損切りができない理由|-10%が1番危ない実測データ

損切りができないのは意志が弱いからではなく、人間の判断がそうできているからです。だから精神論では解決せず、注文の出し方で仕組みにする必要があります。

そのうえで、損切りラインをどこに置くかには実測で確かめられる論点があります。日経平均で直近の高値から一定率下げた局面を抽出し、その後の値動きを調べました。

高値からの下落 回数 20営業日後の平均 上がった割合
−5%まで下げた 125回 +0.4% 55%
−10%まで下げた 64回 −1.5% 42%
−20%まで下げた 23回 +6.0% 74%

1番成績が悪いのは、−10%まで下げた局面でした。

浅い下げは戻りやすく、深い下げは反発しやすい。その中間である−10%だけが、下げ続ける確率が高くなっています。この記事では、この事実をふまえて損切りの設計を考えます。

この記事でわかること

損切りができない理由(意志ではなく判断の仕組み)
−5%・−10%・−20%のその後(独自集計)
・損切りラインの決め方3種類と、使い分け
逆指値注文の具体的な設定手順
・逆指値が効かない場面と、その備え
・ナンピンは損切りの代わりになるのか
・損切りした後にやること

※ この記事はリスク管理の考え方とデータの解説であり、特定の売買を推奨するものではありません。損切りの水準については損切りとは?ルールの決め方もあわせてご覧ください。

損切りができない本当の理由

「わかっているのにできない」という状態には、はっきりした説明があります。

働き 内容
損失回避 同じ金額でも、損の痛みは得の喜びより大きく感じられる。だから損を確定させたくない
保有効果 自分が持っているものを高く評価してしまう
サンクコスト すでに使った時間と資金を惜しみ、判断を先送りする
確証バイアス 下がっているのに、上がる材料ばかり探してしまう
正常性バイアス 「いつもの調整だ」と思い込み、異常を異常と認識しない

ここで大事なのは、これらは知識で消えないという点です。

損失回避の働きを知っていても、実際に含み損を見たときの感じ方は変わりません。だから「損切りできる人間になる」ことを目指すのではなく、判断の前に注文を置いてしまうほうが確実です。

考え方の切り替え

🔴 「下がったら損切りしよう」 … 下がった時点で判断することになる。そのときには損失回避が働いている

「買うと同時に、降りる価格の注文を出しておく」 … 判断は平常時に済んでいる。あとは執行されるだけ

【独自集計】高値から下げた後、どうなったか

損切りラインを考えるうえで、実際の値動きを確認します。

日経平均で、直近60営業日の高値から一定率下げた日を起点とし、その後の推移を集計しました。

起点 回数 20日後 60日後 120日後
−5% 125回 +0.4%
(勝率55%)
+1.3%
(勝率53%)
+2.2%
(勝率53%)
−10% 64回 −1.5%
(勝率42%)
−0.3%
(勝率47%)
+0.4%
(勝率50%)
−20% 23回 +6.0%
(勝率74%)
+6.6%
(勝率65%)
+8.4%
(勝率57%)

出典:日経平均の日足終値(1985年1月〜2026年8月27日)をもとに独自集計。同一局面の重複を避けるため、起点の間隔は60営業日以上としています。

ここから読み取れることを整理します。

−5%|浅い下げ
20日後 勝率55%
ただの調整であることが多い
ここで切ると往復ビンタになりやすい
−10%|最も危ない
20日後 勝率42%
下げが続きやすい水準
3つの中で唯一マイナス
−20%|深い下げ
20日後 勝率74%
投げ売りが出尽くしている
反発しやすい局面

−10%という水準は、調整と呼ぶには深く、投げ売りが出尽くすには浅いという中途半端な位置にあります。

「−10%で損切り」という一般的なルールが機能しにくいのは、ちょうど下げが続きやすい水準に置いているためです。

【独自集計】切らなかった場合、どこまで下げたか

損切りしなかった場合に何が起きるかも確認しておきます。それぞれの起点から60営業日の間に、最大でどれだけ下げたかです。

起点 その後60日の最大下落(平均) 最悪のケース
−5%から −7.7% −40.3%
−10%から −10.1% −31.6%
−20%から −7.3% −31.6%

平均で見れば、そこからさらに7〜10%下げています。そして最悪のケースでは、−5%の時点からさらに40.3%も下げた局面がありました。

これが損切りをする理由です。平均だけを見て「戻るから待とう」と判断すると、この最悪のケースに当たったときに回復不能になります。

損切りラインの決め方は3種類ある

ラインの置き方には3つの方法があり、それぞれ向いている場面が違います。

方法 決め方 向いている場面と注意
① 率で決める 買値から−5%、−8%など わかりやすい。ただし銘柄の値動きの大きさを無視する
② ATRで決める 平均的な値幅の2倍を下に置く 銘柄ごとの値動きに合う。ノイズで切られにくい
③ チャートで決める 直近の安値や移動平均線の少し下 根拠が明確。ただし多くの人が同じ場所に置く

率で決めることの落とし穴

1日の値幅が1%の銘柄で−5%に置く → 5日分の値動き。簡単には当たらない

1日の値幅が5%の銘柄で−5%に置く → 1日の値動きの範囲内。ほぼ確実に当たる

🔵 同じ「−5%」でも、銘柄によって意味がまったく違います。だから値動きの大きさを基準にするATRのほうが理にかなっています。

ATRの考え方とポジションサイズへの応用はボラティリティの記事で解説しています。

逆指値注文の設定手順

損切りを仕組みにする具体的な方法です。

手順 やること
1 買う前に、降りる価格を決める。「いくらまで下がったら間違いだったと認めるか」
2 その価格までの下落幅と、許容できる損失額から買う株数を逆算する
3 買い注文が約定したら、すぐに逆指値の売り注文を出す
4 注文の有効期限を確認する。当日限りだと翌日は無防備になる
5 上がったら逆指値も上げる(トレーリング)。下げるのは禁止

2の「株数を逆算する」が、実務では1番効きます。

株数の決め方(例)

資金100万円/1回の損失を資金の2%=2万円までと決める

株価2,000円、逆指値を1,900円に置く → 1株あたりの損失は100円

2万円 ÷ 100円 = 200株まで買える

🔵 この順番で決めると、逆指値が当たっても損失は必ず2万円で止まります。
先に株数を決めてから逆指値を置くと、損失額が毎回変わってしまいます。

5の「逆指値を下げるのは禁止」も重要です。下げてしまうと、そこまでの計算がすべて無意味になります。ここを1回でも崩すと、次からも崩れます。

逆指値が効かない場面

逆指値は万能ではありません。効かない場面を知っておく必要があります。

場面 何が起きるか 備え
寄り付きの窓 引け後の悪材料で、逆指値より大幅に下で寄る 決算発表日をまたがない
ストップ安 買い手がおらず約定しない。翌日も続くことがある 出来高の少ない銘柄を避ける
板が薄い 発動しても想定よりかなり下で約定する 売買代金の大きい銘柄を選ぶ
注文の期限切れ 当日限りの設定で、翌日は注文が消えている 期間指定を使い、毎朝確認する

損切りルールを決めていても、板がなければ実行できません。銘柄選びの段階で流動性を確認しておくことが、損切りの前提になります。

窓についてはギャップダウン、値幅制限についてはストップ安の記事で解説しています。

ナンピンは損切りの代わりになるか

下がったところで買い増すナンピンは、損切りの代わりにはなりません。

項目 損切り ナンピン
損失の上限 決まっている 買い増すたびに増える
戻ったときの利益 なし 大きい
戻らなかったとき 損失は限定される 損失が拡大し続ける
必要な条件 なし あらかじめ資金を分けてあること

計画されたナンピンと、値下がりを受けての衝動的な買い増しは別のものです。

最初から「3回に分けて入れる」と決めていた2回目・3回目は計画です。一方、下がったのを見てから「安くなったから」と買い足すのは、損切りしたくない気持ちを別の行動に置き換えているだけになりがちです。

損切りした後にやること

損切りは実行して終わりではありません。

やること 理由
記録に残す 買った理由・降りた価格・その後どうなったかを書く。ルールが機能しているか検証できる
切った後の値動きを見る 戻った回数が多すぎるなら、ラインが浅すぎるという情報になる
すぐ次を買わない 取り返そうとする売買は、金額が大きくなりやすい
年末に損益通算を確認 確定した損失は、同じ年の利益と相殺できる

「損切りしたら戻った」が続く場合は、意志の問題ではなくラインの置き方の問題です。−5%の局面が20営業日後に55%の確率で戻っていたという集計は、浅いラインが往復ビンタになりやすいことを示しています。

よくある質問

損切りは何%が正解ですか?
率で一律に決めるのは、実はあまり合理的ではありません。同じ−5%でも、1日の値幅が1%の銘柄と5%の銘柄ではまったく意味が違うためです。値動きの大きい銘柄では通常のノイズで当たってしまいます。銘柄ごとの平均的な値幅(ATR)の2倍を目安にすると、値動きに合ったラインになります。日経平均の集計では、−10%という水準が最も下げ続けやすい(20営業日後の勝率42%)という結果が出ています。
なぜ−10%が1番危ないのですか?
下落の性質が中途半端になる水準だからと考えられます。−5%は通常の調整で収まることが多く(20営業日後の勝率55%)、−20%まで来ると投げ売りが出尽くして反発しやすくなります(同74%)。その中間である−10%は、調整では説明できないほど深く、かといって売りが枯れるほどでもないため、下げが続きやすくなります。
損切りせずに待てば戻りますか?
戻ることもありますが、待つ判断は最悪のケースに耐えられる前提が必要です。集計では、高値から−5%下げた局面のうちその後60営業日で最大−40.3%まで下げたケースがありました。平均では−7.7%にとどまりますが、平均だけを見て待つと、この最悪のケースに当たったときに回復できなくなります。損切りは平均のためではなく、この裾野の部分に備えるためのものです。
逆指値を置いても損切りできないことはありますか?
あります。引け後の悪材料で翌朝に逆指値より大幅に下で寄り付く場合、その価格で約定します。ストップ安に張り付くと、そもそも約定しません。板が薄い銘柄では、発動しても想定よりかなり下で約定します。これらは注文の設定では防げないため、決算発表日をまたがない、売買代金の大きい銘柄を選ぶという銘柄選びの段階で対処することになります。
ナンピンをしてもいいですか?
あらかじめ計画していた場合に限ります。最初から「3回に分けて買う」と決めていた2回目・3回目は計画的な買い増しですが、下がったのを見てから買い足すのは損切りの先送りになりがちです。見分け方は簡単で、買う前にその金額を予定していたかどうかです。予定していなかった資金を投入しているなら、それは計画ではありません。
損切りした直後に株価が戻ってしまいます。
頻繁に起きるなら、ラインが浅すぎる可能性が高いです。日経平均でも高値から−5%下げた局面は20営業日後に55%の確率で上昇しています。この水準は通常の調整に当たりやすいため、切ってから戻るという形になりやすくなります。対処は2つで、ラインを値動きの大きさ(ATR)に合わせて広げるか、その分だけ買う株数を減らすかです。株数を減らせば、ラインを広げても損失額は変わりません。
1回の損失はいくらまでにすべきですか?
一般的には資金の1〜2%が目安とされます。100万円なら1万円から2万円です。この金額を先に決めておくと、逆指値までの下落幅から買える株数が自動的に決まります。順番が重要で、株数を先に決めてから逆指値を置くと、毎回の損失額がばらついてしまいます。
長期投資でも損切りは必要ですか?
個別銘柄なら必要です。企業の業績が構造的に悪化した場合、株価が戻らないまま終わることがあります。一方で指数に連動する投資信託などを積み立てている場合は、値下がりを買い増しの機会として扱う設計になっているため、損切りの考え方は当てはまりません。個別銘柄か指数か、そして時間分散をしているかどうかで判断が変わります。

まとめ|判断ではなく注文にする

この記事の要点
損切りできないのは意志ではなく損失回避という判断の働き。知識では消えない
だから買うと同時に逆指値を置く。判断を平常時に済ませる
高値から−10%の水準が最も下げ続けやすい(20営業日後の勝率42%)
−5%は勝率55%で調整の範囲、−20%は勝率74%で反発しやすい
切らなかった場合、平均でさらに7〜10%下げ、最悪は−40.3%
ラインは率ではなく値動きの大きさ(ATR)で決めると当たり方が変わる
損失額を先に決め、そこから株数を逆算する。順番を逆にしない

損切りの話は「切れるかどうか」に集まりがちですが、実際に効くのは切る前の設計です。

どこで降りるかを決め、そこから株数を逆算し、買った瞬間に注文を出す。ここまで済ませてしまえば、あとは執行されるだけで、含み損を見ながら決断する場面そのものがなくなります。

※ 本記事の集計は日経平均株価の日足終値(1985年1月2日〜2026年8月27日)に基づく独自集計です。指数の値動きであり、個別銘柄の成績を示すものではありません。過去の傾向であり、将来の値動きを保証するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

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