PBR(株価純資産倍率)とは、株価が1株あたり純資産(BPS)の何倍まで買われているかを示す指標です。1倍を下回ると、会社が持つ資産の価値より株価が安いという状態を意味します。
そしていま、PBRは日本株で最も注目されている指標になっています。2023年に東京証券取引所が「PBR1倍割れ企業に改善を要請」したことをきっかけに、自社株買いや増配が相次ぎ、株価が動く直接の材料になったためです。
この記事では、PBRの計算方法と1倍割れの意味から、東証の要請で市場に何が起きたか、そして低PBR株を買うときの落とし穴までを解説します。
この記事でわかること
・PBR1倍割れが何を意味するのか
・東証の「PBR1倍割れ改善要請」で市場に起きた変化
・低PBR株が上がらない3つの理由
・PBRとROEの関係(PBR=PER×ROE)
・PBRが使えないケースと注意点
目次
PBRとは?まず結論から
PBR(読み方:ピービーアール/株価純資産倍率)
PBRは Price Book-value Ratio の略で、日本語では株価純資産倍率といいます。会社が持つ純資産に対して、株価が何倍まで買われているかを表します。
| 計算式 | 使う場面 |
|---|---|
| PBR = 株価 ÷ BPS (1株あたり純資産) |
個別銘柄を見るとき |
| PBR = 時価総額 ÷ 純資産 | 会社全体の規模感で捉えるとき |
純資産とは、資産から負債を差し引いた「会社の正味の財産」です。これを発行済株式数で割ったものがBPS(1株あたり純資産)になります。
実際に計算してみる
株価1,200円、BPSが1,000円の企業なら、PBRは 1,200 ÷ 1,000 = 1.2倍です。
BPS 1,000円
BPS 1,000円
PBR1倍が「株価=会社の正味財産」の分かれ目
PBR1倍割れは何を意味するのか
PBR1倍とは、株価と1株あたり純資産が等しい状態です。理論上は、会社がいま解散して資産をすべて株主に分配したときの価値と株価が一致するため、この水準は解散価値と呼ばれます。
PBRが1倍を下回るということは、次のような状態を意味します。
市場がつけている株価:800円
→ 1,000円の財産が800円で売られている
額面だけ見れば「お買い得」ですが、そう単純ではありません。市場が「この会社は資産を有効に使えていない」「これから資産を減らしていく」と見ている場合も、PBRは1倍を割り込みます。
つまりPBR1倍割れは、割安のサインであると同時に、市場からの低評価のサインでもあるという二面性を持っています。
PBRメモ
・1倍が「解散価値」の目安
・1倍割れは割安のサインであり低評価のサインでもある
【2023年〜】東証の「PBR1倍割れ改善要請」で何が変わったか
PBRが日本株で特別な意味を持つようになったのは、2023年3月末の東証の要請がきっかけです。
東証はプライム市場・スタンダード市場の全上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。名指しこそしていないものの、実質的な主対象はPBRが継続的に1倍を割っている企業でした。
なぜ問題視されたのか
PBR1倍割れが常態化しているということは、株主から預かった資本を、その価値以上に活かせていないことを意味します。日本市場では上場企業の約半数がこの状態にあり、海外投資家から資本効率の低さを長く指摘されていました。
企業側が実際に取った対応
発行済株式数が減るため1株あたり利益とROEが直接上がります。「余った資本を株主に返す」という姿勢が評価され、株価の再評価を通じてPBRの改善につながります。最も直接的な手段として広く採用されました。
利益をため込まず株主へ還元する方針へ転換する企業が増えました。配当性向の目標を明示する動きも広がっています。
使っていない資産を減らして資本効率を高める動きです。売却益が出ることもあります。
数字で見る変化
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| プライム市場のPBR1倍割れ比率 | 約50%(2022年7月)→ 約44%(2025年7月) |
| 改善策の開示状況 | プライム上場企業の8割以上が何らかの開示 |
| 東証の公表 | 対応を開示した企業の一覧を公表し、実質的に「していない企業」が可視化された |
※ 比率は調査主体・集計時点によって差があります。最新の状況は東証の公表資料で確認してください。
改善はしているものの、プライム市場の4割強はいまだPBR1倍割れです。投資家にとっては、この分類が今も有効な銘柄選びの切り口であり続けているということでもあります。
PBRの目安は何倍?業種で大きく違う
PERと同じく、PBRにも業種ごとの「普通の水準」があります。
| タイプ | 業種の例 | 理由 |
|---|---|---|
| 高くなりやすい | 情報・通信、サービス、医薬品 | 大きな資産を持たずに稼ぐ業態。資産より人材やブランドが価値の源泉 |
| 低くなりやすい | 銀行、鉄鋼、電力、不動産 | 資産を大量に抱える業態。純資産が大きいぶんPBRは低く出る |
市場全体のPBR水準を基準にする
個別銘柄を評価する前に、市場全体がどのあたりにいるかを知っておくと判断がぶれません。日経平均株価のPBRは加重平均ベースで1.8倍前後で推移しています(2026年7月末時点)。
市場全体が1.8倍前後という状況で、ある銘柄が0.6倍にとどまっているなら、それは「市場平均より安い」ではなく「市場から明確に低く評価されている」と読むべきです。安さの理由を必ず調べてください。
※ 市場全体のPBRは日々変動します。最新値は日経平均プロフィルで、市場区分別・業種別の数値は日本取引所グループの「規模別・業種別PER・PBR」で確認できます。
銀行株のPBRが0.5倍前後でも、それは「異常に割安」なのではなく、その業種では標準的な水準ということがあります。PBRは必ず同業他社と比べてください。業種平均は日本取引所グループが毎月公表しています。
低PBR株が上がらない3つの理由
「1倍割れだから買い」で入ると、何年も動かない銘柄をつかむことがあります。PBRが低いまま放置される理由は主に3つです。
資産はあっても、それを使って利益を生めていない状態です。市場は「この資産は価値を生まない」と評価しているため、PBRは1倍を回復しません。低PBRの最大の原因はこれです。
赤字が続けば純資産は目減りします。市場が将来のBPS低下を織り込んでいる場合、現時点のPBRが低くても割安ではありません。
帳簿上の資産が実際には売れない、または簿価より安くしか売れないことがあります。老朽化した設備、回収困難な売掛金、価値が疑わしい「のれん」などが典型です。解散価値はあくまで理論値です。
・ROEは改善しているか(稼ぐ力が戻ってきているか)
・株主還元の方針を開示しているか(東証の要請への対応状況)
・純資産が年々減っていないか
PBRとROEの関係を押さえると理解が一段深まる
PBR・PER・ROEの3つは、次の式で結びついています。
この式が示しているのは、PBRを上げるには「稼ぐ力(ROE)を上げる」か「市場の期待(PER)を高める」しかないということです。
東証がPBR1倍割れの改善を求めたとき、企業が自社株買いや事業整理に動いたのは、この構造が理由です。自社株買いは純資産を減らして1株あたり利益を増やすため、ROEを直接押し上げます。
| 組み合わせ | 市場の評価 |
|---|---|
| 低PBR × 高ROE | 稼げているのに評価されていない。見直し余地が大きい |
| 低PBR × 低ROE | 評価が低いのは当然。放置されやすい |
| 高PBR × 高ROE | 優良と評価済み。割高になりやすい |
探すべきは「低PBR × 高ROE」の組み合わせです。詳しくはROEとはを参照してください。
BPS(1株あたり純資産)はどこで確認する?
PBRの分母であるBPSは、企業が発表する決算短信の1ページ目に必ず載っています。
サマリー情報がまとまっているページです。
ここに「1株当たり純資産」という項目があります。これがBPSです。
証券会社の銘柄画面にも表示されますが、自分で計算できると数字の意味がつかめます。
※ 証券会社が表示するPBRは、直近決算のBPSを使っているのが一般的です。決算をまたぐと数値が変わります。
PBRが動く4つの場面
PBRは株価だけでなく、企業の資本政策によっても動きます。どの動きが「本当の改善」で、どれが「見かけだけ」かを区別できると、ニュースの読み方が変わります。
| 出来事 | BPSへの影響 | PBRへの影響 |
|---|---|---|
| 株式分割 | 株数が増えた分だけ下がる | 変わらない(株価も同率で下がるため) |
| 自社株買い | PBR1倍割れなら上がる | 機械的にはほぼ横ばい。評価改善による株価上昇で上がる |
| 公募増資 | PBR1倍割れなら下がる | 既存株主の持ち分が薄まる(希薄化) |
| 決算発表 | 黒字なら増え、赤字なら減る | BPSの更新に応じて変わる |
1株あたり純資産 1,000円 → 約980円へ低下
→ 既存株主の取り分が減る
PBR1倍割れの状態での増資は、既存株主にとって不利になります。逆にPBRが1倍を大きく超える状態での増資はBPSを押し上げます。増資のニュースを見たら、まずPBRが1倍の上か下かを確認してください。
純資産の「中身」まで見る:実質PBRという考え方
PBRの計算に使う純資産は、あくまで帳簿上の金額です。実際の価値と帳簿の金額がずれていることは珍しくありません。
昔から保有している土地は取得時の価格で計上されているため、現在の時価が大きく上回っていることがあります。政策保有株も同様です。この場合、表示されているPBRより実質的には割安ということになります。
買収で計上された「のれん」、稼働していない設備、回収の見込みが薄い債権などです。減損処理が行われると純資産が一気に減り、PBRは急に跳ね上がります。
資産の内訳は決算短信や有価証券報告書の貸借対照表で確認できます。「のれん」が純資産に対して大きい企業は、減損によってPBRの前提が崩れるリスクを抱えています。
PBRが使えないケース・注意点
負債が資産を上回ると純資産はマイナスになり、PBRは計算できません。債務超過は上場廃止基準にも関わる状態です。上場廃止のリスクを含めて確認が必要です。
ソフトウェアやサービス業は、価値の源泉が人材やブランドで、貸借対照表に載りません。こうした企業のPBRが高いのは当然で、割高判定の根拠にはなりません。
「解散価値」はあくまで計算上の概念です。実際に会社が解散して株主へ純資産が分配されることは、通常ありません。PBR1倍割れを「必ず1倍まで戻る」と考えるのは誤りです。
株価は毎日動きますが、BPSは決算発表のタイミングでしか変わりません。決算直後にPBRが大きく変わって見えるのはこのためです。
PBRで銘柄を探すときの実践的な条件
PBR単独で絞り込むと、②や③の理由で低い銘柄ばかりが並びます。次の条件を重ねると精度が上がります。
| 条件 | 狙い |
|---|---|
| PBR 1倍未満 | 資産面での割安さ |
| ROE 8%以上 | 稼ぐ力があるのに評価されていない銘柄に絞る |
| 営業利益が増加傾向 | 本業が伸びているかを確認 |
| 株主還元方針の開示あり | 改善に動く意思がある企業に絞る |
絞り込みの手順はスクリーニングで解説しています。低PBR・低PERを軸にした投資手法そのものについてはバリュー投資とはもあわせてご覧ください。
PBRに関するよくある質問
まとめ
PBRは、株価が会社の正味財産の何倍かを示す指標です。1倍割れは割安のサインであると同時に、市場が「この資産は価値を生まない」と評価しているサインでもあります。
2023年の東証の要請以降、日本企業はPBR改善へ本格的に動き始めました。だからこそ、単に1倍割れを探すのではなく、「稼ぐ力があるのに評価されていない銘柄」「改善に動く意思を示している銘柄」を選ぶことが、PBRを使ううえでの実践的な答えになります。
この記事のまとめ
・1倍が解散価値の目安。割れると資産より株価が安い状態
・2023年の東証の要請で自社株買い・増配が加速した
・それでもプライム市場の4割強は1倍割れのまま
・低PBRの主因はROEの低さ。放置される銘柄も多い
・PBR=PER×ROE。改善にはROEを上げるしかない
・債務超過や資産を持たない業種ではPBRは機能しない
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