
「1962年以降の中間選挙の年は、16回すべてで8月中旬から選挙日までにS&P500が下落している」——SNSでよく見かける有名な数字です。2026年11月3日にアメリカの中間選挙を控えたいま、この説を目にした人も多いと思います。
そこで1962年から2022年までの16回分について、S&P500の日次データを実際に集計して検証しました。結果を先に言うと、この説は言葉どおりには当てはまりません。ただし、言い方を1つ変えると16回すべてに当てはまる事実が確かに存在します。そして本当に注目して欲しいのは、そこではなく選挙が終わったあとに起きていることです。
この記事でわかること
・では何が16回すべてに当てはまったのか
・安値を付ける月が1つに集中しているという事実
・日経平均で同じ集計をすると、米国株より当てはまること
・選挙日を過ぎたあとに16回中16回で起きていること
・2026年がいま、そのパターンのどこにいるのか
※ 本記事は過去データの検証と解説を目的としたもので、将来の値動きを保証するものでも、特定の銘柄や指数の売買を推奨するものでもありません。株価データはS&P500が2026年8月27日、日経平均が同年8月28日の終値時点です。
目次
まず最初に|どのポイントに注目して検証したのか
検証の前に、注目したポイントを簡単に説明します。相場のアノマリーは、言葉の切り取り方ひとつで「100%当たる」ようにも「五分五分」にも見えてしまいます。だから、次の3つを分けて数えました。
| 数えたこと | 意味 |
|---|---|
| ① 8月15日 → 選挙日の騰落率 | 期間を通して結局いくら下がったのか(=「下落した」の素直な解釈) |
| ② 期間中の最大下落率 | 途中でどこまで下げる場面があったか(=ドローダウン) |
| ③ 安値を付けた日付 | 下げが終わるのはいつ頃が多いのか |
集計の条件はシンプルです。起点は各年の8月15日(休場なら翌営業日)の終値、終点は選挙日(11月の第1月曜日の次の火曜日)の終値。対象は1962年から2022年までの16回です。誰でも同じ手順で再現できます。
結論|「16回すべて下落」は事実ではない
まず①の結果から見てみましょう。8月15日から選挙日までの騰落率です。
| 中間選挙の年 | 8月15日→選挙日 | 期間中の最大下落率 | 安値を付けた日 |
|---|---|---|---|
| 1962年 | −0.5% | −10.5% | 10月23日 |
| 1966年 | −2.4% | −11.5% | 10月7日 |
| 1970年 | +11.8% | −4.3% | 8月17日 |
| 1974年 | −1.6% | −18.4% | 10月3日 |
| 1978年 | −9.6% | −12.9% | 10月31日 |
| 1982年 | +32.1% | −4.2% | 8月16日 |
| 1986年 | −0.4% | −9.4% | 9月29日 |
| 1990年 | −8.4% | −13.1% | 10月11日 |
| 1994年 | +1.0% | −5.0% | 10月6日 |
| 1998年 | +2.5% | −13.1% | 8月31日 |
| 2002年 | −1.6% | −19.3% | 10月9日 |
| 2006年 | +7.6% | −1.8% | 8月15日 |
| 2010年 | +10.6% | −4.3% | 8月26日 |
| 2014年 | +2.9% | −7.4% | 10月15日 |
| 2018年 | −2.2% | −9.9% | 10月29日 |
| 2022年 | −10.9% | −16.9% | 10月12日 |
集計するとこうなります。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 下落した回数 | 16回中 9回(上昇は7回) |
| 平均騰落率 | +1.9% |
| 中央値 | −0.5% |
| 最大の上昇 | 1982年 +32.1% |
| 最大の下落 | 2022年 −10.9% |
9勝7敗。ほぼ五分五分です。1982年に至っては3か月弱で32%も上がっています。これは1982年8月がその後の長期上昇相場の出発点だったためで、「中間選挙前は下がる」という説とは正反対の動きでした。
つまり「16回すべてで下落」という言葉をそのまま受け取ると、事実と食い違います。平均は小幅なプラスで、中央値がわずかにマイナスという、非常に地味な数字が実態です。
では、何が16回すべてに当てはまったのか
そして多くの解説記事が触れていないからこそ1番注目して欲しいのがこのポイントです。②の「期間中の最大下落率」を見てください。
16回すべてがマイナスです。例外は1つもありません。
| 下落幅 | 該当した回数 | 代表的な年 |
|---|---|---|
| 下落局面があった | 16回中 16回 | すべての年 |
| 5%を超える下落 | 16回中 11回 | 1962・1966・1974・1978ほか |
| 10%を超える下落 | 16回中 8回 | 1974・1990・2002・2022ほか |
| 平均の最大下落率 | −10.1% | — |
ここに、あの説が生まれた理由があります。「下がった」のではなく「下がる場面が必ずあった」。数字としては16回中16回で正しく、しかも平均で10%というのは無視できない大きさです。
→ 実データでは9勝7敗
→ 平均−10.1%で16回中16回
この2つは、投資の意思決定にとってまったく違う意味を持ちます。前者が正しければ「8月に売って選挙後に買い戻す」が有効ですが、実際にそれをやると1982年に32%、2010年に11%の上昇を取り逃がします。後者が正しい場合の使い道は、売買のタイミングではなく下げに備える心構えのほうです。
安値を付けた月が、はっきり1つに偏っている
③の「安値を付けた日」を月ごとに数えると、きれいな偏りが出ました。
| 安値を付けた月 | 回数 | 該当した年 |
|---|---|---|
| 10月 | 10回 | 1962・1966・1974・1978・1990・1994・2002・2014・2018・2022 |
| 8月 | 5回 | 1970・1982・1998・2006・2010 |
| 9月 | 1回 | 1986 |
16回中10回が10月に安値を付けています。しかも8月の5回のうち3回(1970年・1982年・2006年)は、起点の8月中旬がそのまま安値、つまり一度も下げずに選挙日を迎えた年でした。実質的に、下げた年はほぼ10月に底を打っているという結果です。
10月は、もともと相場が荒れやすい月として知られています。1987年のブラックマンデー、2008年のリーマン・ショック後の暴落もこの月でした。中間選挙の年は、そこに選挙結果の不透明感が重なる形になります。セルインメイの格言に「9月まで戻ってくるな」という後半があるのも、この季節性と無関係ではありません。
日経平均で同じ集計をすると、実は米国株より当てはまる
ここからが、日本の投資家にとって本題かなと思います。同じ集計を日経平均株価で行いました。データの制約で1966年からの15回分になります。
| 中間選挙の年 | 8月15日→選挙日 | 期間中の最大下落率 |
|---|---|---|
| 1966年 | −3.6% | −6.0% |
| 1970年 | −0.1% | −7.2% |
| 1974年 | −15.1% | −21.1% |
| 1978年 | +8.2% | −1.1% |
| 1982年 | +6.6% | −5.1% |
| 1986年 | −8.7% | −16.5% |
| 1990年 | −14.8% | −28.1% |
| 1994年 | −4.9% | −6.7% |
| 1998年 | −5.7% | −16.4% |
| 2002年 | −8.8% | −16.2% |
| 2006年 | +3.7% | −5.1% |
| 2010年 | −0.4% | −5.8% |
| 2014年 | +10.1% | −11.3% |
| 2018年 | −0.3% | −12.9% |
| 2022年 | −3.5% | −11.2% |
日米を並べると、はっきり差が出ます。
| 項目 | S&P500(16回) | 日経平均(15回) |
|---|---|---|
| 下落した回数 | 9回(56%) | 11回(73%) |
| 平均騰落率 | +1.9% | −2.5% |
| 下落局面があった回数 | 16回すべて | 15回すべて |
| 平均の最大下落率 | −10.1% | −11.4% |
| 5%超の下落があった回数 | 11回(69%) | 14回(93%) |
皮肉なことに、アメリカの選挙のアノマリーは、アメリカの株よりも日本の株のほうがよく当てはまっています。15回中11回で下落、平均は−2.5%のマイナスです。5%を超える下げに至っては15回中14回で起きています。
理由として考えられるのは、日本株が米国株の下げに対して増幅して反応しやすいことです。リスクオフの局面では円が買われやすく、外需関連株の比重が高い日経平均は、株安と円高の両方を同時に受けます。米国株が5%下げるときに日本株が7%下げる、という形が起こりやすい構造です。
本当に注目して欲しいのは、選挙が終わったあと
ここまでは「選挙前」の話でした。実は、この検証でもっと注目の事実が判明したのが選挙後です。
| 選挙日からの期間 | S&P500の平均騰落率 | 上昇した回数 |
|---|---|---|
| 3か月後 | +6.9% | 16回中 14回 |
| 6か月後 | +13.8% | 16回中 16回 |
| 12か月後 | +14.2% | 16回中 16回 |
1962年以降の16回すべてで、中間選挙日から6か月後も12か月後もS&P500は上昇しています。負けが1回もありません。
これは「16回すべて下落」よりもはるかに強い規則性です。しかも下落局面が10月に集中するという先ほどの結果と組み合わせると、意味が見えてきます。選挙前の下げは、選挙後の上げの助走になっているという形です。
日経平均でも同じ集計をしましたが、こちらは米国ほど強くありませんでした。
| 選挙日からの期間 | 日経平均の平均騰落率 | 上昇した回数 |
|---|---|---|
| 3か月後 | +3.7% | 15回中 9回 |
| 6か月後 | +10.1% | 15回中 13回 |
| 12か月後 | +10.8% | 15回中 11回 |
下げは米国株より大きく受けるのに、上げは米国株ほど取れていない。日本株を持つ立場から見ると、ここは警戒しておくべきポイントかなと思います。
なぜ選挙が終わると上がるのか
数字の裏にある理屈も押さえておきます。相場が嫌うのは悪い材料そのものではなく、決まっていない状態です。
加えて、中間選挙の翌年は大統領選の前年にあたります。政権が景気を冷やす政策を打ちにくい時期で、4年周期のなかでは株価が最も強くなりやすい年とされています。12か月後が16回中16回で上昇しているのは、この時期がまるごと重なっているためです。
2026年は、いまパターンのどこにいるのか
2026年11月3日の中間選挙まで、残り67日です。現在地を確認します。
| 項目 | S&P500 | 日経平均 |
|---|---|---|
| 直近の終値 | 7,730.99(8月27日) | 66,405.56円(8月28日) |
| 年初来 | +12.7% | +28.1% |
| 年初来高値 | 7,798.99(8月13日) | 72,366.34円(6月25日) |
| 年初来高値からの下落率 | −0.9% | −8.2% |
| 8月17日からの騰落率 | −0.2% | −4.1% |
| この期間の安値 | 7,641.16(8月20日) | 65,326.42円(8月19日) |
| 期間中の最大下落率(起点比) | −1.3% | −5.6% |
過去16回の平均が最大−10.1%だったのに対し、S&P500の下げはまだ1.3%程度です。しかも8月27日にかけて戻しており、起点からの騰落率は−0.2%と、ほぼ横ばいまで回復しています。アノマリーどおりに動くなら、下げはこれから、そして底は10月という形になります。
一方で日経平均はすでに6月の高値から8.2%下げていて、8月中旬を起点にした下落も一時−5.6%に達しました。日本株のほうが先に動いているという状態です。これを「もう織り込んだ」と見るか「日本株の弱さが先行している」と見るかで、対応は変わります。
このアノマリーをそのまま信じてはいけない3つの理由
ここまで数字を並べてきましたが、そのまま売買に使うことは勧められません。理由を3つ挙げます。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| ① サンプルが16回しかない | 64年分あっても、事象としては16件。統計的に強い結論を出せる数ではない |
| ② 有名になったアノマリーは効かなくなる | 全員が知っている規則性は先回りされて消える。セルインメイがたどった道と同じ |
| ③ 主因は選挙ではない可能性 | 1974年は石油危機、1990年は湾岸危機、2022年は利上げ。下げの理由は選挙以外にあった |
特に③は重要です。中間選挙の年に下げたのではなく、たまたま大きな事件が中間選挙の年に起きていた、という可能性を否定できません。4年に1回という頻度は、経済ショックの周期と簡単に重なります。
それでも、この検証には使い道があります。「選挙前の秋は下げる場面が来やすい」と事前に知っておくこと自体が、下げたときの行動を変えます。想定していた下げと、想定していなかった下げでは、同じ10%でも意味がまったく違います。狼狽売りは、たいてい後者で起きます。
これから選挙日まで注目するべき5つのポイント
アノマリーそのものより、こちらのほうが実用的かなと思います。今後2か月で確認したい項目です。
| 注目するポイント | なぜ見るのか |
|---|---|
| ① 10月に入ってからの値動き | 過去16回中10回で10月に安値を付けている。最も再現性が高かった部分 |
| ② 日米の下げ幅の差 | 日経平均はすでに先行して下げている。米国株が追いつくのか、日本株だけの問題なのか |
| ③ VIX(恐怖指数)の水準 | 20を超えてくると、10%級の調整が入りやすい局面に移る |
| ④ 為替(ドル円) | リスクオフでは円高になりやすく、日本株には二重の逆風になる |
| ⑤ 現金の比率 | 下げが来る前提なら、買い向かうための資金を先に用意しておく必要がある |
⑤について補足します。過去のパターンが示しているのは「売れ」ではなく、「下げが来ても慌てず、むしろ拾えるように準備しておけ」ということです。選挙後の6か月・12か月が16回すべて上昇していたという事実は、下げを恐れる根拠ではなく、下げに向き合う根拠のほうに近いと考えています。
そのときに効いてくるのが、一度に買わずに分けて入る打診買いの考え方です。底を当てにいく必要はありません。
まとめ
今回の検証での見解はこのようになっています。
検証結果の3行まとめ
・ただし16回すべてで下落する場面はあった。平均−10.1%で、安値は10月に集中
・最も規則性が強いのは選挙後。6か月後・12か月後は16回すべて上昇(平均+13.8%・+14.2%)
アノマリーは、当てにいく道具ではなく備えるための道具です。「秋に下げる場面が来やすい」と知っていれば、下げたときに売らずに済みます。「選挙後は上がってきた」と知っていれば、その下げを拾いにいく判断ができます。
数字を暗記する必要はありません。覚えておくべきなのは、下げは10月に集中し、選挙が終わると不確実性が1つ消えるという流れのほうです。2026年がその通りになるかどうかは、これから2か月で答えが出ます。
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※ 本記事の株価データはS&P500・日経平均の日次終値をもとに独自に集計したもので、S&P500が2026年8月27日、日経平均が同年8月28日の終値時点の値です。過去の傾向は将来の値動きを保証するものではありません。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や指数の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。










