金融庁が信金の国債含み損を点検へ|地銀は最高益なのに17信金が赤字の理由

2026年9月3日、金融庁が信用金庫の保有する国債の含み損を点検する方針が報じられました。対象は信金・信組など約400の地域金融機関です。

気になるのはこれが株式市場にどう関係するのかというところだと思います。ここで先に結論を書いておくと、同じ金利上昇を受けているのに、地方銀行と信用金庫では結果が正反対になっています。

2026年3月期の決算を並べると、地銀は連結純利益1.75兆円で過去20年の最高益。一方で信用金庫は254のうち17が最終赤字となり、純利益の合計は2,424億円と16%減りました。金利が上がったという事実は同じです。

この記事では、財務省が公表している国債金利の全データを使って、超低金利のころに買った国債がいま何%値下がりしているかを1年ずつ計算しました。2024年に発行された10年債は、額面100円に対して87.01円です。含み損が3兆円という数字の中身が、ここに出ています。

報じられたこと 内容
誰が 金融庁が財務局などと協力して
何を 信金・信組など計約400の地域金融機関の国債含み損
いつまで 順次着手し、2027年3月までの完了を目指す
どこから 国債の保有量が多い信金から優先的に
背景 長期金利が3%を超え30年ぶりの水準になった

※ 2026年9月3日の共同通信の報道による。金融庁が正式に公表した資料ではありません。

この記事でわかること

・金融庁の点検は何をどこまで見るのか
【独自集計】超低金利期に買った国債は、いま何%下がっているか
【独自集計】10年債の利回りがマイナスだった453営業日
同じ金利上昇で、地銀は最高益・信金は17が赤字という対比
なぜ差がついたのか|貸すか、運用するか
・「含み損は損ではない」という説明がどこまで正しいか
信用金庫の株は買えないという事実の確認
投資家が銀行株で見るべき3つの数字
・金利が動くと債券の値段がどう変わるかを計算できるツール

※ この記事は制度とデータの解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。また、特定の金融機関の経営状態を評価するものでもありません。

金融庁が約400の地域金融機関を点検する

報道によると、金融庁は信用金庫や信用組合が保有する国債の含み損が膨らむ恐れが強まっているとして、点検に乗り出します。

ここで押さえておきたいのは、点検の対象が「信用金庫だけ」ではないという点です。信金・信組などを合わせて約400の地域金融機関が対象になる見通しと報じられています。

順番も明示されています。国債の保有量が多い信金から優先的に実施する方針です。これは裏を返せば、金融庁がすでに各機関の国債保有量を把握したうえで、優先順位を付けているということになります。

完了の目標は2027年3月。およそ半年から7か月をかけて回る計画です。

なぜいま点検なのか|30年ぶりの3%台

きっかけは長期金利です。2026年9月1日、日本の長期金利が一時3.0%をつけました。3%台は約30年ぶりになります。

財務省が公表している国債金利情報で、直近の利回り曲線を並べると次のようになります。

年限 2026年9月2日の利回り
1年 1.560%
3年 2.009%
5年 2.332%
10年(長期金利) 3.006%
20年 3.864%
30年 4.122%

出典:財務省「国債金利情報」(2026年9月2日)

債券は、金利が上がると価格が下がります。この関係は例外なく成り立ちます。すでに発行されている低い利回りの債券は、新しく発行される高い利回りの債券に比べて魅力が落ちるため、価格を下げないと買い手が付かないからです。仕組みは債券とは?金利が上がると価格が下がる理由で解説しています。

金利がなぜここまで上がったのかについては30年ぶりに日本の長期金利が3%台に突入で扱っています。この記事では、その金利上昇が金融機関のバランスシートにどう出ているかを見ていきます。

【独自集計】超低金利期に買った国債は、いま何%下がっているか

ここが今回の中心です。「含み損3兆円」という数字だけでは、1つ1つの債券に何が起きているかが見えません。そこで実際に計算しました。

やり方は単純です。ある年に発行された10年国債のクーポン(毎年もらえる利息)を、その年の10年債利回りの平均と置きます。それを2026年9月2日時点の利回り曲線で割り引くと、いまの価格が出ます。

発行年 クーポン 残存 いまの価格 値下がり率
2017年 0.054% 1年 98.52円 −1.48%
2018年 0.076% 2年 96.54円 −3.46%
2019年 −0.095% 3年 93.93円 −6.07%
2020年 0.011% 4年 91.71円 −8.29%
2021年 0.068% 5年 89.43円 −10.57%
2022年 0.241% 6年 87.81円 −12.19%
2023年 0.571% 7年 87.25円 −12.75%
2024年 0.912% 8年 87.01円 −12.99%
2025年 1.543% 9年 89.58円 −10.42%

出典:財務省「国債金利情報」をもとに集計。額面100円あたり。残存年数に対応する2026年9月2日の金利で割り引いて算出。

最も下がっているのは2024年に発行された10年債で、額面100円に対して87.01円です。額面100億円ぶんを持っていれば、評価額は87億円。13億円ほどの含み損になります。

🔵 ここで注目したいのは、値下がり率が2024年をピークに小さくなっている点です。2025年発行分は−10.42%で、2024年発行分より下げ幅が小さくなっています。2025年にはすでに金利が上がり始めていて、クーポンが1.543%と高めに付いているためです。

逆に言えば、金利がいちばん低かった時期に買った債券ほど、いま大きく下がっているわけではありません。2017年や2018年に買ったものは残存年数が短いため、値下がり率は数%にとどまります。

🔴 値下がり率を決めているのは「いつ買ったか」ではなく「あと何年残っているか」です。残存年数が長いほど、金利が上がったときの下げ幅は大きくなります。これがデュレーションと呼ばれる考え方です。

この試算はあくまで10年国債1本を単純化したものです。実際の金融機関は年限も購入時期も分散させて持っています。それでも「超低金利期に積み上げた債券が10%台の含み損を抱えている」という水準感は、これで見当がつきます。

【独自集計】10年債の利回りがマイナスだった453営業日

では、なぜそんな低い利回りの債券を買ったのか。当時はそれしか選択肢がなかった、というのが実情に近いところです。

財務省のデータを1日ずつ数えました。

調べたこと 実際の数字
10年債の利回りがマイナスだった日 453営業日
その期間 2016年2月9日 〜 2020年5月22日
過去最低の利回り 2016年7月27日の −0.297%
2019年の年平均 −0.095%(241営業日の平均)

10年間お金を貸して、返ってくるのが元本より少ない。それが4年以上にわたって続いていた、というのが2016年から2020年にかけての姿です。

年ごとの平均で並べると、上がり方の急さがはっきりします。

10年債利回りの年平均
2019年 −0.095%
2021年 0.068%
2023年 0.571%
2024年 0.912%
2025年 1.543%
2026年(9月2日まで) 2.514%

2021年9月末は0.081%でした。それが2026年9月2日には3.006%です。5年で2.925ポイント上がったことになります。

🔵 金融機関の含み損は、この上昇幅がそのまま反映されたものです。経営の失敗というより、超低金利が長く続いたことの請求書が、いっぺんに届いたという性格が強いと言えます。

信金の含み損はどこまで膨らんだか

報じられている数字を時系列で並べます。

時点 信用金庫の債券含み損 前年からの変化
2025年10月時点の報道 2.5兆円弱 1年で3倍超
2026年3月期決算 3兆円超 1年前と比べ約20%増

出典:日本経済新聞の集計による報道(2025年10月、2026年7月)

増え方が鈍っている点は見ておく価値があります。1年で3倍だったものが、次の1年は20%増です。金利の上昇そのものは続いていますが、含み損の伸びは頭打ちに近づいています。

理由は先ほどの集計に出ています。残存年数が短くなった債券は、満期が近づくほど価格が額面に戻っていくためです。2017年発行分の値下がりが−1.48%にとどまっているのは、あと1年で満期が来るからです。

同じ金利上昇で、地銀は最高益・信金は17が赤字

ここが今回いちばん重要な対比です。金利が上がったという事実は、地方銀行にも信用金庫にも同じように起きています。それなのに決算はこうなりました。

2026年3月期 地方銀行 信用金庫
純利益 1.75兆円(前期比+37%) 2,424億円(前期比−16%)
水準 過去20年で最高 254のうち約半数が減益
赤字 17が最終赤字(前期は5)
貸出金利息 4.40兆円(+23%)
貸出金残高 前期比+4.4%

出典:全国地方銀行協会の集計および日本経済新聞の報道(2026年5月・2026年8月26日)

地銀は金利上昇で過去20年の最高益。信金は17が赤字。これが2026年3月期の姿です。

個別に見ると、但馬信用金庫は13年ぶりの赤字となり、債券の売却損は220億円と報じられています。紀北信用金庫も債券の評価損により31億円の純損失を計上したと報じられました。含み損を抱えたまま持ち続けるか、損を確定させて身軽になるか。その判断が決算に直接出ています。

なぜ差がついたのか|貸すか、運用するか

差の原因は、集めた預金を何に使っているかの違いにあると考えられます。

項目 金利が上がると
貸出(企業や個人への融資) 受け取る利息が増える。プラスに働く
保有している債券 価格が下がる。含み損になる
預金として預かっているお金 支払う利息が増える。マイナスに働く

つまり同じ金利上昇でも、貸出の比率が高い金融機関はプラス、債券の比率が高い金融機関はマイナスになります。

地方銀行は貸出金残高が前期比+4.4%伸び、貸出金利息が23%増えました。金利上昇の恩恵をそのまま受け取れる形になっています。

一方で信用金庫は、集めた預金に対して貸出を伸ばしにくい構造があります。営業できる地域が限られていること、取引先が中小企業や個人に偏っていることが背景にあります。貸出に回りきらなかった資金は、どこかで運用する必要があります。その受け皿になっていたのが国債でした。

🔴 もう1つ効いているのが、金利の転嫁のしやすさです。貸出金利を上げるには、借りている側がそれを受け入れる必要があります。中小企業や小規模事業者が相手だと、金利を上げれば返済が苦しくなるため、簡単には上げられません。

結果として「債券の含み損は増えるのに、貸出の利ざやは思ったほど改善しない」という組み合わせになりやすい、という構造が見えてきます。

「含み損は損ではない」という説明の限界

含み損について、よく次のような説明がされます。

よくある説明

国債は満期まで持てば額面が戻ってくる。
だから途中で価格が下がっても、売らなければ損は出ない。

この説明自体は間違っていません。国債が満期に額面で償還されるのはそのとおりです。ただし、「売らなければ」という条件が付いていることに注意が必要です。

論点 実際のところ
売らなければ損は出ない 預金が減れば、売って現金を作る必要が出る
満期まで持てば戻る その間ずっと低い利回りに資金が固定される
帳簿には出ない 区分によっては自己資本に反映される

2つ目が見落とされがちです。利回り0.1%の国債をあと8年持ち続けるということは、その資金で3%の新しい国債を買う機会を8年間失うということでもあります。損は出ていなくても、稼げるはずだった利息は失われています。

🔴 1つ目については、2023年3月に米国で起きた例が分かりやすい参考になります。シリコンバレー銀行は、金利上昇で含み損を抱えた債券を持っていました。預金の引き出しが急に増えたため、その債券を売って現金を用意する必要が生じ、含み損が実現した損失に変わりました。

ただし日本の信用金庫を同じ状況に当てはめることはできません。異なる点がいくつもあります。

論点 日本の信用金庫の場合
預金の性格 地域の個人・小規模事業者が中心で、動きにくい
預金者の保護 預金保険制度の対象。元本1,000万円とその利息までが保護される
当局の動き 問題が起きる前に金融庁が点検に入る段階

🔵 今回の点検は、むしろ「早い段階で状況を把握しておく」という性格の動きだと読み取れます。金融庁が国債の保有量が多いところから順に見ていくと報じられているのは、優先順位を付けられるだけの情報をすでに持っているということでもあります。

「点検」は検査とは違う

報道では「点検」という言葉が使われています。金融行政では、言葉ごとに意味の強さが違います。一般的な整理は次のとおりです。

段階 性格
ヒアリング・点検 状況の把握が目的。今回はここ
立入検査 現地で帳簿などを直接確認する
報告徴求命令 法令にもとづき報告を求める
業務改善命令 改善計画の提出と実行を求める行政処分

今回報じられているのは、いちばん手前の段階です。約400の機関を半年ほどかけて回るという規模からしても、1つ1つを深く掘るというより、全体像をつかむための動きだと読むのが自然です。

🔴 ここから先がどうなるかは、現時点では分かりません。点検の結果として何が出てくるかは公表されていないため、決めつけた見方はしないほうがよい場面です。

信用金庫の株は買えない

ここは投資家として先に押さえておきたい点です。信用金庫の株式を買うことはできません。

日本取引所グループが公表している「東証上場銘柄一覧」(2026年7月31日現在)を検索すると、社名に「信用金庫」または「信用組合」を含む銘柄は1件もありません。

理由は組織の形にあります。信用金庫は株式会社ではなく、会員の出資によって成り立つ協同組織金融機関です。株式を発行していないため、市場で売買する対象になりません。

種別 組織の形 株を買えるか
信用金庫・信用組合 会員・組合員の出資による協同組織 買えない
地方銀行・第二地方銀行 株式会社。多くが上場している 買える

🔵 つまり今回のニュースは、直接の投資対象があるわけではありません。ただし「金利上昇で債券に含み損が出る」という構造そのものは、上場している地方銀行にもまったく同じように働いています。ニュースの読み方としては、こちらに置き換えるのが実用的です。

投資家が銀行株で見るべき3つの数字

金利が動く局面で銀行株を見るなら、決算資料の中で確認しておきたい数字が3つあります。

見る数字 どこにあるか 何が分かるか
その他有価証券評価差額金 貸借対照表の純資産の部 含み損益がそのまま出る。マイナスなら含み損
自己資本比率 決算短信・決算説明資料 含み損を吸収する余力があるか
貸出金利回りと貸出金残高 決算説明資料 金利上昇のプラス面を取れているか

1つ目と3つ目を並べて見るのが要点です。含み損が大きくても、貸出でそれを上回る収益が取れていれば決算は伸びます。2026年3月期の地方銀行がまさにその形でした。

2つ目については自己資本比率とは?目安は何%かで計算式と水準の見方を解説しています。銀行株そのものの割安さを見るときはPBRとは?1倍割れの意味もあわせてご覧ください。

🔴 1つだけ注意しておきたいのは、含み損の大きさだけで判断しないことです。含み損が大きいということは、それだけ長い年限の債券を持っているということでもあります。金利がこの先下がる局面では、同じ債券が今度は含み益に変わります。

金利が動くと債券の値段はどう変わるか

ここまで出てきた数字を、自分の条件で計算できるツールを置いておきます。買ったときの利回り(クーポン)と、いまの利回り、残っている年数を入れると、価格と含み損が出ます。

債券の含み損 計算ツール

額面100円あたりの価格を計算します。初期値は2024年に発行された10年国債(クーポン0.912%・残存8年)を、2026年9月2日の8年金利2.743%で評価したものです。





額面100円あたりの価格 87.01円
値下がり率 −12.99%
いまの評価額 87.01億円
含み損 12.99億円

残っている年数が長いほど、同じ金利の動きでも価格の振れ幅は大きくなります。

※ 年1回利払いの単純化した計算です。実際の国債は年2回利払いで、経過利子や税の扱いも加わります。
※ いまの利回りを買ったときの利回りより低くすると、含み益として計算されます。

残っている年数を変えてみると、この問題の本質が分かります。残存2年なら値下がりは数%ですが、残存8年では10%を超えます。同じ金利上昇でも、長い債券を持っていた機関ほど打撃が大きくなります。

これから何を見るか

今後の日程を整理します。

時期 見ること
2026年9月 日銀の金融政策決定会合。政策金利がさらに動くかどうか
2026年11月ごろ 2026年9月中間期の決算。含み損が3月末からどう動いたか
2027年3月 金融庁の点検が完了する目標時期
随時 長期金利の水準。3%から上か下かで含み損の方向が変わる

最も早く数字で確かめられるのは、11月ごろに出る2026年9月中間期の決算です。3月末に3兆円超だった信金の含み損が、さらに膨らんだのか、それとも頭打ちになったのか。ここで方向がはっきりします。

日銀の会合については日銀金融政策決定会合の見方、利上げが相場に与えた影響については利上げとは?金利が上がった局面の1年後で扱っています。

まとめ

金融庁が信用金庫の国債含み損を点検するというニュースを、データで整理しました。同じ金利上昇でも、貸出が伸びた地銀は最高益、債券を多く持つ信金は赤字という正反対の結果になっている、という点が要点です。

この記事のポイント

・金融庁が信金・信組など約400の地域金融機関の国債含み損を点検。2027年3月までの完了目標
・きっかけは長期金利が30年ぶりに3%台へ(2026年9月2日は3.006%)
【独自集計】2024年発行の10年国債はいま87.01円。−12.99%
【独自集計】10年債の利回りがマイナスだった日は453営業日(2016年2月〜2020年5月)
・信金の債券含み損は2026年3月期で3兆円超。ただし増え方は3倍→20%増に鈍化
地銀は純利益1.75兆円で過去20年の最高益、信金は254のうち17が赤字
・差がついたのは貸出の比率と、金利を転嫁できるかの違いと考えられる
信用金庫の株は買えない(東証上場銘柄一覧に1件もない)
・銀行株で見るのはその他有価証券評価差額金・自己資本比率・貸出金利回りの3つ

含み損という言葉は強く響きますが、数字そのものより「その債券があと何年残っているか」と「貸出でどれだけ稼げているか」を並べて見るほうが、実態に近づきます。次に確かめられるのは11月ごろに出る中間決算です。

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