代用有価証券とは、信用取引の委託保証金として現金の代わりに差し入れる有価証券のことです。
すでに持っている株式を担保にできるため、現金を追加せずに信用取引を始められます。資金効率という意味では非常に優れた仕組みです。
ただし、大きな落とし穴があります。相場が下落したとき、損失が二重に効いてくることです。この記事ではその構造まで踏み込みます。
この記事でわかること
・下落時に損失が二重に効く仕組み
・代用有価証券のままでも配当や優待は受け取れること
・掛目が引き下げられることがあるという注意点
・担保にするのに向く銘柄・向かない銘柄
目次
代用有価証券とは
信用取引を始めるには、証券会社に委託保証金を差し入れる必要があります。この保証金は現金だけでなく、保有している株式や投資信託でも代用できます。
価値は変動しない
株価とともに毎日変動する
株を担保にすると、時価そのままでは評価されない
この「時価に掛ける割合」を代用掛目(だいようかけめ)といいます。株価が下がるリスクがあるため、あらかじめ割り引いて評価する仕組みです。
代用掛目の水準
| 種類 | 掛目の目安 | 評価の基準 |
|---|---|---|
| 上場株式 | 80% | 前営業日の終値 |
| 投資信託 | 80% | 前営業日の基準価額 |
| 国債 | 95%程度 | 価格変動が小さいため高めに設定される |
| ETF・REIT | 80% | 上場株式に準じる扱い |
※ 掛目は証券会社によって異なり、銘柄ごとに個別に設定される場合もあります。必ず利用する証券会社の一覧をご確認ください。
→ どの証券会社でも、株式が時価の80%を超えて評価されることはありません
株式の掛目が90%や100%の証券会社は存在しません。これは法令上の上限だからです。逆に、リスクが高いと判断された銘柄では80%より低く設定されることがあります。
実際に計算してみる
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 保有株式の時価 | 200万円 |
| 掛目 | 80% |
| 代用有価証券の評価額 | 160万円 |
| 建てられる建玉の上限 委託保証金率30%の場合 |
約533万円 |
※ 簡易な例です。実際の計算方法は証券会社により異なります。
200万円分の株を持っていれば、追加の入金なしで約533万円の建玉が可能になります。この資金効率の良さが、代用有価証券の最大の魅力であり、同時に最大の危険でもあります。
代用にできるもの・できないもの
保有している証券がすべて担保になるわけではありません。
| 対象 | 代用 | 補足 |
|---|---|---|
| 上場株式(一般的な銘柄) | できる | 掛目80% |
| 投資信託・ETF・REIT | 多くはできる | 対象商品は証券会社ごとに指定される |
| 国債・地方債などの債券 | できる | 掛目は株式より高め |
| 整理銘柄・監理銘柄 | できない | 上場廃止の可能性がある銘柄は除外される |
| NISA口座の保有分 | できない | NISAは信用取引の担保に使えない |
| 貸株に出している株式 | できない | 貸株と代用は同時に使えない(後述) |
※ 取扱いは証券会社によって異なります。必ず利用する会社の代用有価証券一覧をご確認ください。
NISAは非課税で保有するための制度であり、信用取引の担保として差し入れることはできません。「株はたくさん持っているのに担保にできない」という事態を避けるため、口座区分を確認しておいてください。
下落が二重に効く
この記事で最も重要な章です。
② 担保にしている株の価値も下がる(担保も減る)
→ 委託保証金維持率が二重に悪化する
現金を担保にしている人より、はるかに速く追証に到達します。
| 項目 | 現金が担保 | 株式が担保 |
|---|---|---|
| 当初の保証金 | 160万円 | 160万円 (時価200万円×80%) |
| 建玉 | 500万円 | 500万円 |
| 相場が20%下落 | — | — |
| 建玉の評価損 | -100万円 | -100万円 |
| 担保価値の減少 | 0円 | -32万円 |
| 残る保証金 | 60万円 | 28万円 |
| 維持率 | 12.0% | 5.6% |
※ 担保株も同率で下落したと仮定した簡易な例です。
同じ20%の下落でも、維持率は12.0%と5.6%で倍以上の差がつきます。維持率10%未満になると追証の期限も短くなるため、対応する時間まで奪われます。
現金の保証金との違い
| 項目 | 現金 | 代用有価証券 |
|---|---|---|
| 評価額 | 額面どおり100% | 掛目をかけた金額(株式は80%) |
| 価値の変動 | しない | 毎日変動する |
| 資金の準備 | 入金が必要 | 不要(保有株を使える) |
| 配当・優待 | — | 受け取れる |
| 急落時 | 担保は減らない | 担保も一緒に減る |
意外と知られていませんが、代用有価証券として差し入れていても、その株式の所有者は自分のままです。配当金も株主優待も、通常どおり受け取れます。ここが代用有価証券の実質的なメリットです。
掛目は変更されることがある
掛目は固定ではありません。市場の動向や銘柄の状況に応じて、取引所や証券会社の判断で変更されます。
掛目が80%から60%に下がれば、株価が1円も動いていなくても担保価値が4分の1減ります。それだけで維持率が下がり、追証が発生することもあります。
掛目が引き下げられやすいのは、値動きが極端に荒くなった銘柄、業績や財務に懸念が出た銘柄、増担保規制がかかった銘柄などです。
担保にしている銘柄のニュースにも注意を払う必要がある——これが代用有価証券を使う人が負う、もう一つの管理コストです。
担保にするのに向く銘柄
| 条件 | 向き不向き | 理由 |
|---|---|---|
| 値動きが穏やかな大型株 | 向く | 担保価値が安定する。掛目も下げられにくい |
| 国債 | 向く | 掛目が高く、価格変動も小さい |
| 建玉と同じ業種の株 | 向かない | 同時に下がる。二重リスクが最大化する |
| 値動きの荒い小型株 | 向かない | 担保価値が急減する。掛目も下げられやすい |
| 建玉と同じ銘柄 | 最も危険 | いわゆる二階建て。1銘柄の下落が全損につながる |
→ A社が下がると、担保と建玉が同時に崩れる
1銘柄の急落で資産の大半を失う可能性があります。証券会社によっては制限されている取引方法です。
貸株サービスとは併用できない
見落としやすい制約です。
代用有価証券:証券会社に株を担保として差し入れる
→ どちらか一方しか選べない
貸株に出している株は、信用取引の担保として評価されません。
貸株金利を受け取りたいのか、信用取引の担保にしたいのか。保有株ごとに用途を決める必要があります。貸株の仕組みは貸株で解説しています。
代用有価証券なら配当も優待もそのまま受け取れますが、貸株に出していると配当は「配当金相当額」として支払われ、税務上の扱いが変わります。優待も受け取れない場合があります。この違いも判断材料になります。
差し入れと引き出しの手続き
実際の操作は、証券会社の画面上で完結します。
投資経験や資産状況の審査があります。現物取引の口座とは別に申し込みが必要です。
証券会社によっては、特定口座の保有株が自動的に代用有価証券として評価される設定になっています。
担保株を売れば保証金が減ります。売却前に、維持率がどこまで下がるかを必ず確認してください。
代用有価証券を使うときの実務ルール
すべてを代用有価証券に頼らないでください。急落時に担保が目減りしない現金があるだけで、耐えられる下落率が大きく変わります。
違う業種、違う値動きをする銘柄にしておけば、同時に崩れる可能性を下げられます。
二重に効くことを前提に、現金担保の場合より高い維持率で運用してください。委託保証金率の計算方法を理解しておくことが前提になります。
※ 本記事は制度の一般的な解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。具体的な掛目やルールは各証券会社にご確認ください。
代用有価証券に関するよくある質問
まとめ
代用有価証券は、資金を追加せずに信用取引を始められる便利な仕組みです。その代わり、相場が下がると建玉と担保の両方が同時に痛みます。
この記事のまとめ
・掛目の上限は内閣府令で80%。株式・投信は80%、国債は95%程度
・下落時は建玉と担保の両方が減る(二重リスク)
・代用のままでも配当・株主優待は受け取れる
・掛目は引き下げられることがある
・同じ銘柄を担保にする「二階建て」は最も危険
・一定割合は現金で保証金を用意する











