トランプ大統領「利下げしなければ対米黒字国との貿易を停止」|実施すれば日本株に与える最悪シナリオ

トランプ米大統領が2026年9月4日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に「金利を引き下げろ。さもなければ、米国は対米黒字国との貿易を停止する」と投稿しました。対米黒字国とは、米国から見て貿易赤字を抱えている相手国のことで、日本もそこに含まれます。

投稿されたのは、8月分の米雇用統計が発表された直後でした。そしてこの雇用統計の中身が、発言の重みを変えています。結果が予想を大きく上回ったことで、FRB(米連邦準備制度理事会)は利下げどころか、9月に利上げする可能性が高まったからです。

この記事では、発言と雇用統計の事実関係を整理したうえで、そもそも大統領にそんな権限があるのかを根拠法から確認し、仮に実施された場合に日本株へ何が起きるのかを、2025年4月の相互関税ショックの実データで検証します。

権限の話は避けて通れません。トランプ大統領は2026年2月、大統領権限で課した関税を最高裁に違法と判断され、すでに一度退けられています。ただし、そのとき塞がれたのは「関税」であって「貿易の停止」ではありませんでした。

そのときに17業種のうち1番下げたのは、自動車ではありませんでした。この点も含めて、数字で分かりやすく解説します。

この記事でわかること

・トランプ大統領がいつ、何と投稿したのかの正確な内容
8月分の米雇用統計の中身(+16.2万人・失業率4.1%・平均時給ほか)
FRBはいま利下げではなく「利上げ」を検討していること
・つまり「利下げしなければ」という条件は満たされる可能性が高いこと
・米国が貿易赤字を抱える相手国の一覧と、日本は7番目という位置
対米輸出20兆4,140億円は、日本の名目GDPの3.08%にあたること
そもそも大統領に貿易を止める権限はあるのか(根拠法5つを比較)
2026年2月20日、最高裁がすでに「関税は課せない」と判断していたこと
・ただし最高裁が塞いだのは関税であって、禁輸ではないという読み方
・実行を阻む4つのハードルと、目的と手段が矛盾しているという構造
・2025年4月の相互関税で日経平均が3営業日で−12.85%下げたこと
そのとき1番下げたのは自動車ではなく銀行(−23.6%)だった理由
2か月後には17業種のうち16業種がプラスに戻っていたこと
・ただし1年半後の勝ち組と負け組は入れ替わっていること
為替の回復は株より遅い(株15営業日/為替78営業日)
・過去の通商ショック4回で、日経平均が何営業日で戻したか
1日で−5%以上下げた日10回のその後(20営業日後の勝率90.0%)
・いまの日経平均が2025年4月とは違う位置にあること

※ この記事は公表された事実とデータの解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。また「貿易停止」は現時点でSNSへの投稿であり、決定された政策ではありません。株価は2026年9月4日終値、集計は日経平均の日足(1970年1月5日〜2026年9月1日・13,932営業日)と東証17業種の日足(2019年1月4日〜2026年9月2日)にもとづいています。

何があったのか|「利下げしなければ貿易を停止する」

トランプ大統領は2026年9月4日、トゥルース・ソーシャルに投稿し、FRBに対して利下げを要求しました。そのなかで、応じない場合の対抗策として「対米黒字国との貿易停止」に言及しています。

項目 内容
投稿日 2026年9月4日
投稿先 トゥルース・ソーシャル(自身のSNS)
中心となる要求 「金利を引き下げろ。さもなければ、米国は対米黒字国との貿易を停止する」
利下げを求める理由 「米国の信用力はほんの少し前と比べてはるかに強くなっている」
目指す金利水準 「米国は世界のどの国よりも低金利であるべきだ」
関税との比較 貿易停止は「関税よりも優れている」と明言

ここで押さえておきたいのは、これが関税の話ではないという点です。関税は「輸入品に税金をかける」措置なので、価格が上がっても取引そのものは続きます。一方で「貿易停止」は、取引そのものを止めるという意味になります。

トランプ大統領はこれを「関税よりも優れている」と表現しました。効果が大きいという意味で使われた言葉です。

同じ日に出た雇用統計が、この発言の重みを変えた

この投稿は、8月分の米雇用統計が発表された直後に出ています。そして雇用統計の結果が、発言の位置づけを大きく変えました。

米雇用統計は毎月第1金曜日に発表される、米国で最も注目される経済指標です(非農業部門雇用者数とは?)。FRBが金利を動かすかどうかを判断する材料として、1番重く見られています。

8月分の米雇用統計を数字で見る

2026年9月4日(日本時間21時30分)に発表された内容は次のとおりです。

項目 結果 市場予想 前回
非農業部門雇用者数 +16.2万人 +5.8万人 −2.3万人
(+2.1万人に改定)
失業率(U-3) 4.1% 4.1% 4.1%
広義失業率(U-6) 7.7% 7.9%
労働参加率 61.6% 61.4%
平均時給(前月比) +0.3% +0.1%
平均時給(前年比) +3.1% +3.2%
民間部門 +12.7万人
政府部門 +3.5万人

読み取るべき点が4つあります。

1つめは、予想を約2.8倍上回ったことです。市場予想の+5.8万人に対して結果は+16.2万人。これは過去5か月で最大の伸びでした。

2つめは、前回分が上方修正されたことです。前回は−2.3万人という減少でしたが、+2.1万人へ改定されました。マイナスがプラスに変わっています。「雇用が減り始めた」という見方の根拠が1つ消えたことになります。

3つめは、労働参加率が上がったのに失業率が変わらなかったことです。61.4%から61.6%へ上昇しています。働こうとする人が増えたにもかかわらず失業率が4.1%のままだった、という意味なので、実際にはそれだけ雇用が吸収されたことになります。広義失業率(U-6)も7.9%から7.7%へ下がりました。

4つめは、賃金です。平均時給は前月比+0.3%と前月の+0.1%から加速しました。ただし前年比では+3.1%と、前月の+3.2%からわずかに鈍化しています。賃金は「加速しすぎてもいない、崩れてもいない」という中間の姿でした。

市場の反応も明確でした。発表直後、ドル円は156円ちょうど付近から一時156.70円台まで約0.7円動きました(経済指標とは?相場が動くのは予想との差)。そして9月のFOMCで利上げが行われるという見方が、52%前後から58%前後まで上昇しました。

FRBはいま、利下げどころか利上げを検討している

ここが今回の話の核心です。トランプ大統領は利下げを求めていますが、FRBが実際に検討しているのは反対方向の利上げです。

項目 現状
政策金利(FF金利の誘導目標) 3.50%〜3.75%(7月会合から据え置き)
2026年の利上げ回数 0回(まだ一度も上げていない)
コアPCEインフレ率 前年比3.3〜3.4%程度(目標の2%を大きく上回る)
議長 ケビン・ウォーシュ氏。ジャクソンホール会議で9月利上げに含みを持たせた
次回FOMC 2026年9月15〜16日(結果発表は16日)
市場の織り込み 据え置きと0.25%利上げがほぼ半々。雇用統計後に利上げ観測が上昇

FRBが利下げできない理由は、インフレです。コアPCEインフレ率が3.3〜3.4%程度と、目標の2%を大きく上回った状態が続いています。この状況で利下げをすれば、インフレをさらに押し上げる可能性があります。

そこへ雇用統計が予想を大きく上回りました。景気が弱っていないなら、利下げで景気を支える必要もないという理屈になります(利下げとは?開始から6か月の勝率)。

「利下げしなければ」という条件は、満たされる可能性が高い

ここまでを整理すると、次のようになります。

いまの構図

トランプ大統領の要求 … 利下げしろ。世界一の低金利にしろ
 ↓
FRBの現在地 … 3.50〜3.75%で据え置き。インフレ3%台で下げられない
 ↓
雇用統計 … +16.2万人と予想の2.8倍。利下げの理由がさらに減った
 ↓
9月16日のFOMCで利下げが行われる可能性は、現時点では極めて低い
 ↓
つまり「さもなければ」の条件は、満たされる方向にある

ただし、条件が満たされることと、実際に貿易が停止されることは別の話です。これはSNSへの投稿であり、決定された政策ではありません。大統領の発言がそのまま実行されなかった例は、これまでにも数多くあります。

それでも検証する価値があるのは、「もし起きたら何が起きるか」を先に知っておくかどうかで、実際に起きたときの動き方が変わるからです。

米国が貿易赤字を抱える相手国と、日本の位置

「対米黒字国」とは、米国から見て輸入が輸出を上回っている相手国のことです。米国側の統計(2024年)では次の順になります。

順位 相手国 米国の貿易赤字額
1位 中国 2,862億ドル
2位 メキシコ 1,698億ドル
3位 ベトナム 1,283億ドル
7位 日本 715億ドル

※ 米国側の統計(2024年通年)。統計の取り方によって金額は変わり、対日赤字を687億ドルとする集計もあります。

日本は1位ではありません。中国の4分の1程度の規模です。ただし「対米黒字国との貿易を停止する」という言い方は、金額の大小で線を引いていません。黒字であれば対象に入ります。

日本にとっての規模感|対米輸出はGDPの3.08%

では、仮に対米輸出が止まった場合、日本経済にとってどれくらいの大きさになるのでしょうか。

項目 金額
日本の対米輸出(2025年) 20兆4,140億円(前年比−4.1%)
日本の名目GDP(2025年) 663.8兆円
対米輸出のGDP比 3.08%
対米輸出に占める自動車関連 約3分の1(完成車+部品)
日本の対米貿易黒字(2024年) 8兆6,417億円

対米輸出はGDPの3.08%です。この数字をどう受け取るかで、話が分かれます。

「3%なら小さい」と見ることもできます。しかしGDPが1年で3%落ちるというのは、リーマン・ショック級の落ち込みにあたります。しかも輸出が止まれば、その企業に部品を納めている会社、物流、雇用へと影響が広がっていきます。実際の打撃は3.08%では止まりません。

2025年の対米輸出はすでに前年比4.1%減と、5年ぶりに減少しています。自動車が11.4%減、自動車部品が10.7%減と、関税の影響がはっきり出ていました。つまり日本の対米輸出は、すでに逆風のなかにあります。

そもそも、大統領に貿易を止める権限はあるのか

ここが今回の話で1番重要な部分です。「やると言った」ことと「できる」ことは違います。

米国の憲法では、関税をかける権限(課税権)も、外国との通商を規制する権限も、大統領ではなく議会に与えられています(憲法第1条)。大統領が単独で動けるのは、議会が法律で権限を渡した範囲だけです。

その「渡された権限」が、次の5つです。

根拠法 できること 上限・期間
IEEPA
国際緊急経済権力法(1977年)
国家非常事態を宣言したうえで、輸入を規制または禁止する 関税は不可(2026年2月に最高裁が判断)
通商拡大法232条
1962年
国家安全保障上の脅威となる輸入に対し、全面禁止を含むあらゆる措置 上限・期間の定めなし。商務省の調査が必要
通商法301条
1974年
不公正な貿易慣行への制裁(関税・輸入制限) 上限・期間の定めなし。調査と意見募集が必要
通商法122条
1974年
国際収支上の重大な問題に対する一時的な輸入制限 最大15%・150日。延長には議会の立法が必要
関税法338条
1930年
米国製品を差別する国への対抗措置 最大50%。過去に一度も使われたことがない

つまり大統領は、何もないところから貿易を止められるわけではありません。どの法律を使うかで、できることも手続きも変わります。

2026年2月、最高裁はすでに一度「できない」と判断している

ここで思い出しておきたいのが、今年の2月に出た判決です。

2026年2月20日、米連邦最高裁は6対3で「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と判断しました。Learning Resources社とV.O.S. Selections社が起こした訴訟です。

項目 内容
判決日 2026年2月20日
結論 IEEPAに基づく関税は違法
評決 6対3(ロバーツ長官ほか5名が多数意見)
理由 関税は明らかに課税権の一部であり、憲法第1条で議会に留保されている。「規制する権限」は「課税する権限」を含まない
失効 IEEPAに基づく関税は2026年2月24日午前0時(米東部時間)に全て失効
影響しないもの 232条による分野別関税はそのまま有効

判決後、政権はすぐに代わりの手を打っています。2月20日に通商法122条による10%の一時的な輸入課徴金を発表し、2月24日から徴収を開始しました。3月には301条の調査を開始しています。

つまりトランプ大統領は、すでに一度、大統領権限による関税を最高裁に否定されています。そのうえで別の法律に乗り換えて政策を続けている、というのが今の状況です。

ただし最高裁が塞いだのは「関税」であって「禁輸」ではない

ここが法律の読み方として重要な点です。最高裁が違法としたのは、あくまで「関税」でした。

IEEPAの条文には、大統領は輸入を「規制する(regulate)」または「禁止する(prohibit)」ことができると書かれています。判決が否定したのは「規制する権限には課税する権限は含まれない」という部分であって、「禁止する権限」そのものを否定したわけではありません。

関税と禁輸は、法律上まったく別の話

関税をかける … 輸入品に税金をかける=課税権。議会の権限
 → 2026年2月20日、最高裁が「大統領にはできない」と判断

輸入を禁止する … 取引そのものを止める=課税ではない
 → IEEPAの条文に「禁止できる」と明記されている
 → 最高裁は、この点を否定していない

「関税よりも優れている」という発言は、法律のうえでも筋が通っている可能性があります。

加えて、通商拡大法232条にはさらに直接的な記述があります。国家安全保障上の脅威となる輸入に対しては、追加関税に限らず輸入の全面禁止を含む「必要なあらゆる措置」を取れると書かれています。この232条による関税は、2月の最高裁判決でも無効になっていません。

つまり、「貿易を止める」という手段そのものは、法律上ふさがっていません。

それでも実行のハードルは高い

ただし、法律にあることと実際にできることは、また別です。ハードルが4つあります。

ハードル 内容
① 非常事態の認定 IEEPAの発動には「米国の安全保障・外交・経済に対する、国外に源を持つ異常かつ重大な脅威」の認定が必要。「貿易赤字」がこれに当たるかは、まさに2月の裁判で争われた論点
② 前例がない IEEPAによる全面禁輸の対象は、イラン・キューバ・北朝鮮といった敵対国に限られてきた。同盟国に発動した例はない
③ 議会と裁判所 議会は国家非常事態を終了させる決議ができる。また2月の判決で、裁判所が大統領の通商権限に踏み込む姿勢がはっきりした
④ 米国自身への跳ね返り 対米黒字国からの輸入を止めれば、米国内の物価と供給が直撃を受ける。インフレが3%台の局面では、政権にとっても自傷になる

とくに④が効きます。トランプ大統領が利下げを求めている理由は金利を下げたいからですが、貿易を止めれば物価が上がり、FRBはさらに利下げしにくくなります。目的と手段が矛盾する構造になっています。

結論として、「法律上は道がある。ただし全面実施は考えにくい」というのが現実的な見方です。そして相場が動くのは、全面実施が決まったときではなく、その手前の段階です。

前回の予行演習|2025年4月の相互関税で何が起きたか

ここからは実データで検証します。2025年4月2日、トランプ政権は相互関税を発表しました。そのときの日経平均の動きが、1番近い前例になります(相互関税が株価暴落を招く理由)。

日付 日経平均 前日比
2025年4月2日(発表前) 35,725.87円
4月3日 34,735.93円 −2.77%
4月4日 33,780.58円 −2.75%
4月7日(底) 31,136.58円 −7.83%
4月8日 33,012.58円 +6.03%
4月9日 31,714.03円 −3.93%
4月10日 34,609.00円 +9.13%

発表からわずか3営業日で、日経平均は35,725円から31,136円まで下げました。下落率は12.85%です。

ただし同じくらい重要なのが、そのあとの動きです。4月8日は+6.03%、4月10日は+9.13%と、暴落と同じ規模の反発が出ています。関税の一時停止が伝わったことがきっかけでした。

そして4月2日の水準(35,725.87円)に戻ったのは4月28日。底を打った4月7日から15営業日でした。1か月かかっていません。

そのとき1番下げたのは、自動車ではなく銀行だった

ここが今回の記事で1番確かめたかった部分です。東証17業種の指数で、2025年4月2日から4月7日までの下落率を並べました。

業種 4/2→4/7 4/2→5/30 4/2→現在
銀行 −23.6% +1.0% +92.9%
鉄鋼・非鉄 −20.0% +4.9% +144.0%
エネルギー資源 −18.0% −8.7% +69.7%
金融(除く銀行) −17.8% +4.2% +50.8%
電機・精密 −15.2% +5.2% +73.0%
機械 −14.2% +10.5% +45.1%
自動車・輸送機 −14.1% +4.9% +18.3%
素材・化学 −13.1% +3.6% +34.9%
商社・卸売 −11.8% +10.4% +72.3%
情報通信・サービスその他 −9.1% +8.8% +31.9%
建設・資材 −8.1% +6.6% +46.2%
電力・ガス −7.3% +0.4% +52.9%
不動産 −6.4% +4.7% +23.6%
小売 −5.6% +9.4% +22.0%
運輸・物流 −5.1% +5.6% +20.1%
医薬品 −5.1% +2.3% +19.2%
食品 −3.8% +5.2% +34.0%

※ 東証17業種ETFの終値から算出。「現在」は2026年9月2日時点。

1番下げたのは銀行の−23.6%でした。関税の直撃を受けるはずの自動車・輸送機は−14.1%で7番目です。その差は約9.5ポイントあります。

1番耐えたのは食品の−3.8%。銀行との差は約20ポイントになりました。

なぜ関税ショックで銀行が1番下げるのか

直感に反する結果ですが、理由をたどると筋が通ります。

関税ショックが銀行株に効く経路

関税・貿易制限が発表される
 ↓
世界景気が落ち込むという見方が広がる
 ↓
中央銀行が利下げに動くという観測が強まる
 ↓
債券が買われて長期金利が下がる
 ↓
銀行の利ざや(貸出金利と預金金利の差)が縮む
 ↓
銀行株が売られる

つまり関税は、輸出が減るという経路よりも先に、金利という経路で株価に効きます。輸出が実際に減るかどうかは数か月後の決算を見ないと分かりませんが、金利は発表の翌日から動きます。市場は速い方に反応します(金利が上がると株価はどうなる?)。

この構図は、今回の発言にそのまま当てはまります。トランプ大統領が求めているのは利下げそのものだからです。仮に圧力に押されてFRBが利下げに転じれば、日本の銀行株にとっては逆風になります。

いま日本の銀行株は、日銀の利上げ観測を追い風にして買われてきました(日銀金融政策決定会合)。米国の金利が下がる方向に動けば、その前提が揺らぎます。

2か月後には、17業種のうち16業種がプラスに戻っていた

下落の話だけでは片手落ちになります。同じ表の真ん中の列を見てください。

2025年4月2日から5月30日まで、およそ2か月の変化です。17業種のうち16業種がプラスに転じていました。マイナスのままだったのはエネルギー資源(−8.7%)だけです。

下落幅が大きかった銀行も+1.0%、鉄鋼・非鉄も+4.9%まで戻しています。1番戻りが大きかったのは機械の+10.5%と商社・卸売の+10.4%でした。

これは「暴落した2か月後には、暴落前より上にいた」という結果です。ただし、それは結果を知っているから言えることで、4月7日の時点でこの先が見えていた人はいません(損切りができない理由)。

ただし1年半後の勝ち組と負け組は入れ替わっている

1番右の列、2026年9月2日時点まで伸ばすと、また違う姿が見えます。

業種 ショック時の下落 1年5か月後
鉄鋼・非鉄 −20.0%(下落2位) +144.0%(1位)
銀行 −23.6%(下落1位) +92.9%(2位)
電機・精密 −15.2%(下落5位) +73.0%(3位)
医薬品 −5.1%(下落16位) +19.2%(16位)
自動車・輸送機 −14.1%(下落7位) +18.3%(17位=最下位)

ショック時に大きく下げた鉄鋼・非鉄と銀行が、その後1番上げています。逆に、そのときの下げが中位だった自動車・輸送機は、1年5か月後に17業種で最下位でした。

この差は、下げの深さではなく「そのあと何が起きたか」で決まっています。銀行は日銀の利上げが進んだこと、鉄鋼・非鉄は市況が回復したことが背景にあります。自動車は関税の影響が実際の決算に出てきました。

つまり、暴落した日の下落率は、その後の順位をほとんど予測していません。

為替の回復は、株より5倍以上遅かった

もう1つ押さえておきたいのが為替です。株と為替では、戻るまでにかかる時間が大きく違いました。

項目 日経平均 ドル円
4月2日 35,725.87円 149.78円
31,136.58円(4/7) 143.75円(4/11)
変化率 −12.85% −4.03%(円高)
元の水準に戻った日 4月28日 8月1日
底からの日数 15営業日 78営業日

株が15営業日で戻ったのに対し、為替は78営業日かかりました。5倍以上の差です。

これが意味するのは、株価が戻っても、輸出企業の採算はしばらく戻らないということです。円高は輸出企業の円換算の売上を減らします(円高・円安は株価にどう影響するか)。株価が先に戻っても、決算に出てくる数字は遅れて悪化します。

いまのドル円は156円前後です。2025年4月の149円台よりも大幅な円安の位置にあります。仮に同じような円高が起きても、水準としてはまだ余裕がある、という見方はできます。

過去の通商ショックで、日経平均は何営業日で戻したか

2025年4月だけでは1例にすぎません。米国の通商政策が発表された局面を4つさかのぼって集計しました。

出来事 最大下落 底から戻すまで
鉄鋼25%・アルミ10%の関税表明
2018年3月
−5.1% 12営業日
対中関税を10%→25%へ引き上げ表明
2019年5月
−9.0% 4か月では戻らず
対中3,000億ドルに追加関税を表明
2019年8月
−5.9% 12営業日
相互関税を発表
2025年4月
−12.8% 15営業日

下落率は−5%台から−12.8%まで幅がありました。そして戻すまでの日数も、12営業日で済んだ回もあれば、4か月かかっても戻らなかった回もあります。

2019年5月の局面が戻らなかったのは、そのあと8月に追加の関税が表明されたからです。1回の発表で終わらず、次の一手が続いたケースでは、下げが長引きました。

ここが今回の判断で重要になります。「利下げしなければ貿易を停止する」という発言は、1回で終わる話ではなく、FOMCのたびに繰り返される可能性があります。

1日で−5%以上下げた日は、2015年以降10回あった

もう1つ、別の切り口から集計しました。通商政策に限らず、日経平均が1日で5%以上下げた日を2015年以降で数えると10回です。

日付 下落率 20営業日後 60営業日後
2016年2月9日 −5.40% +3.5% +3.1%
2016年6月24日(英EU離脱) −7.92% +11.2% +12.4%
2016年11月9日(米大統領選) −5.36% +15.5% +17.0%
2018年12月25日 −5.01% +7.9% +9.8%
2020年3月9日(コロナ) −5.07% −3.8% +17.7%
2020年3月13日(コロナ) −6.08% +9.2% +28.0%
2024年8月2日 −5.81% +7.8% +8.8%
2024年8月5日(歴代最大の下げ幅) −12.40% +23.0% +21.0%
2025年4月7日(相互関税) −7.83% +18.6% +27.8%
2026年3月9日 −5.20% +1.3% +21.4%

集計するとこうなります。

経過 −5%以上下げた日に買った場合 全日平均
20営業日後 勝率90.0%/平均+9.4% 勝率60.6%/平均+1.1%
60営業日後 勝率100%/平均+16.7% 勝率62.0%/平均+3.2%
120営業日後 勝率100%/平均+21.3% 勝率62.2%/平均+6.1%

10回のうち、20営業日後にマイナスだったのは2020年3月9日の1回だけでした。60営業日後は10回すべてプラスです。

ただし、この数字を「暴落したら買えばよい」と読むのは危険です。サンプルは10回しかなく、しかもこの期間の日経平均は大きな上昇局面にありました。2020年3月9日の例のように、暴落が1回で終わらず翌週にさらに下げることもあります。

数字が示しているのは「戻る確率が高い」ということであって、「必ず戻る」ではありません。

いまの日経平均は、2025年4月とは位置が違う

過去のデータを当てはめる前に、確認しておくべきことがあります。いまの株価の位置です。

項目 数値
2026年9月4日の終値 65,020.94円
終値の史上最高値 72,366.34円(2026年6月25日)
史上最高値からの位置 −10.2%
2026年の安値 51,063.72円(3月31日)
年初来 +29.2%
2025年4月2日(相互関税の前日)比 +82.0%

2025年4月2日から、日経平均は82.0%上がっています。年初来でも+29.2%です。前回の相互関税ショックは、日経平均が35,725円という水準で起きました。いまは65,020円です。

これは2つの意味を持ちます。

1つは、同じ12.85%の下落でも、金額の幅がまったく違うことです。35,725円の12.85%は約4,590円ですが、65,020円の12.85%は約8,350円になります。

もう1つは、上がったあとの相場だという点です。年初来+29.2%という位置は、利益が乗っている人が多い水準を意味します。利益が乗っている状態で悪材料が出ると、利益確定の売りが重なりやすくなります。

最悪シナリオを4段階で組み立てる

ここまでの材料をつなぐと、次のようになります。段階ごとに、起きやすさと日本株への影響を分けて考えます。

段階 起きやすさ 日本株への影響
① 9月16日のFOMCで利下げが見送られる 高い。むしろ利上げの織り込みが半分近い これ自体は想定内。ただし「条件が満たされた」状態になる
② 発言が繰り返される・具体化する 読めない。ただし過去に何度も繰り返してきた ここで下げ始める。2019年は繰り返しで下げが長引いた
③ 232条調査の開始や大統領令など、手続きに入る 中程度。法律上の道はふさがっていない 前回並みの下げが出うる場面。2025年4月は3営業日で−12.85%
④ 対米黒字国すべてとの貿易が実際に止まる 低い。前例がなく、米国自身の物価に跳ね返る 対米輸出20.4兆円(GDPの3.08%)が止まる。前回を超える下げになる

ここで押さえておきたいのは、相場が反応するのは④ではなく②と③だという点です。

2025年4月7日の−7.83%も、関税が実際に経済へ影響を与える前に起きた下げでした。企業の売上が減るより先に、株価は下がります。逆に言えば、④が起きなくても②と③だけで前回並みの下げは起こりうる、ということになります。

そして最も警戒したいのは、②が繰り返される展開です。2019年5月の局面が4か月経っても戻らなかったのは、8月に次の一手が出たからでした。1回で終われば12営業日で戻り、繰り返されると長引く。これが過去4回の通商ショックが示している分かれ目です。

そのうえで、「実現するかどうか」ではなく「市場がどう受け取るか」を見ておくのが現実的な向き合い方になります。

これから何に注目するべきか

時期・対象 何を見るか
9月7日(月)の寄り付き この投稿と雇用統計を織り込んだ最初の取引。どこから始まるか
9月15〜16日のFOMC 利上げ・据え置き・利下げのどれか。据え置きでも「利下げしなかった」ことになる
FOMC後の大統領の反応 発言が繰り返されるか、具体的な手続きに進むか。2019年は繰り返しで下げが長引いた
銀行株 前回は自動車より先に、そして大きく下げた。金利の見方が変わったかを映す
ドル円 156円前後。円高に振れるかどうか。株より戻りが遅い
9月18日の日銀会合 FOMCの2日後。日米の金利差がどう動くかで為替の方向が決まる
米国側の反発 貿易停止は米国の物価も押し上げる。国内から反対が出れば実行の可能性は下がる

まとめ

この記事のポイント

・2026年9月4日、トランプ大統領が「利下げしなければ対米黒字国との貿易を停止する」と投稿
・同日の8月分雇用統計は+16.2万人(予想+5.8万人)で過去5か月の最大
・失業率4.1%で横ばい、労働参加率61.6%へ上昇・U-6は7.7%へ低下と中身も強い
・FRBの政策金利は3.50〜3.75%。コアPCEは3%台で利下げできる状況にない
・9月FOMCの利上げ織り込みは52%→58%へ上昇。条件は満たされる方向
・日本は米国の貿易赤字相手国で7位(715億ドル)。1位の中国の4分の1程度
・対米輸出20兆4,140億円は名目GDPの3.08%。うち約3分の1が自動車関連
2026年2月20日、最高裁が6対3で「IEEPAに関税を課す権限はない」と判断ずみ
ただし塞がれたのは関税だけ。「輸入の禁止」はIEEPAにも232条にも書かれている
・実行のハードルは4つ。とくに貿易停止は米国の物価を押し上げ、利下げを遠ざける
・2025年4月の相互関税で日経平均は3営業日で−12.85%、4月7日単日で−7.83%
1番下げたのは自動車(−14.1%)ではなく銀行(−23.6%)。金利を通じて効いた
2か月後には17業種のうち16業種がプラス。株は底から15営業日で回復
ただし為替の回復は78営業日。株の5倍以上かかった
・1年5か月後の1位は鉄鋼・非鉄+144.0%、最下位は自動車・輸送機+18.3%
・1日−5%以上の下落10回のうち、20営業日後にマイナスは1回だけ
・いまの日経平均は年初来+29.2%・史上最高値から−10.2%の位置

この投稿は現時点でSNSの発言であり、決定された政策ではありません。ただし前回の相互関税では、実際に経済へ影響が出る前の段階で日経平均が3営業日に12.85%下げました。市場が反応するのは、実現したときではなく「実現しそうだ」と受け取ったときです。

権限についても整理しておくと、「全面的な貿易停止」は前例がなく、実行のハードルは高いままです。それでも「関税は最高裁に否定されたが、輸入の禁止という道は残っている」という事実は変わりません。大統領が「関税よりも優れている」と表現したのは、この差を踏まえた言い方だった可能性があります。

そして前回のデータが示していたのは、下げる業種の順番が直感とは違うということでした。関税や貿易制限は、輸出が減る前に金利を通じて効きます。だから前回は銀行が1番下げました。今回の発言が利下げを迫るものである以上、この経路は同じです。

次の判断材料は、9月7日(月)の寄り付き、9月15〜16日のFOMC、そしてその2日後の日銀会合です。この3つで、日米の金利がどちらを向くかがはっきりします。

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