東証の注文80%超がHFT!個人投資家が知らない高速取引行為の闇と真実【2026最新データ】

高速取引行為(HFT)とは、コンピューターが人の目では追えない速さで注文を出したり取り消したりする取引のことです。金融庁が2026年9月に公表した資料では、2026年6月に東証に出された新規注文の84%、取消注文の90%を高速取引行為者等が占めていました。

ところが実際に売買が成立した件数で見ると、その割合は39%まで下がります。注文の大半を出しているのに、成立している売買は4割に届かない。この差に、板の見え方と個人投資家への影響を読み解く手がかりがあります。ここでは公表されたデータを年ごとに並べ直し、HFTが何をしていて個人投資家は何に気をつければよいのかを整理します。

高速取引行為(HFT)とは

HFTはHigh Frequency Tradingの略で、日本の法律では「高速取引行為」と呼ばれます。金融商品取引法で定義されていて、2018年4月からは国への登録制になりました。登録している業者は2026年6月末で52者です。

言葉 意味
高速取引行為 コンピューターが自動で売買の判断をし、取引所の近くに置いたサーバーなどを使って高速で注文を出す取引。金融商品取引法第2条第41項で定められている
高速取引行為者 高速取引行為を行うために登録した業者。2018年4月に登録制が始まった
高速取引行為者等 登録した高速取引行為者に、高速取引行為を行う証券会社などを加えたもの。金融庁のデータはこの単位で数えられている
コロケーション 取引所の売買システムのすぐ近くに、注文を出すサーバーを置くこと。注文が届くまでの時間を縮められる

登録者数は2019年後半に50者台まで増え、その後は50者台前半でほぼ横ばいです。2026年1〜6月の間には新規の登録が1者、廃業が2者でした。数は多くありませんが、次の章で見るように注文の量では市場の大半を占めています。

東証の注文に占めるHFTの割合|2026年6月

同じ「HFTの割合」でも、何を数えるかで数字が大きく変わります。2026年6月の東証上場銘柄の数字を並べると次のとおりです。

数えるもの HFTの割合
新規注文の件数 84%
取消注文の件数 90%
変更注文の件数 69%
約定の件数 39%
売買代金 38%
IOC注文の件数
すぐ約定しなければ自動で消える条件つきの注文
93%
成行注文の件数 2%

タイトルの「80%超」は新規注文の件数です。2026年は1月こそ79%でしたが、2月以降は毎月80%以上で、6月は84%でした。一方で売買代金では38%、約定の件数では39%です。「売買の8割がHFT」ではなく「出されている注文の8割がHFT」と読むのが正確です。

もう1つ目を引くのが成行注文です。HFTの注文の約9割は主に指値注文で、残りのほとんどはIOC注文です。成行注文全体に占めるHFTの割合は2%しかなく、成行注文を出しているのは主にそれ以外の投資家です。

6年半でHFTの割合はどう変わったか

金融庁のCSVには2019年11月からの月ごとの数字が入っています。年ごとに合計し直すと、注文に占めるHFTの割合は毎年少しずつ上がってきました。

年 新規注文 約定件数 売買代金
2019年
11〜12月
59% 31% 35%
2020年 66% 35% 38%
2021年 71% 32% 37%
2022年 72% 34% 39%
2023年 74% 33% 37%
2024年 74% 31% 35%
2025年 79% 31% 34%
2026年
1〜6月
81% 37% 37%

件数は年間の合計から割合を出し直した数字。売買代金は月ごとの割合の平均。

新規注文に占める割合は59%から81%へ、取消注文は73%から89%へ上がりました。ところが約定件数と売買代金の割合は、この間ずっと3割台のままです。HFTは注文の量を増やし続けているのに、実際の売買に占める重みはほとんど変わっていないということです。

注文の件数そのものも大きく増えています。2019年11月と2026年6月の1か月を比べると、HFTの新規注文は284百万件から2,246百万件へ約7.9倍になりました。それ以外の投資家の新規注文は192百万件から442百万件で、約2.3倍です。

板が「嘘」に見える理由|HFTの注文はほとんど約定しない

では、HFTが出した注文はどうなっているのか。新規注文100件に対して、約定と取消がそれぞれ何件あったかを2026年1〜6月の合計で比べました。

新規注文100件あたり HFT それ以外の投資家
約定の件数 6.5件 49.5件
取消の件数 75件 41件

1つの注文が何回かに分かれて約定することもあるため、約定の件数は「約定した注文の件数」とは一致しない。東証の取消件数にIOC注文の自動失効は含まれない。

それ以外の投資家は、新規注文100件に対して約定が50件ほどあります。HFTはわずか6.5件で、取消が75件です。HFTの注文の多くは、板に並んでもすぐに取り消されて別の値段に出し直されていると読めます。

年 HFTの新規注文100件あたりの約定件数
2019年
(11〜12月)
14.4件
2020年 13.3件
2021年 9.5件
2022年 9.1件
2023年 7.9件
2024年 7.0件
2025年 6.0件
2026年
(1〜6月)
6.5件

この数字は年々小さくなっていて、2019年の14.4件から2025年には6.0件まで下がりました。注文の数は増えても約定はそれほど増えていないので、1件あたりで見ると「出しては消す」比重が高まっています。

板を見ていると、厚く並んでいた買い注文や売り注文が、こちらが注文を出そうとした瞬間に消えることがあります。板が「嘘」に見えるのはこのためです。ただし、注文を出して取り消すこと自体は違法ではありません。値段が動けば出し直すのは普通のことで、HFTはそれを人の目では追えない速さで繰り返しているということです。

取消そのものと「見せ板」は別もの

・注文の取消や出し直しは、どの投資家にも認められている普通の操作
・約定させるつもりのない注文を大量に出して、ほかの投資家に売買を誘う行為は「見せ板」と呼ばれ、相場操縦として禁止されている
・HFTの取消が多いことと、それが見せ板にあたるかは別の話。個々の取引が違反かどうかは取引所や当局が調べる

板の基本的な読み方は板の記事、気配値の意味は気配値の記事で解説しています。

HFTの4つの戦略と売買代金の内訳

HFTとひとまとめにされますが、やっていることは同じではありません。金融庁は監督指針に沿って4つの戦略に分けて数字を出しています。売買代金に占める割合を、2019年11月と2026年1〜6月で比べました。

戦略 2019年11月 2026年
1〜6月
マーケットメイク
売りと買いの両方の注文を出しておき、ほかの投資家の取引相手になって値段の差(スプレッド)で稼ぐ
36% 13%
アービトラージ
値動きが連動する銘柄どうしや、同じ商品の市場間の値段のずれを突いて稼ぐ
14% 11%
ディレクショナル
ごく近い将来の値動きを予測して、上がるか下がるかの方向に賭けて稼ぐ
38% 39%
その他
上の3つのどれにもあてはまらないもの
12% 37%

2019年11月はマーケットメイクが36%を占めていましたが、2026年1〜6月は13%まで下がりました。代わりに増えたのは「その他」です。金融庁の資料も、2026年に入ってディレクショナル戦略の割合が下がる傾向にあると書いています。

この内訳は大事です。HFTの良い面としてよく挙げられる「売りと買いの注文を常に出して、取引を成立しやすくする」役割はマーケットメイクのことで、売買代金に占める割合は1割強にすぎません。HFTの売買の多くは、市場に注文を供給するためではなく、値動きの方向や値段のずれで稼ぐための売買です。

速さの正体はサーバーの置き場所

HFTの速さを支えているのがコロケーションです。取引所の売買システムのすぐ隣にサーバーを置けば、注文が届くまでの時間を極端に縮められます。注文をどこから出しているかで分けると、差ははっきりしています。

注文を出している場所と主体 注文件数 売買代金
コロケーション経由のHFT 84% 38%
コロケーション経由のその他 5% 16%
コロケーション以外のHFT 0% 0%
コロケーション以外のその他
ネット証券から注文する個人投資家など
9% 44%

2026年6月。割合は四捨五入しているため、合計が100%にならないことがある。

HFTの注文はほぼすべてがコロケーション経由で、コロケーション以外から出されるHFTの注文は1%にも届きません。一方で売買代金を見ると、コロケーション以外の「その他」が44%を占めています。注文の数ではHFTが圧倒していても、お金の量では個人投資家や機関投資家の普通の注文が大きな割合を占めているということです。

先物ではHFTの割合がさらに高い

日経225先物などを扱う大阪取引所では、HFTの存在感はさらに大きくなります。2026年1〜6月の新規注文と取消注文に占める割合は、どの月も99〜100%でした。約定の件数でも63%〜69%を占めています。

商品 売買代金に占めるHFTの割合
ミニTOPIX先物 78%
日経225マイクロ先物 72%
日経225mini 62%
日経225先物 47%
TOPIX先物 42%
長期国債先物 32%
日経225オプション 21%

2026年1〜6月の合計。

個人投資家がよく使う日経225miniやマイクロ先物では、売買代金の6〜7割がHFTです。先物で短期売買をするということは、相手のかなりの部分がHFTになるということでもあります。

個人投資家にとってのメリット

HFTは悪者として語られがちですが、個人投資家にとって得になる面もあります。

メリット 中身
売買が成立しやすい マーケットメイク戦略のHFTが売りと買いの両方に注文を出していると、出したい値段の近くに相手がいる状態になりやすい
値段の差が小さくなりやすい 買い気配と売り気配の差(スプレッド)が狭いほど、成行で売り買いしたときに不利な値段で約定しにくい
市場間の値段のずれが直りやすい アービトラージ戦略が先物と現物、東証とPTSなどの値段のずれを埋めるため、どこで買っても値段が大きく違わない

ただし、こうした役割を主に担うマーケットメイクは、東証のHFTの売買代金の13%です。メリットだけを見てHFT全体を評価するのは言い過ぎになります。

デメリットと注意点

注意点 中身
板の厚みは当てにならない HFTの新規注文100件に対して約定は6.5件。厚く見える板も、値段が動けば一瞬で消えることがある
成行注文は不利になりやすい 成行注文に占めるHFTの割合は2%。値段を指定しない注文を出しているのはほぼHFT以外で、板が薄くなった瞬間の成行は思わぬ値段で約定しうる
速さでは勝てない HFTはコロケーションから注文を出している。ネット証券経由の注文が同じ速さで板に届くことはない
急な値動きで注文が引く 相場が荒れたときにHFTが一斉に注文を取り消すと、板が急に薄くなって値が飛びやすくなると指摘されている

とくに注意したいのは成行注文です。成行注文は必ず約定する代わりに、値段を選べません。板が厚く見えていても、その注文が一瞬で取り消されれば、自分の成行注文は1つ外側の値段で約定します。成行注文の仕組みは成行注文の記事で詳しく解説しています。

短期売買をする人が知っておきたいこと

数秒から数分で利益を取りにいくスキャルピングやデイトレードは、HFTと同じ土俵での勝負になります。板の変化を見て素早く注文を出しても、その変化をつくっているのがHFTで、しかもHFTの注文のほうが先に届きます。

やりがちなこと 代わりにできること
板の厚さを見て「ここで支えられる」と判断する 歩み値で実際に約定した値段と量を確かめる
急いで成行注文を出す 指値注文で、受け入れられる値段を先に決めておく
数ティックの値幅を何度も取りにいく 数日から数週間の値動きを狙い、速さで差がつかない時間軸に移る
板が急に薄くなった場面で飛びつく 値動きが落ち着くまで注文を出さない

歩み値の見方は歩み値の記事、デイトレードで勝てる人が少ない理由はデイトレの勝率を扱った記事にまとめています。

HFTの「闇」と言われる3つの誤解

よくある言われ方 数字で見ると
東証の売買の8割はHFT 8割を超えているのは新規注文の件数。売買代金では38%、約定の件数では39%
取消が多い=見せ板をしている 取消や出し直しは普通の操作。約定させる意思のない注文で相場を動かす見せ板は別の行為で、相場操縦として禁止されている
HFTはみんな同じことをしている 戦略は4つに分かれる。取引を成立しやすくするマーケットメイクは売買代金の13%で、残りは方向や値段のずれで稼ぐ売買

HFTの実態は、表に出てくる数字だけでも見方が大きく変わります。「注文の8割」という数字だけが一人歩きしやすいので、何を数えた8割なのかを確かめることが大切です。

まとめ

論点 整理
どれくらい多いか 2026年6月の東証で新規注文の84%、取消注文の90%がHFT。売買代金では38%
増え方 新規注文の割合は2019年の59%から2026年1〜6月の81%へ。約定と売買代金の割合は3割台のまま
板の見え方 HFTの新規注文100件あたりの約定は6.5件(それ以外は49.5件)。板の厚さは一瞬で変わる
戦略 マーケットメイクは13%。方向に賭けるディレクショナルとその他で7割超
先物 大阪取引所の新規・取消注文は99〜100%がHFT。日経225miniの売買代金は約6割
個人投資家の対策 板の厚さを鵜呑みにしない。成行より指値。速さで差がつかない時間軸で売買する

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