債務の株式化とは、会社の借金を株式に振り替えて、負債を資本に変える手法です。英語の頭文字からDES(デット・エクイティ・スワップ)とも呼ばれます。
返済義務のある借金が、返さなくてよい資本に変わるため、財務は劇的に改善します。その一方で、既存株主の持分は大きく薄まります。
この記事では、希薄化率の計算と、株価が急騰・急落する条件を解説します。
この記事でわかること
・現物出資型と現金振替型という2つのやり方
・希薄化率の具体的な計算方法
・株価が急騰するケースと急落するケースの分かれ目
・DESの前兆を財務指標から読む方法
目次
債務の株式化(DES)とは
債務の株式化(読み方:さいむのかぶしきか)とは、債権者が持っている債権を、その会社の株式に交換する取引です。
↓
DES後 銀行は株主(会社の所有者の一人)
→ 返済を求める相手から、一緒に再建を目指す相手へ変わる
主に経営が苦しい会社の再建策として使われます。銀行にとっても、倒産して回収不能になるより、株式にして再建に賭けたほうが得だという判断です。
バランスシートはどう動くか
DESで動くのは貸借対照表の右側(負債と資本)だけです。左側の資産は1円も変わりません。
資産 100億円
負債 90億円(うち借入50億円)
純資産 10億円
自己資本比率 10%
資産 100億円
負債 60億円(うち借入20億円)
純資産 40億円
自己資本比率 40%
会社に現金が入ってくるわけではありません。増資と違って、資金調達ではないという点が重要です。
それでも効果は大きく、①支払利息が減る ②自己資本比率が上がる ③債務超過を解消できる、という3つの改善が同時に起きます。
DESの2つのやり方
| 方式 | やり方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 現物出資型 | 債権そのものを現物出資して株式を受け取る | 現金の移動がない。ただし債権の評価が問題になる |
| 現金振替型 (疑似DES) |
債権者が現金を払い込んで新株を取得し、会社はその現金で借金を返す | 手続きが簡明で、税務上の論点も少ない |
現物出資型では、出資される債権の価値をいくらと見るかが争点になります。会社が苦しいほど債権の実際の価値は額面より低くなるためです。
※ 現物出資の手続きや検査役の調査の要否は、会社法の規定と個別の事情によって異なります。
会社側のメリット
| 効果 | 中身 |
|---|---|
| 返済義務が消える | 資本には返済期限がない。資金繰りが一気に楽になる |
| 支払利息が減る | 損益計算書が改善し、経常利益が増える |
| 自己資本比率が上がる | 格付けや新規の借入条件が改善する可能性がある |
| 債務超過を解消できる | 上場廃止基準への抵触を回避できる場合がある |
| 事業を続けられる | 法的整理を避けて再建を目指せる |
4番目は上場企業にとって死活問題です。上場廃止の基準には債務超過に関する項目があり、解消できなければ市場から退場することになります。
債権者(銀行)から見たDES
・倒産による全損を避けられる
・再建が成功すれば株価上昇で回収額が増える
・株主として経営に関与できる
・不良債権を処理できる
・返済を請求する権利を失う
・倒産時の弁済順位が最後尾になる
・株価が下がれば損失が拡大する
・すぐには現金化できない
右側の2番目が本質的なリスクです。債権者は倒産時に優先して弁済を受けられますが、株主は最後です。DESは、その優先順位を自ら手放す決断ということになります。
既存株主に何が起きるか
ここが投資家にとって最重要です。新株が発行されるため、既存株主の持分は必ず薄まります。
通常の増資の希薄化率は10〜20%程度が多い一方、
DESは債務の規模がそのまま新株になるため、
既存株主の持分が数分の1になることも珍しくありません。
加えて、DESを行う会社はそもそも株価が大きく下がっていることがほとんどです。株価が低いほど、同じ債務額でも発行される株数は増えます。
希薄化率の計算方法
発行される新株数 = 株式化する債務額 ÷ 1株あたりの発行価格
希薄化率 = 新株数 ÷ 既存の発行済株式数 × 100
数値例で見ます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 既存の発行済株式数 | 1,000万株 |
| 株式化する債務 | 30億円 |
| 1株あたりの発行価格 | 200円 |
| 発行される新株数 | 1,500万株 |
| 希薄化率 | 150% |
| DES後の持分(既存株主) | 40%まで低下 |
元の株主が100%持っていた会社が、DES後には40%しか持っていない会社になります。1株あたりの利益(EPS)も同じ割合で薄まります。
株価が急騰するケース・急落するケース
| 方向 | 条件 |
|---|---|
| 急騰する | 倒産が確実視されていた/債務超過が解消される/再建計画に具体性がある/希薄化率が想定より小さい |
| 急落する | 希薄化率が極端に大きい/発行価格が市場価格より大幅に低い/本業の赤字が続いている/DESが繰り返されている |
同じDESでも市場が何を織り込んでいたかで反応は正反対になります。
「倒産を回避できた」という安心感 vs 「持分が薄まった」という損失
どちらが大きいかで株価の方向が決まります。
とくに注意したいのがDESが繰り返されている会社です。1度目で財務が改善しても、本業が赤字のままなら再び債務は膨らみます。そのたびに株主は薄まり続けます。
DESの税務(債務消滅益)
DESには見落とされがちな税務の論点があります。
現物出資型のDESでは、出資される債権の時価が額面を下回ることがあります。
経営が苦しい会社の債権は、額面どおりの価値がないためです。
額面100億円の債権の時価が60億円だった場合
→ 差額の40億円が「債務消滅益」として利益に計上される
→ 課税対象になりうる
再建のためにDESをしたのに、利益が出たことになって税金がかかるという逆転現象が起こりえます。
実務では、繰越欠損金や、一定の要件を満たす場合の期限切れ欠損金の活用によって負担を抑える設計が検討されます。現金振替型(疑似DES)が選ばれるのは、この論点を避けやすいからでもあります。
※ 税務の取扱いは個別事情と改正によって変わります。実務では必ず税理士等の専門家にご確認ください。
第三者割当増資との違い
| 項目 | DES | 第三者割当増資 |
|---|---|---|
| 会社に入るもの | 現金は入らない | 現金が入る |
| 負債 | 減る | 変わらない |
| 引受先 | 既存の債権者(銀行など) | 提携先・投資ファンドなど |
| 主な目的 | 財務の立て直し | 資金調達・資本提携 |
| 市場の受け止め | 危機的な状況のサイン | 相手次第で好材料にもなる |
DESの前兆を財務指標から読む
DESは突然発表されますが、その前段階には財務上の兆候が出ています。
| 見るもの | 危険なサイン |
|---|---|
| 自己資本比率 | 1桁台。マイナスなら債務超過 |
| 有利子負債自己資本比率 | 数百%。返済能力を大きく超えている |
| 営業キャッシュフロー | 複数期にわたってマイナス |
| 継続企業の前提に関する注記 | 記載があれば最終段階に近い |
| 重要事象等 | 注記の一歩手前の警告 |
継続企業の前提に関する注記が付いた会社では、何らかの財務再構築が検討されていると考えたほうが自然です。
※ 本記事は制度の解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
DESに関するよくある質問
まとめ
DESは「借金を株主の持分で肩代わりする」手法です。会社は救われますが、そのコストを負担するのは既存株主です。
この記事のまとめ
・会社に現金は入らない。資金調達ではない
・自己資本比率の改善と、債務超過の解消が主な狙い
・銀行は債権者から株主になり、弁済順位が最後尾になる
・希薄化は通常の増資より桁違いに大きくなりやすい
・希薄化率=新株数÷既存の発行済株式数×100 で計算する
・株価は「倒産回避の安心感」と「希薄化」のどちらが勝つかで決まる
・現物出資型では債務消滅益という税務論点が生じうる










