MRRとは、毎月くり返し発生する売上のことです。Monthly Recurring Revenue の略で、日本語では月次経常収益といいます。
読み方は「えむあーるあーる」。SaaSやサブスクリプション型の企業では、損益計算書の売上高よりもこちらが重視されます。
理由は単純で、MRRのほうが将来の売上を先に映すからです。
この記事でわかること
・🔴 MRRに含めてはいけない収入
・MRRを分解する5つの内訳
・ARRとの違いと使い分け
・解約率(チャーンレート)の2つの測り方
・🔴 NRRが100%を超えると何が起きるか
・Rule of 40 という成長と利益のバランス
・決算資料のどこを見ればよいか
MRRとは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Monthly Recurring Revenue(月次経常収益) |
| 読み方 | えむあーるあーる |
| 意味 | 毎月くり返し発生する売上 |
| 使う企業 | SaaS、サブスクリプション、月額課金サービス |
| 性質 | 業績の先行指標。売上高より先に動く |
| 位置づけ | 代表的なKPIのひとつ |
重要なのは「くり返し発生する」という条件です。
一度きりの収入は、どれだけ金額が大きくてもMRRには入りません。翌月も同じ金額が入ってくると見込めるものだけを数えます。
なぜ売上高ではなくMRRなのか
損益計算書の売上高は「過去3ヶ月に何を売ったか」の記録です。これに対してMRRは「今この瞬間の契約状態」を表します。
| 項目 | 売上高 | MRR |
|---|---|---|
| 表すもの | 過去の実績 | 現時点の契約の合計 |
| 一時収入 | 含む | 含まない |
| 解約の反映 | 遅れて出る | すぐ出る |
| 開示される場所 | 決算短信・有価証券報告書 | 主に決算説明資料 |
| 開示の義務 | ある | ない(会社の任意) |
解約がすぐ数字に出る、という点が最大の違いです。
大口顧客が解約しても、その四半期の売上高にはほとんど影響しません。ところがMRRは翌月から確実に減ります。だから投資家は、売上高が伸びていてもMRRの推移を確認します。
MRRに含めてよいもの・いけないもの
| 収入 | MRR | 理由 |
|---|---|---|
| 月額利用料 | 含める | 毎月くり返し発生する |
| 年間契約 | 含める | 12で割って月次に換算する |
| オプション機能の月額料金 | 含める | 継続的な課金だから |
| 初期導入費用 | 含めない | 一度きりだから |
| 個別のカスタマイズ開発 | 含めない | 継続しないから |
| コンサルティング料 | 含めない | スポットの役務だから |
| 無料トライアル中の顧客 | 含めない | まだ課金が発生していない |
初期導入費用を含めてしまうのが、最も多い誤りです。
導入時に数十万円の初期費用を取るサービスは珍しくありません。これを含めると、新規契約が多い月だけMRRが跳ね上がり、翌月に落ちます。継続性を測るという目的そのものが崩れます。
MRRの5つの内訳
MRRは総額だけを見ても意味がありません。中身を分解して初めて、何が起きているかが分かります。
Expansion(既存顧客の増額)
Reactivation(解約者の復帰)
Churn(解約)
= 増える要因 − 減る要因
| 名称 | 中身 | 読み取れること |
|---|---|---|
| New MRR | 新しく契約した顧客 | 営業とマーケティングの成果 |
| Expansion MRR | 既存顧客の増席・上位プランへの移行 | 製品が使われている証拠。最も価値が高い |
| Reactivation MRR | 一度解約した顧客の復帰 | 金額は小さいことが多い |
| Contraction MRR | 減席・下位プランへの移行 | 解約の前兆であることが多い |
| Churned MRR | 解約された分 | 製品または価格に問題がある |
投資家として最も注目すべきは Expansion MRR です。
新規獲得は広告費を積めばある程度は伸ばせます。ところが既存顧客が自ら支払いを増やすのは、製品が実際に役立っているときだけです。これは広告費では買えません。
MRRの計算方法
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首MRR | 1億円 |
| + New | +600万円 |
| + Expansion | +400万円 |
| − Contraction | −150万円 |
| − Churn | −250万円 |
| Net New MRR | +600万円 |
| 期末MRR | 1億600万円 |
同じ「600万円の増加」でも、中身がまるで違うことがあります。
Newが1,000万円でChurnが400万円という会社と、Newが600万円でChurnが0円という会社では、後者のほうが圧倒的に健全です。Net New MRRだけを見ていると、この違いを見逃します。
ARRとの違い
月額課金が中心のサービスに向く。変化が細かく見える
年間契約が中心の法人向けサービスに向く
| 項目 | MRR | ARR |
|---|---|---|
| 計算 | 月次の経常収益 | MRR × 12 |
| 向いている事業 | 月額課金・個人向け | 年間契約・法人向け |
| 変化の見え方 | 細かく見える | ならされて見える |
| 注意点 | 月ごとの振れが大きく見える | 実際の年間売上高とは違う |
ARRは「今の契約状態が1年続いたら」という仮定の数字です。
実際にその金額が売上高として計上されるわけではありません。ARRと年間売上高を同じものとして比べないでください。
チャーンレート(解約率)
MRRとセットで必ず確認する数字です。測り方が2つあり、意味が違います。
| 種類 | 数えるもの | 特徴 |
|---|---|---|
| カスタマーチャーン | 解約した顧客数 | 小口の解約が多いと高く出る |
| レベニューチャーン | 解約された金額 | 大口が抜けると跳ね上がる |
2つの数字が食い違っているときが、最も情報量の多い状態です。
| 顧客数ベース | 金額ベース | 起きていること |
|---|---|---|
| 高い | 低い | 小口が抜けている。大口は残っている |
| 低い | 高い | 大口が抜けた。最も危険な兆候 |
| 両方低い | 両方低い | 健全 |
会社が「解約率」とだけ書いている場合、どちらの定義かを確認してください。都合のよいほうを使っていることがあります。
NRR(売上維持率)の見方
SaaS企業の評価で、最も重視される指標のひとつです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Net Revenue Retention(売上維持率) |
| 計算 | (期首MRR + Expansion − Contraction − Churn)÷ 期首MRR |
| 対象 | 既存顧客だけ。新規契約は含めない |
| 100%超の意味 | 新規を1件も取らなくても売上が増える状態 |
| 目安 | 120%前後で優良と言われることが多い(絶対的基準ではない) |
NRRが100%を超えている会社は、放っておいても売上が伸びます。
解約で失う金額より、既存顧客の増額のほうが大きいからです。この状態にある会社は、新規獲得のコストをかけなくても成長できます。
逆にNRRが90%を割っていると、穴の空いたバケツに水を注いでいる状態です。新規獲得を止めた瞬間に売上が縮み始めます。
Rule of 40
成長と利益のバランスを測る、SaaS業界でよく使われる目安です。
| パターン | 成長率 | 利益率 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 成長重視 | 60% | −15% | 45(合格) |
| バランス型 | 25% | 20% | 45(合格) |
| 利益重視 | 10% | 32% | 42(合格) |
| 要注意 | 15% | −20% | −5(不合格) |
赤字であること自体は問題ではありません。
問題なのは「赤字なのに成長もしていない」状態です。赤字を出しているなら、そのぶん成長していなければ説明がつきません。
あくまで業界慣行の目安であり、これを満たせば良い企業だと保証するものではありません。利益率の定義(営業利益かフリーキャッシュフローか)も会社によって違います。
決算資料のどこを見るか
| 資料 | MRRの記載 |
|---|---|
| 決算説明資料 | ここが本命。KPIのページにまとまっている |
| 決算短信 | 定性情報に触れられることがある |
| 有価証券報告書 | 経営指標として記載されることがある |
| 中期経営計画 | 将来の目標値が示される |
MRRの開示に法的な義務はありません。
そのため定義も会社によって違います。他社と比較するときは、必ず注記で定義を確認してください。同じ「MRR」でも、初期費用を含めている会社とそうでない会社があります。
MRRの落とし穴
| 落とし穴 | 内容 |
|---|---|
| ① 定義が会社ごとに違う | 開示義務がないため、比較には注意が必要 |
| ② 定義が途中で変わる | 数字が良くなる方向に変更されることがある |
| ③ 開示をやめる | 最も強い危険信号のひとつ |
| ④ 総額しか出さない | 内訳(Churn・Expansion)を伏せている |
| ⑤ 利益とは無関係 | MRRが伸びても、獲得コストが上回れば赤字が続く |
③が起きたら、必ず理由を確認してください。
これまで毎四半期出していた指標が、突然資料から消えることがあります。数字が悪化したから見せなくなった、というケースが少なくありません。
投資家がMRRを追う手順
決算のたびに確認する順番
・② MRR(またはARR)の推移をグラフで確認する
・③ Net New MRR の内訳(New / Expansion / Churn)を見る
・④ 解約率が顧客数ベースか金額ベースかを確認する
・⑤ NRRが100%を超えているかを見る
・⑥ 定義が前回から変わっていないか注記を読む
・⑦ 成長率と利益率を足して40を超えるか確認する
・⑧ 前四半期まであった指標が消えていないかを確かめる
③と⑧が、他の投資家と差がつくところです。
総額の伸びだけを見ていると、解約が増えているのに新規で埋めている会社を見抜けません。指標の全体像はKPIとは、成長性の測り方は売上高成長率とはで扱っています。
MRRに関するよくある質問
まとめ
MRRは「総額ではなく内訳を見る指標」です。
この記事のまとめ
・🔴 一度きりの収入(初期費用・カスタマイズ)は含めない
・年間契約は12で割って月次に換算する
・売上高より解約がすぐ反映されるので先行指標になる
・内訳は New / Expansion / Reactivation / Contraction / Churn
・🔴 最も価値が高いのは Expansion MRR(広告費では買えない)
・Contraction は解約の前兆であることが多い
・ARR=MRR×12。実際の年間売上高とは別物
・解約率は顧客数ベースと金額ベースで意味が違う
・🔴 NRRが100%超なら、新規ゼロでも売上が増える
・Rule of 40 は成長率+利益率。赤字なら成長で説明がつくか
・MRRに開示義務はない。定義を必ず注記で確認する
・🔵 指標の開示をやめた会社は理由を確認する
※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく解説であり、特定の銘柄や投資判断を推奨するものではありません。記載した数値は仕組みを説明するための仮定値、および業界で一般に用いられる目安です。
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