こちらの記事はYoutube【ZAi探の解説動画チャンネル】でも公開中!!
よかったらチャンネル登録お願いします。
事業譲渡とは
事業譲渡(読み方:じぎょうじょうと)
事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を譲渡することです。
有形固定資産(店舗・工場など土地建物)だけでなく、無形資産(営業権・ノウハウなど)も譲渡対象となり、買い手側は必要な資産のみを譲受することができます。
わかりやすくいうと、会社を丸ごと譲渡するのが株式譲渡ですが、事業における資産内から売りたいものだけを選択できます。
事業譲渡は株式譲渡や会社分割と同様に中小企業で利用されることが多いM&Aの代表的な手法の一つとなっています。法律上、事業譲渡契約の締結後に売り手側は同一市町村および隣接する市町村の区域内で20年間は同一の事業を行えなくなるという義務があります。
事業譲渡を行う目的は会社の状況等によって様々ですが、売り手側の目的としては主に経営再建、買い手側は事業拡大(新規事業展開含)の目的で行われるケースが多いです。
ちなみに、事業譲受(じぎょうゆずりうけ)という表記もされますが、買い手側からすると「事業譲受」・売り手側からすると「事業譲渡」の差でしかありません。
例文)A社はB社へ○○事業を事業譲渡、B社はA社から○○事業を事業譲受
fa-arrow-circle-right事業譲渡を英語ではAsset Purchase、Assets and Liabilities Purchasesなど
事業譲渡メモ
・事業譲渡は株式譲渡や合併同様にM&Aの代表的な手法の1つ
・資産(有形固定資産、無形資産)から必要な資産のみ譲受することができる
事業譲渡の手続きの流れ
事業譲渡の手続きの流れは、おおまかに以下の様になっています。
取締役会設置会社の場合、取締役会で事業譲渡の決議が必要となります。
事業の一部譲渡であればどの事業を売却するのか等を取り決めます。
取締役会を設置していない会社の場合、会社法に則った条件下においては事業譲渡の効力発生日の前日までに株主総会による承認が必要な場合があります。
※条件を満たす場合で株主総会が不要となる場合もあります
買い手がなかなか見つからない、心当たりがない場合はM&A専門会社等に一任する会社もあります。
買い手側から受け取る意向表明書内容に合意⇒基本合意書を締結します。
簡単にいうと基本合意とは仮契約の状態で、基本合意書には法的事項等の記載があるため、以降のトラブル防止にもなるものです。
買い手側の弁護士等の専門家による売り手企業の調査が行われます。
調査によって買い手側はリスク把握や買収価格の調整等を行うことができるようになります。
事業譲渡契約書を交わし、事業譲渡契約を締結します。
事業譲渡契約の際、事業譲渡契約書を作成する方法が一般的です。
事業譲渡契約契約書には社員・従業員の扱いや譲渡財産の日付・範囲等が記載されています。
クロージングとは事業譲渡契約書に沿って買い手側へ対価の交付・資産や権利等の移転を行う手続きのことをいいます。
株主総会を開き、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の3分の2以上で可決となる出席した議決権を持つ株主の3分の2以上の賛成によって成立する特別決議での承認が必要となります。
簡単にいうと特別決議をもって株主への広告・通知がなされることになります。
事業譲渡契約書で取り決めた効力発生日をもって事業譲渡契約の完了となります。
※③基本合意・⑤事業譲渡契約締結においては取締役会の承認を経ての形となります。(取締役会設置の有無による流れの違いは前述の通り)
事業譲渡メモ
┗取締役会設置会社、未設置会社で多少異なるものの、おおまかな流れは同じ
事業譲渡と株式譲渡・合併・会社分割の違い
事業譲渡や株式譲渡・合併・会社分割はM&Aの手法ですが、いずれにしてもM&Aを行う大きな目的(主な目的)は基本的には『経営再建と事業拡大』という目的が共通しているといえます。
事業譲渡と混同されたり比較されやすい株式譲渡や合併等、それぞれの違いについても把握しておきましょう。
事業譲渡と株式譲渡の違い
対象 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
手取引対象 | 売り手側・買い手側ともに法人 ※個人事業主・個人事業を売却する場合は法人手続きとは異なる |
売り手側は対象会社の株主(オーナー)、買い手側は法人 |
売買対象 | 事業の一部または全て | 株式 |
移転対象 | 事業に必要となる物や人(従業員)、権利の一部または全て | 所有権や経営権、許認可など |
事業譲渡と合併の違い
事業譲渡と合併の明確な違いは以下の通りです。
事業譲渡 | 会社を消滅させることなく存続させながら行える買収手法 |
合併 | 複数の会社を1つの会社にする手法で、吸収合併・新設合併ともに消滅してしまう会社が存在する |
また、簿外債務(ぼがいさいむ)のリスクがないことも合併と異なる点です。
簿外債務についてはこのあとのメリット・デメリットの項目で触れています。
事業譲渡と会社分割の違い
会社分割とは、簡単にいうと資金を必要としない企業再編(組織再編手法)のことをいいます。
会社の事業の1つ・またはその会社の事業全てを分割させて別の会社に移転するM&Aの手法で、新設分割(事業を分割して新会社設立によって承継)と吸収分割(すでに存在する会社に承継)があります。
事業譲渡も会社分割も「A社の○○事業(事業名)がB社に移った」という結果にはなります。
一見すると同じように思えますが何点か違いがあり、主に対価や発生する税金に違いがあります。
対象 | 事業譲渡 | 会社分割 |
対価 | 現金のみ | 株式が原則(吸収分割の場合は株式以外の支払い可) |
税金 | 消費税(課税対象とならないケースも有) | 消費税は発生しない |
税金に関しては登録免許税の軽減措置の有無も異なります。(事業譲渡は軽減措置なし・株式分割は軽減措置あり)
事業譲渡メモ
・事業譲渡と合併の違いは会社存続の有無や簿外債務の有無
・事業譲渡と会社分割の違いは対価や発生する税金等が異なる
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡や株式譲渡、合併等いわゆるM&Aですが、近年は株式投資のようにM&Aに対して投資と捉える投資家の方が増えてきているといわれています。
投資という観点において、事業譲渡のメリット・デメリットをそれぞれ把握しておくことは損はないと言えるでしょう。
メリット | デメリット | |
売り手 | ・事業の一部のみを譲渡可能(残したい事業を選択できる)※1 ・現金が得られる ・メイン事業の集中化 |
・手続きが複雑 ・譲渡益に対する税金(法人税) ・従業員の反対※2 |
買い手 | ・必要な事業のみ承継できる※3 ・簿外債務の不安がない※4 |
・手続きが複雑 ・取得資産に対する税金(消費税等) ・従業員の反対 |
※1 冒頭でも少し触れましたが、事業譲渡は譲渡対象である有形固定資産(店舗・工場など土地建物)や無形資産(営業権・ノウハウなど)の中から、売りたいものだけを選択することができます。 例えば、「商標だけ売却して土地は売却しない」等。 |
※2 事業譲渡において、従業員の雇用契約は承継されないため、買い手企業と雇用契約を結ばなければなりません。 そのため、従業員が転籍に反対して事業譲渡が頓挫したり、売り手企業から腕のある従業員が離れることで業績・事業価値が下がってしまうケースもあります。 逆に買い手側の従業員からすると、より実力のある人間が売り手側から転籍となった場合、離職・退職を検討する等もあるため、従業員問題は売り手側・買い手側どちらにもデメリットとなりうる問題だといえます。 |
※3 例えば株式譲渡や合併の場合、買い手企業にとって不要な資産や負債等も背負う可能性がありますが、事業譲渡の場合は買い手が必要とする事業のみ承継できることになるため、リスクを抑えられるという意味でもメリットといえます。 |
※4 簿外債務とは、帳簿に記載されない債務のことをいいます。 具体的には先に控えているボーナスや未払いの残業代等が該当します。 株式譲渡や合併では簿外債務リスクの不安があり、デメリットとして挙げられますが、企業譲渡においては簿外債務の心配をする必要がありません。 |
事業譲渡による株価の動向・影響
事業譲渡のみに限ったことではありませんが、株式譲渡や合併等いわゆるM&Aによる株価への影響は上昇するケース・下落するケースどちらもあるものです。
それぞれ様々な理由があると言えますが、上昇するケースとしては買い手側の企業が大手企業や有力企業だということが株価が上昇する条件の1つとして挙げられるかと思います。
買い手側企業の規模と合わせて、投資家の期待値が関係してきます。
例えば、業績好調なA社とのM&Aであればその傘下となるB社への期待値が上がります。
M&Aとはいっても『元々の経営基盤が安定している・業績を安定的に伸ばしている企業』に期待するという観点では株式投資同様だといえます。
勿論そこに絶対はありませんが、あくまで事業譲渡などM&Aを行うことによる株価の動向を考える際、上記のようなケースが株価が上昇しやすい傾向があるということです。
逆に、事業譲渡などM&Aにより株価が下落するケースは投資家の期待値が低い場合です。
投資家の期待値が低いというのは、買い手側の企業評価が下がり、株価が下落するというケースです。
事業譲渡などのM&Aが行われる理由や詳細は、企業のIRニュースや適時開示情報等から『具体的にどのような目的で行うのか・行われたのか』を調べ、事業譲渡なら他の事業譲渡ケースと比較して株価にどのような影響があったのか・結果として株価は上昇したのか・下落したのかを分析してみるのも良いのではないかと思います。