発行済株式数とは、会社がこれまでに発行した株式の総数です。1株当たりの利益や時価総額を計算するときの分母になります。

ただし、ここには落とし穴があります。「発行済株式数」と呼ばれる数字は、実は3種類あります。

どれを使うかで計算結果が変わるため、この記事ではその使い分けを整理します。

この記事でわかること

・自己株式を含む数と含まない数の違い
・EPSやBPSでどの数字を使うか
・議決権の数と一致しない理由
・決算短信のどこに載っているか
・潜在株式による希薄化とは何か

発行済株式数とは

会社が設立以降に発行してきた株式の累計です。会社の「持ち分の総数」にあたります。

用語 意味
発行可能株式総数 定款で定めた発行の上限(=枠)
発行済株式総数 実際に発行された株式の数
自己株式 会社が買い戻して保有している自社の株
上場株式数 取引所に上場している株式の数

発行可能株式総数は「枠」で、発行済株式総数は「実際に出した数」です。公開会社では、発行済株式総数の4倍を超える発行可能株式総数を定めることはできません。

自己株式を含むかどうかで数字が変わる

ここがこの記事で最も重要な部分です。企業が自社株買いをすると、2つの数字が生まれます。

同じ会社に「2つの株式数」がある
発行済株式総数
自己株式を含む
→ 時価総額の計算に使われる
自己株式を除いた数
実際に株主が持つ数
→ 1株当たり指標に使われる

自己株式には議決権も配当を受ける権利もありません。会社が自分自身の株主になることはできないためです。したがって1株当たりの価値を計算するときは、自己株式を除いて考えます。

EPSとBPSで使う株式数は違う

指標を自分で計算するとき、最もつまずきやすい部分です。

指標 計算式 使う株式数
EPS
(1株当たり利益)
当期純利益 ÷ 株式数 期中平均株式数
(自己株式を除く)
BPS
(1株当たり純資産)
純資産 ÷ 株式数 期末の株式数
(自己株式を除く)
時価総額 株価 × 株式数 上場株式数
(一般に自己株式を含む)
なぜEPSだけ「期中平均」なのか

利益は1年間かけて積み上がるものだからです。期の途中で増資をして株数が増えた場合、期末の株数で割ると利益が薄まりすぎます。そこで増えた時期を加味した加重平均を使います。

議決権の数とは一致しない

発行済株式数がそのまま議決権の数になるわけではありません。

議決権がないもの 理由
自己株式 会社が自分に投票することになるため
単元未満株 1単元(通常100株)に満たないため
議決権制限株式 種類株式として権利が制限されているため
相互保有株式 一定の条件を満たす持ち合いの場合

特別決議の「3分の2」や拒否権の「3分の1」を計算するときは、発行済株式数ではなく議決権の数で考えます。大株主の影響力を見るときに重要な区別です。

決算短信のどこに載っているか

3つの数字は、すべて決算短信のサマリー部分にまとめて記載されています。探し回る必要はありません。

記載名 意味
期末発行済株式数
(自己株式を含む)
決算日時点の総数
期末自己株式数 会社が保有している自社株の数
期中平均株式数 EPSの計算に使われた数

この3つが並んでいるため、「期末発行済株式数 - 期末自己株式数」を計算すれば、実際に株主が保有している株式数が分かります。有価証券報告書にも同じ情報が記載されています。

発行済株式数が増える場面

場面 1株当たりの価値 株主への影響
公募増資 薄まる 持ち分比率が下がる(希薄化)
第三者割当増資 薄まる 特定の相手だけが株主になる
株式分割 薄まる 持ち分の価値は変わらない
新株予約権の行使 薄まる 徐々に発行済株式数が増えていく

株式分割だけは性質が違います。株数は増えますが、同じ比率で株価が調整されるため保有している資産の価値は変わりません。ケーキを切り分ける数が増えるだけです。

発行済株式数が減る場面

場面 起きること
自己株式の消却 発行済株式総数そのものが減る(EPSが上がる)
株式併合 複数株を1株にまとめる(価値は変わらない)
自社株買いと消却は別の手続き

自社株買いをしただけでは「自己株式」として保有されるだけで、発行済株式総数は減りません。消却して初めて総数が減ります。再び市場に出される(処分される)可能性が残るかどうかの違いがあり、消却のほうが株主にとって明確な還元になります。

潜在株式による希薄化

いま存在していなくても、将来株式に変わる可能性のあるものがあります。これを潜在株式といいます。

種類 内容
新株予約権 一定価格で株式を取得できる権利(ストックオプションなど)
転換社債(CB) 条件を満たすと株式に転換される社債

これらがすべて株式に変わった場合を想定した指標が、「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」です。決算短信のEPSの隣に記載されています。

通常のEPSと潜在株式調整後EPSの差が大きい企業は、将来的な希薄化リスクが大きいということです。成長企業でストックオプションを多く発行している場合、この差に注目してください。

発行済株式数から何が読めるか

状態 読み取れること
毎年増え続けている 増資や新株予約権の行使が続いている=希薄化が進行中
減っている 自己株式の消却=株主還元に積極的
自己株式の比率が高い 買い戻し済み。今後の消却や交換の原資になる
急に大きく増えた 大型増資か株式分割。どちらかで意味が正反対

数年分の推移を並べるだけで、その会社が株主をどう扱っているかが見えてきます。利益が伸びていても株数がそれ以上に増えていれば、1株当たりの価値は増えていません。

発行済株式数を見るときの注意点

① 過去の数値は分割で調整されていることがある

証券会社のサイトなどでは、株式分割を遡って調整した数値が表示されることがあります。当時の実際の株数とは異なる場合があるため、出典を確認してください。

② 連結と単体で数字は同じ

発行済株式数は会社そのものの株数なので、連結・単体で変わりません。混乱しやすいのは利益のほうです。EPSの計算では連結の当期純利益を使うのが一般的です。

③ 変更は登記される

発行済株式数の変更は登記事項です。増資や消却があれば法務局に登記され、適時開示としても公表されます。突然変わることはなく、必ず事前・事後に開示されます。

④ 上場株式数と一致しないことがある

未上場の種類株式などがある場合、発行済株式総数と取引所の上場株式数はずれます。時価総額の計算方法は取引所の定義に従ってください。

※ 本記事は用語の解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

発行済株式数に関するよくある質問

発行済株式数はどこで調べられますか?
決算短信のサマリー部分に「期末発行済株式数(自己株式を含む)」「期末自己株式数」「期中平均株式数」の3つがまとめて記載されています。有価証券報告書やEDINET、証券会社のツールでも確認できます。
自己株式は発行済株式数に含まれますか?
「発行済株式総数」には含まれます。ただし自己株式には議決権も配当を受ける権利もないため、1株当たりの指標を計算するときは自己株式を除いた数を使います。同じ会社に2つの数字が存在することになります。
EPSの計算にはどの株式数を使いますか?
期中平均株式数(自己株式を除く)です。利益は1年間かけて積み上がるため、期中に株数が変動した場合はその時期を加味した加重平均を使います。決算短信に記載されているので自分で計算する必要はありません。
株式分割すると1株当たりの価値は下がりますか?
1株当たりの価値は下がりますが、保有株数が同じ比率で増えるため、保有資産の価値は変わりません。理論上は株価も同じ比率で調整されます。最低投資金額が下がるため、買いやすくなるという効果があります。
自社株買いをすると発行済株式数は減りますか?
買い戻しただけでは減りません。「自己株式」として会社が保有する状態になります。消却の手続きを行って初めて発行済株式総数が減ります。ただし買い戻した時点で1株当たり指標の計算からは除かれます。
議決権の数と発行済株式数は同じですか?
違います。自己株式・単元未満株・議決権制限株式などには議決権がありません。株主総会での比率を考えるときは、発行済株式数ではなく議決権の数で計算する必要があります。
潜在株式調整後EPSとは何ですか?
新株予約権や転換社債がすべて株式に変わったと仮定して計算したEPSです。通常のEPSとの差が大きいほど、将来的な希薄化の可能性が大きいことを示します。決算短信でEPSの隣に記載されています。
発行済株式数が多い会社と少ない会社の違いは?
株数の多さ自体に良し悪しはありません。同じ時価総額でも、株数が多ければ株価は低く、少なければ株価は高くなります。重要なのは絶対数ではなく、株数が増え続けているか減っているかという推移です。

まとめ

発行済株式数は単なる分母ではありません。その推移は「会社が株主の持ち分をどう扱っているか」を最も端的に示す数字です。利益の推移と並べて見ることをおすすめします。

この記事のまとめ

・発行済株式総数は自己株式を含む数
・1株当たり指標では自己株式を除いた数を使う
・EPSは期中平均株式数、BPSは期末の株式数
・自己株式・単元未満株には議決権がない
・決算短信のサマリーに3つの数字がまとめて載っている
・自社株買いだけでは総数は減らない。消却して初めて減る
・潜在株式調整後EPSとの差が将来の希薄化リスクを示す

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