 時価総額+有利子負債−現金を、営業利益+減価償却費で割る
企業のIR資料 EBITDAを自社の指標として開示している企業も多い

算出主体によって数値が違うことがあります。EBITDAの定義(簡易法か厳密法か)や、有利子負債にリース債務を含めるかどうかで差が出るためです。同じ情報源の中で比較してください。

EV/EBITDA倍率に関するよくある質問

EV/EBITDA倍率の目安は何倍ですか?
一般には8倍前後が目安とされ、これを下回れば割安、上回れば割高という見方をします。ただしソフトウェアや医薬品は成長期待から高くなりやすく、鉄鋼や海運などのシクリカル業種は低く出やすいなど、業種による差が大きい指標です。単体の数字ではなく同業他社と比較してください。
PERとどちらを使えばよいですか?
両方を並べて使うのが正しい方法です。PERは株主の視点だけで見るため借金や手元現金が反映されませんが、EV/EBITDA倍率は債権者も含めた会社全体で見るため、これらが反映されます。2つの指標に乖離があれば、その理由が借金の重さなのか手元現金の厚さなのかを確認することで、企業の実態が見えてきます。
なぜ銀行株には使えないのですか?
銀行にとって預金や借入は返すべき重荷ではなく、貸し出すための原材料だからです。EVは時価総額に有利子負債を加えて計算しますが、銀行ではこの前提が成立しません。手元資金も規制で持たされているもので自由に使える余剰ではなく、支払利息も本業の費用です。金融機関の割安性はPER・PBRとBIS基準の自己資本比率で判断します。
EBITDAはどうやって計算しますか?
簡易法では「営業利益+減価償却費」で計算します。厳密には「税引前当期純利益+支払利息+減価償却費」です。利息・税金・減価償却を足し戻すことで、資金の集め方や国ごとの税率、会計方針の違いを取り除き、本業がどれだけ現金を生んだかに近い数字を得ることが目的です。
数値がマイナスになるのはなぜですか?
2つのケースがあります。1つはEBITDAがマイナス、つまり減価償却を足し戻しても営業赤字という状態で、これは危険な兆候です。もう1つはEVがマイナス、つまり手元現金が時価総額と有利子負債の合計を上回る状態で、理屈のうえでは超割安ですが、その現金が株主に還元される見込みがあるかを確認する必要があります。
EBITDAの弱点は何ですか?
減価償却費を足し戻すため、設備投資が重い会社ほど数字が良く見えてしまう点です。工場や機械はいつか買い替えが必要になり、減価償却費はそのコストを各年度に割り振ったものです。これを無視すると実際の現金創出力を過大評価します。EBITDAと営業利益の差や、キャッシュフロー計算書の投資CFをあわせて確認してください。
スクリーニングで低い順に並べれば割安株が見つかりますか?
そのままでは見つかりません。上位に銀行や保険会社が並びますが、これらは指標が成立していないだけで割安ではありません。またシクリカル業種は好況の最終局面で最も低く出るため、天井付近を割安と誤読する危険もあります。金融業を除外し、業種を絞り、成長率や設備投資とあわせて確認してください。
情報源によって数値が違うのはなぜですか?
EBITDAの定義が簡易法か厳密法か、有利子負債にリース債務を含めるかどうか、現金同等物の範囲をどこまでとるかなど、算出方法に幅があるためです。そのため異なるサイトの数値を並べて比較するのは適切ではありません。比較するときは同じ情報源の中で行ってください。

まとめ

EV/EBITDA倍率は「この会社を丸ごと買ったら、何年で元が取れるか」を示す指標です。

この記事のまとめ

・計算式は「EV ÷ EBITDA」。目安は8倍前後
・EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金
・EBITDA = 営業利益 + 減価償却費(簡易法)
・「簡易買収倍率」=買収資金を何年で回収できるか
・PERとの違いは、借金と手元現金が反映されること
・減価償却と税率の影響を受けないため、国際比較に向く
・🔴 銀行・保険には使えない。低く出ても割安ではない
・🔵 減価償却を足し戻すため、設備の重い会社を過大評価する
・シクリカル業種は好況の天井で最も低く出る
・PERと並べて、乖離の理由を探すのが最も有効な使い方

※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく解説であり、特定の銘柄や投資判断を推奨するものではありません。指標の算出方法は情報源によって異なる場合があります。

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