ストックオプションとは、自社株をあらかじめ決めた価格で買える権利を役員や従業員に与える制度です。法律上は新株予約権の一種です。

株価が上がるほど受け取る側の利益が増えるため、働く人と株主の利害を一致させる仕組みとして使われます。スタートアップが優秀な人材を採用する手段としても定着しています。

ただし投資家の立場から見ると、ストックオプションは将来の希薄化要因です。権利が行使されれば株式数が増え、1株あたりの利益は薄まります。この記事は、制度の仕組みと投資家としての見方の両方を扱います。

この記事でわかること

・ストックオプションで利益が出る仕組み
・4つの種類と、それぞれの違い
・税制適格の要件と2024年の改正内容
・投資家が受ける希薄化の影響
・有価証券報告書のどこを見れば潜在株式が分かるか
・ストックオプション発表で株価が下がることがある理由

ストックオプションとは?まず結論から

ストックオプション(読み方:すとっくおぷしょん)

会社が役員や従業員に対して、自社の株式をあらかじめ決めた価格(権利行使価額)で購入できる権利を与える制度です。日本の会社法では新株予約権として発行されます。

受け取った側は、株価が権利行使価額を上回ったときに権利を行使して株式を取得し、市場で売却すれば差額が利益になります。株価が権利行使価額を下回っていれば、行使せずに放置すればよいだけです。損をしない代わりに、上がらなければ何も得られないという設計になっています。

株価が権利行使価額より低い
行使しない
権利行使価額1,000円/株価800円
利益も損失もゼロ
株価が権利行使価額より高い
行使して売る
権利行使価額1,000円/株価1,800円
1株あたり800円の利益

下振れリスクがないため、株価を上げる動機づけとして機能する

企業側の利点は、現金を出さずに報酬を出せることです。手元資金の乏しいスタートアップが、大企業に対抗して人材を採用できるのはこの仕組みがあるためです。

ストックオプションの4つの種類

ひとくちにストックオプションといっても、設計によって性質が大きく異なります。

種類 権利行使価額 特徴
通常型 付与時の株価程度 最も一般的。株価上昇が利益の条件
株式報酬型(1円SO) 1円など極めて低額 実質的に株式を渡すのと同じ。退職金の代替に使われる
有償型 通常型と同程度 受け取る側が対価を払って引き受ける。業績条件が付くことが多い
信託型 設計による 信託を使って後から配分する。2023年に税務の取扱いが整理された

信託型については、2023年5月に国税庁が権利行使時に給与所得として課税されるとの見解を示し、実務が大きく変わりました。それ以前に導入していた企業では、想定と異なる税負担が生じるケースがありました。

投資家として見るときは、株式報酬型(1円ストックオプション)に注意してください。権利行使価額がほぼゼロなので、株価がどうであれ必ず行使されます。つまり希薄化が確実に発生します。

新株予約権との違いは「誰に、何のために出すか」

ストックオプションと新株予約権は、しばしば同じ意味で使われますが、正確には包含関係にあります。

関係を一文でいうと

新株予約権という大きな箱のなかに、報酬目的で役職員に出すものがストックオプションです。同じ新株予約権でも、外部の投資家に資金調達目的で出せばMSワラントなどになります。

比較項目 ストックオプション 資金調達目的の新株予約権
受け取る人 役員・従業員 証券会社・ファンドなど
目的 報酬・動機づけ 資金調達
行使価額 固定されることが多い 株価に連動して下方修正される設計もある
株価への印象 中立(規模次第) 売り材料になりやすい

同じ「新株予約権の発行に関するお知らせ」でも、中身がまったく違います。開示を見たときは、割当先が役職員か外部の金融機関かをまず確認してください。

税制適格ストックオプションと2024年の改正

ストックオプションは、税制上の要件を満たすかどうかで受け取る側の手取りが大きく変わります。

区分 権利行使時 株式売却時
税制適格 課税されない 譲渡所得として申告分離課税(20.315%)
税制非適格 給与所得等として課税(累進税率) 譲渡所得として申告分離課税

※ 税務の取扱いは個別事情によって異なります。詳細は税務署または税理士にご確認ください。

非適格の場合、まだ株を売っていない段階で高額の税金がかかります。納税資金を作るために売却せざるを得ないケースもあり、この違いは受け取る側にとって決定的です。

税制適格の要件のうち、2024年度の税制改正で緩和されたのが年間の権利行使価額の限度額です。

会社の区分 改正前 改正後
原則 1,200万円 1,200万円
設立5年未満の会社 1,200万円 2,400万円
設立5年以上20年未満で、非上場または上場後5年未満の会社 1,200万円 3,600万円

※ 出典:令和6年度税制改正。2024年4月1日以後に付与される新株予約権に適用されます。2026年8月時点の内容です。

この緩和は、スタートアップが大型のストックオプションを税制適格のまま発行できるようにするためのものです。成長企業ほど大きなストックオプションを出しやすくなったという点は、投資家側から見れば希薄化の規模が拡大しうることを意味します。

税制適格になるための主な要件

税制適格の扱いを受けるには、租税特別措置法が定める要件をすべて満たす必要があります。1つでも外れると非適格になります。

要件 内容
付与対象者 会社および子会社の取締役・執行役・使用人など。大口株主とその特別関係者は対象外
権利行使期間 付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで(一定の設立5年未満の非上場会社は15年)
権利行使価額 契約締結時の時価以上であること
年間の権利行使価額 前掲の限度額(1,200万円/2,400万円/3,600万円)以内
譲渡 新株予約権を他人に譲渡できないこと
株式の管理 証券会社等への保管委託が原則。2024年改正で発行会社による管理も認められた

※ 出典:租税特別措置法第29条の2および令和6年度税制改正。2026年8月時点の内容です。

投資家として押さえておきたいのは権利行使期間です。付与から2年間は行使できないため、希薄化がすぐには起きません。有価証券報告書に行使期間が記載されているので、いつから行使可能になるかを確認しておくと、需給が変わる時期の見当がつきます。

投資家から見ると希薄化要因になる

ここからは株主の視点です。ストックオプションが行使されると、新株が発行されて発行済株式数が増えます。希薄化です。

項目 行使前 行使後
発行済株式数 1,000万株 1,050万株
当期純利益 5億円 5億円
EPS 50円 約47.6円
希薄化率 約4.8%

希薄化率が数%程度なら、通常は大きな問題になりません。問題になるのは、潜在株式が発行済株式数の10%を超えるような場合です。とくに上場して間もない成長企業では、この比率が高いことがあります。

ただし増資MSワラントによる希薄化とは性質が異なります。ストックオプションの行使は、株価が上がったときにしか起きません。株価が上がった結果としての希薄化なので、株主にとっての痛みは相対的に小さくなります。

有価証券報告書のどこを見るか

潜在株式の状況は開示されています。決算資料で確認できる項目は次のとおりです。

確認する場所 分かること
有価証券報告書「新株予約権等の状況」 発行済みの新株予約権の数、権利行使価額、行使期間
有価証券報告書「ストック・オプション等関係」 付与対象者、付与数、公正な評価単価
決算短信の潜在株式調整後1株当たり当期純利益 すべて行使されたと仮定したEPS。実質的な希薄化後の数値
適時開示「新株予約権の発行に関するお知らせ」 新たに発行される分の規模と条件

最も手軽なのは決算短信の潜在株式調整後1株当たり当期純利益です。通常のEPSとこの数値の差が、そのまま希薄化の影響と考えられます。差が大きい企業は、潜在株式が多いということです。

権利行使価額と現在の株価を比べることも有効です。行使価額が現在の株価より大幅に低ければ、行使される可能性が高い状態にあります。逆に株価が行使価額を大きく下回っていれば、当面は行使されません。

ストックオプションのデメリットと注意点

① 発行が続くと希薄化が積み上がる

1回あたりの規模が小さくても、毎年発行していれば潜在株式は増え続けます。単年ではなく累計で見る必要があります。

② 行使後にまとまった売りが出やすい

権利を行使した役職員の多くは、そのまま保有せず売却します。行使可能になるタイミングで需給が悪化することがあります。

③ 短期の株価を優先する動機になりうる

権利行使期間が近づくと、経営陣が短期的な株価対策を優先する可能性が指摘されています。中長期の投資が後回しになるリスクです。

④ 1円ストックオプションは必ず行使される

権利行使価額が1円などの株式報酬型は、株価水準に関係なく行使されます。希薄化が確実に起きるタイプだと理解しておいてください。

⑤ 付与対象が偏っていないか

一部の役員に集中している場合と、従業員に広く配られている場合では意味が違います。有価証券報告書の付与対象者の区分で確認できます。

発表で株価が動くのはどんなときか

ストックオプションの発行は日常的な開示なので、通常は株価がほとんど動きません。反応が出るのは次のようなケースです。

下がりやすいケース

・潜在株式数が発行済株式数に対して大きい(10%超など)
・株式報酬型で、確実に希薄化が発生する
・すでに新株予約権を繰り返し発行している

上がることもあるケース

・業績条件が厳しく設定された有償型(達成すれば業績が伸びる前提)
・優秀な人材の獲得・引き留めが評価される局面
・希薄化率が小さく、実務上ほぼ影響がない規模

判断の軸は希薄化率が何%かという一点に集約されます。開示には「発行済株式総数に対する割合」が記載されているので、そこを見れば数秒で判断できます。

ストックオプションに関するよくある質問

ストックオプションと株式報酬は同じものですか?
違います。ストックオプションは「決まった価格で買える権利」であり、株式そのものではありません。株式を直接付与する譲渡制限付株式(RS)とは別の制度です。ただし権利行使価額が1円の株式報酬型は、実質的に株式を渡すのに近い性質を持ちます。
税制適格と非適格では何が違うのですか?
課税のタイミングと税率が違います。税制適格なら権利行使時には課税されず、売却時に譲渡所得として申告分離課税(20.315%)になります。非適格は権利行使した時点で給与所得等として累進税率で課税されるため、株を売る前に納税が発生します。
2024年の税制改正で何が変わりましたか?
税制適格の要件である年間の権利行使価額の限度額が引き上げられました。原則は1,200万円のままですが、設立5年未満の会社は2,400万円、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満の会社は3,600万円になりました。2024年4月1日以後に付与される分から適用されます。
ストックオプションの発表は売り材料ですか?
規模によります。発行済株式総数に対する割合が数%以内なら、ほとんど反応しないのが通常です。10%を超えるような規模や、権利行使価額が極めて低い株式報酬型では、希薄化が意識されて売られることがあります。
潜在株式はどこで確認できますか?
有価証券報告書の「新株予約権等の状況」に、発行済みの新株予約権の数と権利行使価額、行使期間が記載されています。手早く確認したい場合は、決算短信の「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」と通常のEPSを比べる方法が便利です。
1円ストックオプションとは何ですか?
権利行使価額を1円などの極めて低い金額に設定したストックオプションです。株式報酬型とも呼ばれ、退職金の代替として使われることがあります。株価水準に関係なく行使されるため、希薄化が確実に発生する点が投資家にとっての注意点です。
増資による希薄化とどう違いますか?
増資は資金調達のために行われ、株価水準に関係なく実行されます。ストックオプションの行使は株価が権利行使価額を上回ったときにしか起きないため、株価が上がった結果として発生する希薄化です。株主にとっての痛みは相対的に小さくなります。
信託型ストックオプションはどうなりましたか?
2023年5月に国税庁が、権利行使時に給与所得として課税されるとの見解を示しました。これにより、導入していた企業では想定と異なる税負担が生じるケースがありました。現在は制度設計を見直す動きが進んでいます。

まとめ

ストックオプションは、株価が上がったときにだけ価値が生まれる報酬制度です。投資家として見るなら、判断材料は希薄化率の一点です。

この記事のまとめ

・自社株を決まった価格で買える権利で、法的には新株予約権
・税制適格なら権利行使時に課税されない
・2024年改正で年間限度額が最大3,600万円まで拡大
・行使されると新株が発行され、EPSが希薄化する
・潜在株式調整後1株当たり当期純利益で影響を確認できる
・1円ストックオプションは株価に関係なく必ず行使される

あわせて読みたい:新株予約権とは希薄化とはEPSとはMSワラントとは自社株買いとは増資とはIPOとは

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