ダークプールとは、証券会社が社内のシステムで顧客の売り注文と買い注文を突き合わせ、東証の立会外市場(ToSTNeT)で約定させる仕組みです。注文の板が外から見えないため「ダーク(暗い)」と呼ばれます。

特別な世界の話に聞こえますが、日本ではすでに株式売買全体の4〜6%がダークプールを経由しており、1日平均で8,000億円規模に達しています。

そして個人投資家も、ネット証券のSOR注文を通じて日常的に利用しています。気づいていないだけです。

この記事でわかること

・ダークプールの仕組みと、PTSとの決定的な違い
・東証の公式データで見る規模の推移
・価格改善という「得」の正体
・ネット証券4社の対応状況(2026年8月時点)
・マネックス証券が接続を終了している事実
・個人投資家が知っておくべき注意点

ダークプールとは

ダークプール(読み方:だーくぷーる)は、証券会社が自社の中に持つ注文のマッチングシステムです。

ダークプールで注文が処理される流れ
① 投資家が注文を出す
 ↓
② 証券会社の社内システムで、反対注文とマッチするか判定
 ↓ マッチした
③ 東証のToSTNeT(立会外市場)で約定させる
 ↓ マッチしなかった
④ 通常どおり東証の立会市場へ発注

ポイントはです。約定そのものは東証のシステムを通ります。しかしマッチングの過程で、注文価格や数量といった気配情報が一切公開されません。

この匿名性が「ダーク」の意味です。取引が闇に葬られるわけではなく、約定後にはきちんと市場に報告されます。

ダークプールとPTSの違い

混同されやすい2つですが、性質はまったく違います。

項目 ダークプール PTS
板情報 公開されない 公開される
約定する場所 東証のToSTNeT市場 PTS(取引所外の私設市場)
運営者 各証券会社 ジャパンネクスト証券、ODXなど
夜間取引 できない できる
投資家が価格を見て発注 できない(自動で回送される) できる

最大の違いは1行目です。PTSはが見えるので、投資家が自分で価格を確認して発注できます。ダークプールは見えないため、証券会社のシステムに委ねるしかありません。

どちらも証券会社のSOR注文の接続先になっており、実務上は同じ流れの中で使われます。

東証の公式データで見るダークプールの規模

ダークプールがどれくらい使われているのか。東証が実際の数字を公表しています。

時期 1日平均売買代金 全体に占める割合
2020年9月 1,119億円 2.78%
2023年1月 1,639億円 3.79%
2025年8月 5,238億円 6.20%
2026年2月 8,152億円 5.90%
2026年6月 7,959億円 4.26%

出典:日本取引所グループ「ダークプールにおける売買代金の推移(〜2026年6月)」

金額は5年半で約7倍になりました。一方で全体に占める割合は4〜6%のレンジで推移しています。市場全体の売買代金そのものが増えたため、比率は横ばいでも金額は膨らんだということです。

なぜ東証がこのデータを持っているのか

実は、こうした統計が取れるようになったのは最近のことです。

透明化までの経緯
2019年6月 金融審議会の市場ワーキング・グループが透明化の対応策を提示
 ↓
2020年6月19日 内閣府令および監督指針が改正される
 ↓
その後 東証がToSTNeT市場に「ダークプール・フラグ」を導入
 ↓
2020年9月分から実態の集計が可能になった

それまではどれだけの売買がダークプールを通っているのか、誰も正確には把握できていませんでした。

「板が見えない取引が拡大している」という懸念が規制当局を動かしたわけです。いまはフラグが付いた取引を集計することで、月次のデータが公開されています。

ダークプールのメリット

個人投資家にとっての利点は、大きく2つです。

メリット 内容
① 価格改善 東証の最良気配より有利な価格で約定できる可能性がある
② 市場への影響を抑える 大口の注文でも板を動かさずに執行できる

①の仕組みを具体的に見てみます。

価格改善が起きるイメージ
東証の気配 売り 1,002円 / 買い 1,000円
 ↓ あなたが成行で買うと、通常は 1,002円

ダークプールに 1,001円で売りたい人がいた
 ↓
1,001円で約定 = 1円ぶん得をする

売り手と買い手の「あいだの価格」でマッチングするため、両者とも東証で取引するより有利になります。これが価格改善の正体です。

②は大口の注文を出す機関投資家にとって重要です。1万株の売り注文を板に出せば、それを見た他の参加者が先回りして売ります。ダークプールならそれを避けられます。

ダークプールのデメリット

デメリット 内容
成功報酬がかかる場合がある 証券会社によっては、改善したぶんの一部を手数料として徴収する
利用条件がある 取引経験、口座の種類、手数料コースなどの条件が課される
必ず約定するとは限らない 反対注文がなければ通常どおり東証へ発注される
タイミングのズレ マッチング判定と発注に時間差があり、不利な約定になることがある
板が見えない 自分で価格を確認して判断することができない

4行目は松井証券も注意点として明記しています。価格改善は「必ず得をする」保証ではありません。相場が速く動く場面では、逆に不利になる可能性があります。

ネット証券のダークプール対応(2026年8月時点)

各社の状況を整理します。ここが最も情報が古くなりやすい部分です。

証券会社 サービス名 主な条件
SBI証券 SBIクロス(SOR経由) SOR注文を利用。成功報酬なし
松井証券 ベストマッチ 信用取引口座が必要。改善約定代金の30%(税込33%)
楽天証券 Rクロス ゼロコースの設定が必須。現物のみ(信用は対象外)
三菱UFJ eスマート証券 SOR・アルゴ注文経由 外部のダークプールに接続。成功報酬なし
マネックス証券 提供なし 2021年8月20日にダークプールへの接続を終了

※ 各社の公表内容にもとづきます。条件は変更されることがあるため、利用前に必ず各社の最新情報をご確認ください。

最後の行が重要です。マネックス証券のダークプールを紹介している記事をいまも見かけますが、同社は2021年8月20日に接続を終了しており、以降のSOR注文は接続先が2市場に絞られています。

SBI証券のSOR注文は5つの市場を見ている

SBI証券のSOR注文がどこを見ているのかは、ダークプールの位置づけを理解するのに役立ちます。

SBI証券のSORが監視する5市場

① 金融商品取引所(東証)
② ジャパンネクストPTS(J-Market)
③ ジャパンネクストPTS(X-Market)
④ 大阪デジタルエクスチェンジPTS(ODX)
SBIクロス(ダークプール)

SOR注文の対象時間は8時58分〜11時29分59秒および12時28分〜15時24分59秒とされています(前場・後場の寄付値段決定時を除く)。

つまりダークプールは、5つの選択肢のうちの1つとして自動的に判定されているだけです。特別なものではなく、最良の執行先を探す過程の一部にすぎません。

松井証券のベストマッチは成功報酬型

松井証券の仕組みは他社と設計が違うため、個別に見ておきます。

項目 内容
正式名称 立会外クロス取引(ベストマッチ)
使い方 執行条件で「最良」を選択して発注(成行・指値どちらも可)
対象 現物取引のみ。東証上場の株式・ETF・REIT等(外国株は対象外)
費用 改善約定代金の30%(税込33%)。改善しなければ無料
実行されない時間帯 売買立会時間外、前場引け前10秒、後場のクロージング・オークション

「得をしたときだけ払う」という設計なので、損をする心配はありません。ただし改善額の3割が引かれるため、実際に手元に残るのは改善分の7割である点は理解しておいてください。

個人投資家が注意すべきこと

注意点 理由
自分がSORを使っているか確認する 手数料コースによってはSORの利用が前提条件になっている
板の値段と約定価格がずれることがある 東証以外の市場で約定する可能性があるため
相場急変時は注意 マッチング判定と発注の時間差で不利な約定になりうる
デイトレードでは影響が大きい 1円の差でも回数が積み上がると効いてくる

1行目は特に確認する価値があります。楽天証券のゼロコースやSBI証券のゼロ革命など、手数料無料の条件としてSORへの同意が組み込まれているケースがあります。

手数料が無料になる代わりに、注文の執行先を証券会社に委ねているという構図です。それ自体は不利益ではありませんが、仕組みを知ったうえで使うのと知らずに使うのとでは違います。

ダークプールに関するよくある質問

ダークプールとPTSは何が違うのですか?
板情報が公開されるかどうかが最大の違いです。PTSは価格や数量が表示されるため投資家が見て発注できますが、ダークプールは非公開で、証券会社のシステムが自動的にマッチングします。また約定する場所も異なり、ダークプールは東証のToSTNeT市場、PTSは取引所外の私設市場です。
ダークプールは日本でどれくらい使われていますか?
東証の公表データによると、2026年6月の1日平均売買代金は7,959億円で、取引所取引と取引所外取引の合計に占める割合は4.26%でした。2020年9月は1,119億円・2.78%だったため、金額は5年半で約7倍に増えています。
価格改善とは何ですか?
東証の最良気配より有利な価格で約定することです。たとえば売り気配1,002円・買い気配1,000円のときに、ダークプールで1,001円の反対注文とマッチすれば、買い手は1円安く買えます。売り手にとっても1円高く売れるため、双方にメリットがあります。
マネックス証券でダークプールは使えますか?
使えません。マネックス証券は2021年8月20日にダークプールへの接続を終了しており、以降のSOR注文は接続先が2市場に絞られています。同社のダークプールを紹介している解説記事は、それ以前の情報です。
松井証券のベストマッチは手数料がかかりますか?
価格が改善した場合のみ、改善約定代金の30%(税込33%)が改善成功報酬として発生します。改善しなかった場合は無料です。利用には信用取引口座の開設が必要で、注文時に執行条件で「最良」を選択します。
楽天証券のRクロスを使うには条件がありますか?
手数料コースを「ゼロコース」に設定している必要があります。対象は現物取引のみで、信用取引は対象外です。マッチングした注文は東証のToSTNeT市場で約定します。
ダークプールを使うと必ず得をしますか?
保証はありません。マッチング判定の時点と実際の発注時点に時間差が生じるため、相場が急に動く場面では不利な約定になる可能性があります。また反対注文がなければ通常どおり東証の立会市場へ発注されるだけです。
自分の注文がダークプールを通ったかわかりますか?
証券会社の約定履歴で執行された市場を確認できる場合があります。ただし発注時点でどこで約定するかを投資家が選ぶことはできず、SORのシステムが自動判定します。まずは自分の手数料コースがSORの利用を前提としているかを確認するのが実務的です。

まとめ

ダークプールは「板を見せずに注文を突き合わせ、東証の立会外で約定させる仕組み」です。個人投資家もSOR注文を通じて日常的に利用しています。

この記事のまとめ

・証券会社の社内システムでマッチングし、ToSTNeTで約定させる仕組み
・PTSとの違いは「板が公開されるかどうか」
・2026年6月の1日平均売買代金は7,959億円・全体比4.26%(東証公表)
・2020年9月の1,119億円から金額は約7倍に増えた
・2020年6月の内閣府令改正を受け、東証がフラグを導入して透明化
・メリットは価格改善と、板を動かさずに執行できること
・SBI証券はSBIクロス、楽天証券はRクロス、松井証券はベストマッチ
・松井証券は改善約定代金の30%(税込33%)が成功報酬
・マネックス証券は2021年8月20日に接続を終了している

※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく解説であり、特定のサービスや投資判断を推奨するものではありません。各社の条件は変更されることがあるため、利用前に必ず公式サイトをご確認ください。

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