受注残とは、注文を受けたものの、まだ納品や工事が終わっておらず売上として計上されていない金額のことです。受注残高、バックログとも呼ばれます。

投資家にとっての価値は明確です。受注残は「これから確実に売上になる予定」を示すため、将来の業績を先読みする材料になります。

ただし多ければ良いというものではありません。その理由まで解説します。

この記事でわかること

・受注・受注残・売上の関係
・受注高と受注残高の違い
・「何か月分の仕事があるか」の計算方法
・受注残が積み上がっているのに危険なケース
・受注残が効く業種と、まったく意味がない業種

受注残とは

受注残(読み方:じゅちゅうざん)とは、受注済みだが、まだ売上に計上されていない案件の残高です。

3つの言葉の関係
受注 注文を受けた(契約が成立した)
 ↓ まだ納品していない期間 = 受注残
売上 納品・引き渡しが完了して計上される
→ 受注残は「売上の予約分」だと考えるとわかりやすくなります

計算式は単純です。

期末の受注残高 = 期首の受注残高 + 期中の受注高 − 期中の売上高
新しく受けた仕事より、こなした仕事が多ければ受注残は減ります。

受注高と受注残高の違い

決算資料でよく並んで出てくる2つですが、意味はまったく違います。

用語 意味 性質
受注高 その期間に新しく受けた注文の金額 フロー(期間の量)
受注残高 その時点で抱えている未消化の注文の総額 ストック(時点の残高)

両方を見ることに意味があります。受注高は「足元の勢い」、受注残高は「これから何年分の仕事を持っているか」を示すからです。

受注高が減っていても、受注残高が大きければ当面の売上は維持されます。ただし、それは在庫を取り崩しているのと同じ状態です。

なぜ受注残が先行指標になるのか

通常の決算数値は「終わったこと」の報告です。売上も利益も過去の実績にすぎません。

売上高・利益

すでに終わった取引の記録
過去を見ている

受注残高

これから売上になる予定の金額
未来を示している

この違いがあるため、受注残高は決算発表のなかでも数少ない「将来を語る数字」になります。

実際、受注生産型の企業では売上高より受注高・受注残高の増減のほうが株価に反応することがあります。市場は先を見ているためです。

受注残高月数という見方

金額そのものより、「何か月分の仕事があるか」に換算すると比較しやすくなります。

受注残高月数の計算

受注残高月数 = 受注残高 ÷ 月平均の売上高

受注残高120億円、年間売上高120億円(月平均10億円)の場合
→ 120 ÷ 10 = 12か月分
→ 今から1年間、新規受注がゼロでも売上を作れる状態

この数値を過去の推移や同業他社と比べると、その企業の受注環境が読めます。

動き 読み方
月数が増えている 受注が生産能力を上回っている。需要が強い
月数が横ばい 受注とこなす量が釣り合っている
月数が減っている 新規受注が細っている。将来の売上減少の予兆

受注残が効く業種・効かない業種

すべての企業で使える指標ではありません。受注してから売上になるまでの期間が長い業種でこそ意味を持ちます。

効く業種 理由
建設・プラント 工期が数年に及ぶ。受注残高が数年分あることも
産業機械・工作機械 受注生産。設備投資動向を映す
半導体製造装置 納入まで長期。業界サイクルを先読みできる
造船・重工 建造に数年かかる典型的な受注産業
システム開発 プロジェクト単位で受注し、完了時に売上計上
効かない業種
小売、外食、食品、日用品など見込み生産・即時販売型のビジネス
→ 受注と売上がほぼ同時なので、受注残という概念自体がほとんど存在しません

受注残が多くても危険なケース

ここがこの記事のいちばん重要な部分です。受注残の増加が、必ずしも良いニュースとは限りません。

① 生産が追いついていないだけ

人手不足や部材不足でこなせず、残高だけが膨らんでいることがあります。この場合、納期遅延によるペナルティや失注につながります。

② 低採算の案件を積み上げている

仕事を取るために価格を下げれば受注残は増えます。しかし売上が立つときの利益率は下がります。

③ 受注時と実行時でコストが変わる

資材価格や人件費が上がると、受注した時点の価格では赤字工事になります。長期の案件ほどこのリスクが大きくなります。

④ キャンセルされる可能性がある

受注残は「確定した売上」ではありません。景気が急変すれば取り消されることもあります。

③は建設業やプラント業で実際に起きています。受注残が過去最高なのに、工事損失引当金を計上して利益が吹き飛ぶという展開は珍しくありません。

そのため、受注残高を見るときは必ず利益率とセットで確認してください。

受注残と株価の関係

状況 株価の反応
受注残が増加+利益率も改善 もっとも好感される
受注残が増加+利益率は悪化 評価が分かれる。低採算受注が疑われる
受注残が減少+売上は好調 将来の減収が意識されて売られやすい
大型案件の受注を発表 材料視されやすい。金額と工期を確認する

3行目が見落とされやすいパターンです。「今期は好業績なのに株価が下がる」ときは、受注残が減っていることが理由になっている場合があります。

市場は今期ではなく来期以降を見ているということです。

受注残が減り始めたときのサイン

① 受注高が2四半期連続で前年割れ
一時的な要因か、需要そのものの減退かを見極める
② 受注残高月数が縮小している
金額が横ばいでも、売上規模が拡大していれば月数は減る
③ 会社側の説明トーンが変わった
決算説明資料の表現が「堅調」から「一部で調整」へ変わるなど
④ 同業他社も同じ傾向
1社だけならシェアの問題、業界全体なら景気サイクルの転換点

受注残と併せて見る指標

受注残だけを見ても判断はできません。次の指標と組み合わせることで、中身の質が見えてきます。

併せて見る指標 何がわかるか
売上高営業利益率 受注残が増えているのに利益率が下がっていれば低採算受注を疑う
営業キャッシュフロー 工事が進んでいるのに現金が入っていないなら回収に問題がある
棚卸資産(仕掛品) 受注残と一緒に膨らんでいれば、生産が滞留している可能性
工事損失引当金 計上されていれば、抱えている案件に赤字工事が含まれている
業績予想の修正 受注残があるのに下方修正されるなら、計上時期の後ろ倒しを疑う

とくに工事損失引当金は見逃せません。これが計上されたということは、会社自身が「この案件は赤字になる」と認めたということです。

決算資料のどこを見るか

資料 載っている場所
決算短信 経営成績の説明部分。セグメント別に記載されることが多い
決算説明資料 推移のグラフが載っていることが多く、いちばん見やすい
有価証券報告書 「生産、受注及び販売の状況」の項目

※ 受注残高の開示は義務ではなく、開示していない企業もあります。開示範囲や集計方法は企業ごとに異なるため、他社と比べる際は定義を確認してください。

※ 本記事は財務分析の解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

受注残に関するよくある質問

受注残が多い会社は買いですか?
一概には言えません。受注残の増加が需要の強さを示すこともあれば、生産が追いつかず滞留しているだけのこともあります。また価格を下げて仕事を取れば受注残は増えますが、利益率は下がります。必ず利益率とセットで確認してください。
受注高と受注残高はどちらを重視すべきですか?
両方見るのが基本です。受注高は足元の勢いを、受注残高は今後どれだけの仕事を抱えているかを示します。受注高が減っていても受注残高が大きければ当面の売上は維持されますが、それは蓄えを取り崩している状態でもあります。
受注残は必ず売上になりますか?
なりません。景気の急変や取引先の事情でキャンセルされることがあります。また納期遅延や仕様変更で計上時期がずれることもあります。「予定」であって「確定」ではないという点は押さえておいてください。
受注残高月数はどれくらいが適正ですか?
業種によってまったく異なります。工期が数年に及ぶ建設・プラントでは数年分あることも珍しくありませんし、納期の短い機械では数か月分が普通です。絶対的な適正値はないため、その企業の過去の推移と同業他社との比較で判断してください。
受注残が過去最高なのに株価が下がることはありますか?
あります。低採算の案件で積み上がっている場合や、資材高騰で赤字工事になる懸念がある場合です。実際に工事損失引当金を計上して利益が大幅に減る例もあります。金額の大きさだけでなく、中身の質が問われます。
小売業には受注残がないのですか?
基本的にありません。店頭やオンラインで販売した時点で売上が計上されるため、受注と売上のあいだに時間差がほとんどないためです。受注残が意味を持つのは、受注してから納品までに長い期間がかかる受注生産型の業種です。
受注残高はどこで確認できますか?
決算短信の経営成績の説明部分や、決算説明資料に記載されています。有価証券報告書では「生産、受注及び販売の状況」という項目にあります。推移をグラフで示している決算説明資料がもっとも見やすいでしょう。
大型受注のニュースは買い材料になりますか?
なることが多いですが、内容の確認が必要です。金額が時価総額や年間売上高に対してどれくらいの規模か、工期は何年か、利益率はどうかによって影響は変わります。10年かけて計上される案件なら、単年度の業績インパクトは小さくなります。

まとめ

受注残は決算資料のなかで数少ない「未来を語る数字」です。ただし金額の大きさだけを見ると判断を誤ります。

この記事のまとめ

・受注済みでまだ売上になっていない金額。バックログともいう
・期末残高=期首残高+受注高−売上高
・受注高はフロー、受注残高はストック。両方見る
・受注残高月数=受注残高÷月平均売上高
・受注生産型の業種でのみ意味を持つ指標
・低採算受注や資材高騰で、多くても危険なことがある
・受注残の減少は、好業績でも将来の減収を示すサイン
・必ず利益率とセットで確認する

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