指定替えとは、上場している企業が証券取引所内の市場区分を別の区分へ移すことです。正式には「市場区分の変更」と呼ばれ、上位区分への移動を昇格、下位区分への移動を降格と表現することもあります。
ただし、指定替えを調べるときにまず知っておくべき重要な前提があります。「東証1部」「東証2部」「マザーズ」「JASDAQ」という市場は、2022年4月に廃止されてすでに存在しません。「1部指定」「2部降格」という言葉も、現在の制度では使われません。
この記事では、現在の市場区分にもとづいた指定替えの仕組み・基準・株価への影響を解説します。あわせて、昔と決定的に変わった「TOPIXとの関係」についても取り上げます。ここを知らないまま昔の記事を読むと、投資判断を大きく誤ります。
この記事でわかること
・旧市場区分(1部・2部・マザーズ・JASDAQ)が今どうなったか
・プライム/スタンダード/グロースの基準の違い
・上場維持基準を満たせなくなるとどうなるか
・指定替えで株価がどう動くか、そして昔と何が変わったか
・2030年から厳しくなるグロース市場の新基準
目次
指定替えとは?まず結論から
指定替え(読み方:していがえ)
指定替えとは、上場企業が所属する市場区分を別の区分へ変更することです。東京証券取引所(東証)における正式な制度名は「市場区分の変更」で、「市場変更」と呼ばれることもあります。
方向によって呼び方が変わります。
| 方向 | 具体例 | 呼ばれ方 |
|---|---|---|
| 上位区分へ | グロース → プライム スタンダード → プライム |
昇格・市場変更 |
| 下位区分へ | プライム → スタンダード | 降格・区分変更 |
指定替えは自動的に起こるものではなく、原則として企業自身が東証へ申請し、審査を受けて行われます(上場維持基準を満たせなくなった場合は例外で、後述します)。
【重要】東証1部・2部・マザーズ・JASDAQはもう存在しない
指定替えを調べると、いまだに「東証2部から1部への昇格」「マザーズからの市場変更」といった説明が数多く出てきます。これらはすべて2022年4月4日で廃止された、古い市場区分の話です。
東証は同日、それまでの5区分を3区分へ再編しました。
| 旧区分(〜2022年4月3日) | → | 新区分(2022年4月4日〜) |
|---|---|---|
| 市場第一部(東証1部) | → | プライム市場/スタンダード市場 |
| 市場第二部(東証2部) | → | スタンダード市場 |
| JASDAQスタンダード | → | スタンダード市場 |
| マザーズ | → | グロース市場 |
| JASDAQグロース | → | グロース市場 |
再編の目的は、それまで曖昧だった各市場の位置づけを明確にすることでした。3区分にはそれぞれ役割が与えられています。
グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた、大企業向けの市場。最も基準が厳しい。
公開された市場での投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場。
高い成長可能性を持つ一方、事業実績の観点では相対的にリスクが高い企業向けの市場。
各区分の詳しい違いは新市場区分とはで解説しています。
指定替えメモ
・東証1部・2部・マザーズ・JASDAQは2022年4月に廃止済み
・現在はプライム/スタンダード/グロースの3区分
指定替え(市場区分の変更)の手続きと流れ
市場区分の変更は、上場企業からの申請によって行われます。そして審査は、新規上場(IPO)とほぼ同じ基準・同じ厳しさで実施されます。「基準を満たしたら自動的に上がる」制度ではありません。
変更先の区分の形式要件を満たしたうえで申請します。企業が自ら申請しない限り、区分は変わりません。
形式要件だけでなく、企業の継続性・収益性、健全性、内部管理体制、情報開示の適正性などが審査されます。スタンダード市場への変更でも3ヶ月以上を想定とされています。
承認されると東証と企業から公表されます。投資家が指定替えを知るのは通常このタイミングです。
指定された日に区分が変わります。銘柄コードは変わりません。
※ 上場維持基準に適合しなくなったことによる下位区分への変更は、この申請フローとは別の扱いになります。
市場区分ごとの基準【一覧表】
指定替えでどの程度の水準が求められるのかを、新規上場基準(形式要件の主なもの)で比べます。区分変更の審査も、これと同等の基準で行われます。
| 項目 | プライム | スタンダード | グロース |
|---|---|---|---|
| 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
| 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
※ 上表は主な形式要件の抜粋です。ほかに時価総額・純資産・利益・事業継続年数などの要件があります。最新かつ正確な基準は日本取引所グループの公式サイトで確認してください。
プライムとスタンダードの差で最も大きいのは「流通株式時価総額」です。10億円と100億円で10倍の開きがあります。時価総額が大きくても、創業家や親会社の保有比率が高くて流通株式が少ない企業はプライムの基準を満たせません。
なお、上場を維持するために継続して満たす必要がある「上場維持基準」も、ほぼ同じ数値が設定されています。基準は入るときだけでなく、居続けるためにも必要だという点が再編後の大きな特徴です。
上場維持基準を満たせなくなるとどうなる?
基準を下回った瞬間に上場廃止になるわけではありません。改善のための期間が与えられます。
企業は改善計画を作成・開示する必要があります。
この間に基準へ適合できれば問題ありません。適合できない場合は次へ進みます。
上場廃止を避ける手段として、より基準の緩い区分へ移る選択肢があります。上場廃止になると原則として市場で売買できなくなります。
→ 2025年3月1日以後に到来する基準日から、本来の上場維持基準が適用
つまり現在は「基準を満たせなければ本当に上場廃止になる」局面に入っています。低位・小型の銘柄に投資する場合、上場維持基準への適合状況を確認する重要性が以前より格段に高まりました。
グロース市場は2030年から基準が大幅に厳しくなる
東証は2025年に、グロース市場の上場維持基準を引き上げる方針を公表しました。これは今後の指定替えを考えるうえで見逃せない変更です。
10年経過後の時価総額
5年経過後の時価総額
2030年3月1日以降に最初に到来する事業年度末から適用
狙いは、時価総額100億円以上を主な投資対象とする機関投資家の資金をグロース市場へ呼び込むことと、上場企業の新陳代謝を促すことです。グロース市場の小型銘柄に長期で投資する場合、この期限は必ず意識しておくべきポイントです。
※ 新基準への適合を目指す計画を投資家に開示する場合、その計画期間は例外的に上場を認める経過措置が予定されています。
指定替えで株価はどう動く?【昔と決定的に変わった点】
ここが本記事で最も重要な部分です。「東証1部へ昇格すると株価が上がる」という定説は、現在の制度では成り立ちません。
昔:1部昇格 = TOPIX組入れ = 機関投資家の買い
かつては、東証1部に上場する全銘柄が自動的にTOPIX(東証株価指数)の構成銘柄になっていました。TOPIXに連動する投資信託やETFは、指数に組み入れられた銘柄を機械的に買う必要があります。
そのため「2部から1部へ昇格 → TOPIXに組み入れられる → インデックスファンドの買いが入る」という流れが確実に存在し、これが昇格銘柄が急騰する最大の理由でした。
今:TOPIXと市場区分の紐づけは廃止された
2022年の再編にあわせて、TOPIXは市場区分との紐づけを廃止しました。プライム市場に移ったからといって、TOPIXに組み入れられるわけではありません。
| 項目 | 〜2022年3月 | 現在 |
|---|---|---|
| TOPIXの対象 | 東証1部の全銘柄 | 市場区分と無関係 |
| 選定の基準 | 市場区分 | 流動性・浮動株時価総額 |
| 昇格の効果 | 指数買いが確実に入った | 指数買いは入らない |
さらに東証はTOPIXの見直しを段階的に進めており、構成銘柄を流動性重視で絞り込む方向にあります。指定替えよりも「TOPIXに残れるかどうか」のほうが、株価インパクトとしては大きくなりました。株価指数の仕組みとあわせて押さえておきましょう。
それでも指定替えが株価材料になる理由
指数買いがなくなった今でも、指定替えが買い材料として意識されることはあります。
上位区分の審査を通過したこと自体が、財務やガバナンスの水準を満たした証明になります。取引先や採用面でのメリットもあります。
運用方針として「プライム市場の銘柄のみ」と定めているファンドや、機関投資家の一部が対象に含められるようになります。
基準を満たすために売出しや株式分割が行われることがあり、これ自体が需給の材料になります。
逆に下位区分への変更は、基準を満たせなくなった結果であることが多いため、業績悪化や時価総額の縮小といったネガティブな材料とセットで受け止められます。
指定替えを狙う投資で注意すべきこと
TOPIXの指数買いという最大の根拠が消えています。過去の値動きのチャートをそのまま参考にすると期待値を大きく見誤ります。
申請しているかどうかは公表されないのが通常です。基準を満たしていても企業が申請しなければ何も起きません。思惑だけで買うと、いつまでも材料が出ないまま持ち続けることになります。
発表前に思惑で買われていた場合、発表そのものが利益確定のきっかけになります。利確の売りが集中し、公表直後に下落するパターンは珍しくありません。
審査は新規上場と同等で、3ヶ月以上かかります。必ず通るものではありません。
経過措置が終了し、グロース市場の基準引き上げも決まっています。小型株では「上がるか」より先に「残れるか」を確認してください。
指定替えの情報はどこで確認する?
指定替えは思惑で語られやすい話題ですが、確認できる一次情報があります。噂ではなく、この2つで裏を取ってください。
市場区分の変更が承認されると、企業から適時開示が出ます。「市場区分の変更に関するお知らせ」といった表題で公表され、変更予定日も記載されます。
市場区分の変更を行った銘柄の一覧や、上場維持基準への適合状況が公表されています。基準未達企業の改善計画も確認できます。
「申請したらしい」という情報は、原則として公表されません。掲示板やSNSで流れる「昇格が近い」という話には裏付けがないケースがほとんどです。判断は開示された事実だけで行ってください。
なお、決算の内容から基準への適合状況をある程度推測することはできます。決算短信で純資産や利益を、株価情報で時価総額を確認するのが出発点になります。ただし流通株式数や流通株式比率は東証の定義に基づく計算が必要で、外部から正確に算出するのは容易ではありません。
東証以外の市場との関係(名証・札証・福証)
日本には東証のほかに、名古屋・札幌・福岡の3つの証券取引所があります。指定替えを調べるときに混同しやすいので、整理しておきます。
| 取引所 | 市場区分 |
|---|---|
| 東京証券取引所 | プライム/スタンダード/グロース |
| 名古屋証券取引所 | プレミア/メイン/ネクスト |
| 札幌証券取引所 | 本則市場/アンビシャス |
| 福岡証券取引所 | 本則市場/Q-Board |
取引所をまたぐ移動は「指定替え」ではなく、東証への新規上場という扱いになります。地方取引所に上場している企業が東証へ上場する場合も、通常の上場審査を受けます。
※ 名証は2022年4月に東証と同時に市場区分を見直し、旧「市場第一部・第二部・セントレックス」からプレミア・メイン・ネクストへ移行しました。
投資家として押さえておく現実的なチェックポイント
指定替えを投資判断に使うなら、次の順番で確認するのが実務的です。
| 確認すること | なぜ見るのか |
|---|---|
| ① 上場維持基準に適合しているか | 経過措置が終了し、未達は上場廃止に直結する |
| ② 改善計画を開示していないか | 開示があるなら、すでに基準を下回っている |
| ③ グロース上場から何年経つか | 2030年3月からの新基準に間に合うか |
| ④ 流通株式時価総額の水準 | 時価総額が大きくても流通株が少なければ基準未達になる |
現在の相場環境では、指定替えは「上がる材料」より「残れるかどうかのリスク管理」として使うほうが実益があります。特に流動性の低い小型株を長期で保有する場合は、①と②を投資前に必ず確認してください。
指定替えに関するよくある質問
まとめ
指定替え(市場区分の変更)を理解するうえで最も重要なのは、2022年4月の市場再編で前提が根本から変わったという事実です。東証1部もマザーズも存在せず、昇格による指数買いという最大の株価要因も消えました。
いま指定替えを投資判断に使うなら、「上がるか」よりも「基準を満たし続けられるか」という視点のほうが重要です。特に経過措置の終了とグロース市場の基準引き上げは、小型株を持つ投資家にとって直接的なリスク要因になります。
この記事のまとめ
・東証1部・2部・マザーズ・JASDAQは2022年4月に廃止済み
・現在はプライム/スタンダード/グロースの3区分
・変更は企業の申請が前提で、審査は新規上場と同等
・TOPIXと市場区分の紐づけは廃止され、昇格しても指数買いは入らない
・経過措置は2025年3月で終了し、基準未達は上場廃止につながる
・グロース市場は2030年3月から「上場5年後・時価総額100億円」へ厳格化
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