景気動向指数とは、生産・雇用・消費など景気に敏感な30の統計をまとめ、景気の現状と先行きを1つの数値で示した内閣府の統計です。

ここで先に押さえてほしいことがあります。実際のニュースで使われるのは指数の数値ではなく、「基調判断」という5段階の言葉です。

この記事では、CIとDIの役割の違いから、その基調判断の読み方までを整理します。

この記事でわかること

・CIとDIはどちらが主役なのか
・先行・一致・遅行の3指数をどう使い分けるか
・「基調判断」5段階が意味すること
・景気の山と谷が後から決まる理由
・株価と景気動向指数のズレ方

景気動向指数とは

景気動向指数は、内閣府が毎月公表している統計です。景気は「生産」「雇用」「消費」など多くの要素でできているため、1つの統計だけでは全体像がつかめません。そこで景気に敏感に反応する30本の統計を合成し、景気全体の動きを1つの指数にしたものが景気動向指数です。

項目 内容
作成元 内閣府 経済社会総合研究所
公表頻度 毎月(速報値・改訂値)
採用系列 先行11・一致10・遅行9の合計30系列
指数の種類 CI(コンポジット・インデックス)とDI(ディフュージョン・インデックス)
公表の中心 2008年4月分からCIが中心

※ 出典:内閣府 経済社会総合研究所「景気動向指数」(2026年8月時点)

経済指標のなかでも、景気動向指数は「個別の統計」ではなく「複数の統計をまとめた合成指標」である点が特徴です。だからこそ、1本のデータの振れに左右されにくくなっています。

CIとDIは役割がまったく違う

景気動向指数にはCIとDIという2つの計算方法があり、混同されやすい部分です。しかし両者は目的が違います。

  CI(コンポジット) DI(ディフュージョン)
何を測るか 景気変動の大きさ・テンポ 景気の波が経済のどこまで広がったか
計算の材料 各系列の変化率 各系列が上がったか下がったかだけ
数値の意味 基準年=100 の水準 改善した系列の割合(%)
分岐点 なし(前月と比べて判断) 50%
現在の位置づけ こちらが主役 補助的な参考指標

もともと日本ではDIが中心でした。しかしDIは「どれだけ良くなったか」という量感がまったく分かりません。0.1%の改善も10%の改善も、同じ「上がった1票」として扱われるからです。

そのため内閣府は2008年4月分の公表から、CIを中心とする形に切り替えました。現在の報道で「景気動向指数が○ポイント上昇」と言われるのは、ほぼCI一致指数のことです。

覚え方

CI=景気の「強さ」を測る(アクセルの踏み込み量)
DI=景気の「広がり」を測る(何割の分野が上向きか)

先行・一致・遅行という3つの指数

CIもDIも、それぞれ先行・一致・遅行の3種類が公表されます。景気の波に対して、早く動くもの・同時に動くもの・遅れて動くものがあるためです。

指数 系列数 タイミング 使いみち
先行指数 11 数か月に動く 景気の予測
一致指数 10 景気と同時に動く 現状の把握・景気判断の基準
遅行指数 9 半年〜1年遅れて動く 事後確認・景気の転換点の検証

景気の「山」や「谷」を正式に決めるときの基準になるのは一致指数です。先行指数はあくまで予測用、遅行指数は答え合わせ用と考えると整理しやすくなります。

3つの指数が動く順番
数か月前
先行指数
株価・新規求人
消費者マインド
いま
一致指数
生産・出荷
有効求人倍率
半年〜1年後
遅行指数
完全失業率
設備投資・法人税収

どんなデータが使われているのか

30系列の中身を全部覚える必要はありません。「どういう性格のデータが、どこに入っているか」だけ押さえれば十分です。

指数 代表的な採用系列 なぜそのタイミングか
先行 東証株価指数、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、機械受注 「これから作る・雇う・買う」という意思決定の段階のデータだから
一致 生産指数(鉱工業)、耐久消費財出荷指数、有効求人倍率、商業販売額 実際にいま作られ、売られている量そのものだから
遅行 完全失業率、法人税収入、設備投資、家計消費支出、消費者物価指数 景気が悪化しても解雇や投資削減は最後に来るから

※ 採用系列は景気の1循環ごとに見直されます。上記は代表例です(内閣府・2026年8月時点)

注目すべきは、先行指数のなかに「株価」が入っていることです。つまり内閣府自身が、株式市場を「景気を先読みする装置」として公式に扱っているということになります。

CIの見方は「方向」と「大きさ」

CIは基準年を100として計算されます。ただし数値そのものの水準にはあまり意味がありません。見るべきは次の2点です。

① 前月からどちらへ動いたか(方向)

上がったのか下がったのか。これが景気の向きです。

② 何ポイント動いたか(大きさ)

0.1ポイントの動きは誤差の範囲ですが、1ポイントを超える動きは明確な変化です。ここがDIにはない、CI最大の利点です。

ただし1か月だけの動きは、天候や連休の位置といった一時的な要因で簡単にぶれます。そこで内閣府は3か月後方移動平均・7か月後方移動平均という「ならした数値」を使って判断しています。

DIの見方は50%が分岐点

DIは、採用系列のうち3か月前と比べて改善した系列が何%あったかを示します。計算はとてもシンプルです。

DI = 改善した系列数 ÷ 採用系列数 × 100
※ 横ばいの系列は0.5としてカウント
DIの水準 意味
50%超 景気拡張の力が経済の過半に広がっている
50% 拡張と後退が拮抗=転換点の目安
50%未満 後退の動きが過半に広がっている

DIは0%か100%に張り付きやすいという性質があります。景気の転換点付近では一斉に方向が揃うためです。「広がりを見る道具」と割り切って使うのが正しい向き合い方です。

ニュースで使われるのは「基調判断」5段階

ここがこの記事で最も重要な部分です。実際の報道で使われるのは指数の数値ではなく、内閣府が付ける「基調判断」という言葉です。

基調判断は担当者の主観ではなく、CI一致指数の移動平均などから機械的なルールで決められます。表現は次の5つです。

基調判断 示していること 景気の位置
改善 景気拡張の可能性が高い 上り坂
足踏み 景気改善の動きが止まっている可能性が高い 上り坂の踊り場
局面変化 事後的に判定される転換点の可能性がある 峠か谷底かもしれない
下げ止まり 景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高い 下り坂の底付近
悪化 景気後退の可能性が高い 下り坂

※ 出典:内閣府「CIによる景気の基調判断」(2026年8月時点)

「局面変化」は特に注意して読む

上向きから「局面変化」に変わったときは山(景気の頂点)、下向きから「局面変化」に変わったときは谷(景気の底)を通過した可能性を示します。同じ言葉なのに、方向によって意味が正反対になります。直前の判断とセットで読んでください。

景気の山と谷は後から決まる

「景気の山は2018年10月だった」という発表は、その時点ではなく数年後に行われます。景気の転換点(景気基準日付)は、内閣府の景気動向指数研究会が事後的に検討して確定させるためです。

循環 次の谷
第14循環 2002年1月 2008年2月 2009年3月
第15循環 2009年3月 2012年3月 2012年11月
第16循環 2012年11月 2018年10月 2020年5月

※ 出典:内閣府「景気基準日付」(確定済みの日付・2026年8月時点)

つまり「いま景気後退に入ったかどうか」は、リアルタイムでは誰にも断定できません。だからこそ、暫定的な目安として毎月の基調判断が公表されているのです。

株価は先行指数よりさらに先を行く

投資家にとって最も重要なのは、景気動向指数と株価のタイミングのズレです。

時系列 起きること
①最も早い 株価が動く(先行指数の構成要素そのもの)
②数か月後 先行指数が反応する
③さらに後 一致指数が動く=景気の実感が出る
④最後 失業率・設備投資などの遅行指数が動く

さらに厄介なのは公表の遅れです。景気動向指数の速報は対象月のおよそ2か月後に公表されます。5月分のデータが世に出るのは7月上旬です。

ここが結論

景気動向指数は「株を買うタイミングを教えてくれる指標ではない」
株価が先に動き、そのあと2か月遅れて数字が出るため、
指数を見てから買っても相場はとっくに動いた後になる。

景気動向指数が効く業種と効かない業種

景気の波に対する反応は、業種によって大きく違います。この差を意識すると、景気動向指数を実際の投資判断に結びつけやすくなります。

分類 業種の例 景気動向指数との関係
シクリカル銘柄 鉄鋼・化学・機械・海運・半導体 強く連動する。景気の谷で仕込む対象
ディフェンシブ銘柄 食品・医薬品・電力・鉄道・通信 連動しにくい。悪化局面で相対的に強い
内需関連株 小売・不動産・サービス 国内の一致指数と関係が深い
外需関連株 自動車・電機・精密 日本の指数より海外景気と為替の影響が大きい

外需関連株は、日本の景気動向指数が悪くても上がることがあります。売上の多くを海外で稼いでいるためです。「日本の景気=日本株全体」ではない、という点は押さえておいてください。

個人投資家はどこを見ればよいか

毎月30系列を追う必要はありません。実務的には次の3点で足ります。

優先度 見るもの 理由
1番目 基調判断の言葉 前月から変わったかどうかだけ確認する。変化した月がニュースになる
2番目 CI先行指数の方向 3か月続けて同じ方向に動いているかを見る
3番目 日銀短観との突き合わせ 短観は企業の「体感」。統計と体感が食い違うときは転換点が近い

データは内閣府 経済社会総合研究所のサイトで誰でも無料で確認できます。証券会社の経済カレンダーにも「景気動向指数」として掲載されています。

景気動向指数を見るときの注意点

① 速報値は後で書き換わる

速報の翌月に改訂値が出ます。先行指数が0.3ポイント下方修正されるようなことは日常的に起きます。速報の小さな動きに反応しすぎないでください。

② 基調判断は「景気後退の宣言」ではない

「悪化」は景気後退の可能性が高いことを示す機械的な判定であって、政府が景気後退を認定したという意味ではありません。正式な景気の山谷は数年後に確定します。

③ 日本の景気と日本株は別物

日本株の売買代金の多くは海外投資家が占めます。米国の金利や為替のほうが、日本の景気動向指数より日経平均を動かす日は珍しくありません。

④ 採用系列は入れ替わる

系列は景気の1循環ごとに見直されます。過去の指数と単純比較できない時期があります。長期チャートを見るときは基準改定のタイミングに注意してください。

※ 本記事は用語と仕組みの解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

景気動向指数に関するよくある質問

CIとDIはどちらを見ればいいですか?
CIです。内閣府は2008年4月分の公表からCIを中心に切り替えており、報道で使われるのもCIです。DIは「景気の波がどこまで広がったか」を見る補助指標として、余力があるときに確認すれば十分です。
景気動向指数はいつ発表されますか?
毎月公表され、速報は対象月のおよそ2か月後です。たとえば5月分の速報は7月上旬に出ます。その約1か月後に改訂値が公表されます。証券会社の経済カレンダーにも掲載されています。
「局面変化」とはどういう意味ですか?
景気の山または谷を通過した可能性を示す表現です。それまで上向きだった場合は山(頂点)を、下向きだった場合は谷(底)を通過した可能性を意味します。同じ言葉でも直前の判断によって意味が正反対になる点に注意してください。
DIが50%を割ったら株を売るべきですか?
その判断はおすすめできません。DIは3か月前との比較で機械的に算出される指標で、転換点付近では0%や100%に張り付きやすい性質があります。また株価は景気に先行して動くため、指数を見てから動いても相場は先に反応し終えていることがほとんどです。
先行指数が上がれば必ず景気は良くなりますか?
なりません。先行指数はあくまで「その傾向が強い」という統計的な関係にすぎず、外部からの急激なショックには対応できません。1か月だけの動きではなく、3か月程度の方向性で見てください。
景気動向指数と日銀短観はどう違いますか?
景気動向指数は生産や雇用などの実データを合成した客観的な統計、日銀短観は企業の経営者に景況感を尋ねたアンケートです。実績と体感という違いがあり、両者が食い違うときは景気の転換点が近いサインとされることがあります。
遅行指数は投資に使えますか?
売買のタイミングには使えませんが、景気が本当に回復したかを確認する材料にはなります。完全失業率や設備投資が改善してくれば、回復が実体を伴っていると判断しやすくなります。
データはどこで無料で見られますか?
内閣府 経済社会総合研究所のウェブサイトで、速報・改訂値ともに公表されています。過去に遡った時系列データもダウンロードできます。証券会社の経済指標カレンダーでも結果を確認できます。

まとめ

景気動向指数は「いま景気がどの位置にいるか」を教えてくれる地図です。ただし株価はその地図より先を走っています。売買の号砲としてではなく、相場の背景を理解する道具として使ってください。

この記事のまとめ

・景気動向指数=30系列を合成した内閣府の統計
・主役はCI(変動の大きさ)。DIは広がりを見る補助指標
・2008年4月分からCI中心の公表に変更されている
・先行11・一致10・遅行9系列。判断の基準は一致指数
・ニュースで使われるのは基調判断の5段階
・「局面変化」は直前の方向によって意味が逆になる
・速報は約2か月遅れ。株価はさらに先を動いている

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