疑義注記とは、企業が事業を続けられるかどうかに重要な疑いがあることを財務諸表に明記したものです。正式には継続企業の前提に関する注記といいます。

最初に誤解を解いておきます。疑義注記が付いても、それ自体で上場廃止にはなりません。上場廃止の基準は債務超過の継続や破産手続の開始などで、注記とは別の制度です。

とはいえ軽い話ではありません。2025年3月期に注記が付いた上場企業は、約2,300社のうち21社だけです。1%にも満たない、極めて限られた状態を意味します。

この記事でわかること

・疑義注記(GC注記)と「重要事象」の違い(3段階ある)
・上場廃止基準ではないという事実と、実際の廃止基準
・2025年に該当した企業の数
・注記が付く条件と、解消される条件
・注記に必ず書かれている「対応策」の読み方
・株価への影響と、投資家としての向き合い方

疑義注記とは?まず結論から

疑義注記(読み方:ぎぎちゅうき)

会計には継続企業の前提という考え方があります。英語では Going Concern といい、GCと略されます。会社が今後も事業を続けていくという前提のことです。

決算書は、この前提のうえで作られています。会社が来年も存在すると考えるからこそ、建物や機械を何年かに分けて費用計上する(減価償却する)といった処理ができます。

ところが業績の悪化や資金繰りの行き詰まりによって、その前提が揺らぐことがあります。そのとき「この会社が事業を続けられるか重要な疑いがある」と財務諸表に明記するのが疑義注記です。GC注記とも呼ばれます。

記載される場所

・有価証券報告書・四半期報告書の注記
・決算短信
いずれも「継続企業の前提に関する注記」という見出しで記載されます。

疑義注記と重要事象の違い【3段階】

ここが最も混同されるところです。継続企業に関する開示は、深刻度によって段階が分かれています。

段階 状態 開示
第1段階 疑いを生じさせる事象があるが、対応策で解消できる見込み 重要事象等として記載
第2段階 対応策を講じても、重要な不確実性が残る 疑義注記(GC注記)
第3段階 継続企業の前提が成立していない 前提を置かずに財務諸表を作成

違いは「対応策で解消できる見込みが立っているか」の一点です。解消できる見込みがあれば重要事象、それでも不確実性が残るなら疑義注記へ進みます。

投資家として押さえておきたいのは、重要事象の記載も十分に警戒すべきサインだということです。注記に至っていないだけで、疑いを生じさせる事象そのものは存在しています。

時期 疑義注記 重要事象 合計
2025年3月期本決算 21社 45社 66社
2025年9月中間決算 19社 41社 60社

※ 出典:東京商工リサーチの集計。2025年3月期は約2,300社を対象とした調査です。コロナ禍でピークだった2022年3月期の94社から減少しています。

上場廃止基準ではないという事実

ここを正確に理解しておくと、注記が付いた銘柄を冷静に見られます。

よくある勘違い
「疑義注記が付いた → もうすぐ上場廃止だ」
→ 注記そのものは上場廃止基準ではありません

上場廃止は、取引所が定める基準に該当したときに決まります。疑義注記は会計上の開示であって、廃止基準とは別の制度です。実際に、注記が付いた後に解消して上場を続けている企業もあります。

取引所の主な上場廃止基準は次のようなものです。

主な上場廃止の事由 内容
債務超過 一定期間内に解消されない場合
法的整理手続 破産・再生手続・更生手続の開始など
銀行取引の停止 手形交換所の取引停止処分など
事業活動の停止 事実上の事業停止状態
有価証券報告書の提出遅延・虚偽記載 重大な場合

※ 実際の基準は東京証券取引所の有価証券上場規程で定められています。市場区分によって内容が異なります。2026年8月時点。

ただし疑義注記が付く企業は、これらの基準に近い状態にあることも事実です。債務超過や資金繰りの悪化が注記の理由になっているケースは少なくありません。注記そのものではなく、その原因を見る必要があります。

注記が付く原因になる事象

どのような状態で注記が付くのか、代表的な事象を整理します。

① 財務の状況

継続的な営業損失、営業キャッシュフローのマイナスの継続、債務超過、重要な借入金の返済期限の到来。資金が尽きるかどうかが核心です。

② 資金調達の状況

借入金の返済条件(財務制限条項)に抵触している、新規の借入が困難、主要な取引銀行からの支援が不透明。

③ 事業運営上の問題

主要な取引先の喪失、重要な事業の許認可の取消し、大規模な訴訟の発生、ブランドの重大な毀損。

注記の本文には、これらの具体的な事情がそのまま書かれています。「継続的な営業損失を計上しており」「借入金の財務制限条項に抵触しており」といった記述から、何が問題なのかが直接読み取れます。

そのため疑義注記は、投資家にとってその企業のリスクが最も率直に書かれた文書でもあります。読む価値は高いといえます。

監査報告書の意見とセットで見る

疑義注記は財務諸表側の記載ですが、それに対応して監査報告書にも記載が入ります。両方をセットで見ると、深刻度がより正確に分かります。

監査意見 意味 深刻度
無限定適正意見 財務諸表は適正に作成されている 通常
無限定適正意見+継続企業の前提に関する重要な不確実性の記載 数字は適正だが、事業継続に不確実性がある 要警戒
限定付適正意見 一部に問題があるが、全体としては適正 重い
意見不表明 判断するための十分な証拠が得られなかった 極めて重い

疑義注記が付いている企業の多くは、2行目の状態です。数字そのものは信頼できるが、この会社が続くかどうかは分からないという意味になります。

一方、3行目や4行目まで進んでいる場合は事情が違います。意見不表明は、監査法人が財務諸表そのものを保証できないと表明した状態です。上場廃止基準に触れる可能性も高まります。

監査報告書は有価証券報告書の末尾に添付されています。疑義注記を見つけたら、監査意見の種類も必ず確認してください。注記の有無だけでは、この違いが分かりません。

注記に必ず書かれている「対応策」の読み方

疑義注記は、悪い状態を書くだけの記載ではありません。それをどう解消するつもりなのかという対応策も併記されます。

対応策の内容 実現性の見方
金融機関との交渉(返済猶予・借換え) 合意済みか、交渉中かで大きく違う
増資による資金調達 割当先が決まっているか。MSワラントなら希薄化に注意
不採算事業の撤退・資産売却 売却先が決まっているか、金額の目処があるか
コスト削減・人員削減 効果の金額と時期が具体的か
スポンサーの支援 契約締結済みなら実現性は高い

読み方の鍵は「すでに決まっていること」と「これから交渉すること」を区別することです。

実現性が高い書き方

「○○社との資本業務提携契約を締結し、○○億円の資金を調達済み」
「取引金融機関から返済条件の変更について同意を得ている」

実現性が読めない書き方

「金融機関と協議を継続してまいります」
「資金調達手段の検討を進めております」
確定していない対応策は、実現しない可能性があります。

注記に「重要な不確実性が認められる」と結ばれているのは、監査法人がこの対応策をもってしても不確実性が残ると判断したということです。この一文の意味は重いと理解してください。

注記はどうすれば解消されるのか

注記は永久に付くものではありません。原因となった事象が解消され、重要な不確実性がなくなったと判断されれば外れます。

1

注記が付く
決算発表と同時に判明する

株価は大きく下落することが多い局面です。信用取引の規制がかかることもあります。

2

対応策が実行される
増資・資産売却・支援の確定など

第三者割当増資やスポンサーの決定が適時開示されます。この開示は株価が反発する契機になります。

3

重要事象へ段階が下がる
注記は外れるが記載は残る

不確実性が解消されれば、注記から重要事象の記載へと軽くなります。

4

記載そのものが消える
業績が回復し、資金繰りも安定

完全な解消です。ここまで来る企業もありますが、時間がかかります。

注意点として、解消の過程では大規模な増資が伴うことが多くあります。倒産リスクは後退しても、既存株主の持分は大幅に薄まります。希薄化率を必ず確認してください。

注記が付く前に気づく方法

疑義注記は決算発表で突然判明するように見えますが、その前に兆候が出ています。決算書で追える項目があります。

見る場所 危険なサイン
営業損益 複数期にわたって営業赤字が続いている
営業キャッシュフロー 連続してマイナス(本業で現金が減っている)
自己資本比率 10%を下回り、さらに低下している
現金及び預金と有利子負債 短期借入金が手元現金を大きく上回る
資金調達の履歴 MSワラントや第三者割当を繰り返している

とくに2行目です。営業キャッシュフローが連続してマイナスの企業は、本業で現金が出ていっている状態です。これは会計上の利益より率直に資金繰りを表します。

最後の行も見逃せません。第三者割当増資やMSワラントを繰り返している企業は、通常の資金調達手段が使いにくい状況にあります。調達手段そのものが、その企業の状態を示す情報になります。

これらは有価証券報告書と決算短信で確認できます。保有している銘柄について、少なくとも自己資本比率と営業キャッシュフローの推移は追っておく価値があります。

株価への影響と、投資家としての向き合い方

局面 起きやすいこと
注記の判明直後 大幅安。機関投資家の売却も出る
その後しばらく 値動きが荒くなり、短期資金が入る
対応策の確定 急反発することがある(ただし希薄化を伴う)
解消できない場合 法的整理へ進み、上場廃止となることもある

2行目が実務上の注意点です。注記が付いた銘柄は値動きが激しくなるため、短期売買の対象として資金が入ってきます。その結果、業績とは無関係に急騰することもあります。

ただし前提として、その企業は事業を続けられるか監査法人が判断できない状態にあります。損切りの水準を決めずに参加するのは避けてください。最悪の場合、株式の価値がゼロになります。

また、注記が付いている銘柄は貸借銘柄から除外されたり、信用取引の規制が入ったりすることがあります。売買の条件そのものが変わる点も押さえておいてください。

疑義注記に関するよくある質問

疑義注記が付くと上場廃止になるのですか?
なりません。疑義注記は会計上の開示であり、上場廃止基準とは別の制度です。上場廃止は債務超過の継続、破産・再生手続の開始、銀行取引の停止などの基準に該当した場合に決まります。注記が解消して上場を続けている企業もあります。
疑義注記と重要事象はどう違うのですか?
深刻度の段階が違います。疑いを生じさせる事象があっても対応策で解消できる見込みがあれば「重要事象等」の記載にとどまり、対応策を講じても重要な不確実性が残る場合に疑義注記へ進みます。
どのくらいの企業に付いているのですか?
2025年3月期の本決算では、約2,300社のうち疑義注記が21社、重要事象が45社で合計66社でした(東京商工リサーチ調べ)。上場企業全体の数%にとどまる、限られた状態です。
注記はどこで確認できますか?
有価証券報告書や四半期報告書の注記、および決算短信に「継続企業の前提に関する注記」という見出しで記載されています。原因となった事象と、それに対する対応策の両方が書かれています。
注記が付いた銘柄は買ってはいけないのですか?
禁止されているわけではありませんが、リスクは極めて高くなります。監査法人が事業継続の不確実性を認めた状態であり、最悪の場合は株式の価値がゼロになります。参加するなら損切りの水準を先に決めておく必要があります。
注記はどうすれば解消されますか?
原因となった事象が解消され、重要な不確実性がなくなったと判断されれば外れます。増資や資産売却、金融機関の支援の確定などが契機になります。ただし解消の過程で大規模な増資が行われ、既存株主の持分が大幅に薄まることが多くあります。
対応策が書かれていれば安心してよいのですか?
記載の具体性で判断してください。「契約を締結済み」「同意を得ている」といった確定した内容と、「協議を継続する」「検討を進める」といった未確定の内容では意味が大きく違います。注記が付いている以上、監査法人はその対応策でも不確実性が残ると判断しています。
注記が付くと売買に制限がかかりますか?
かかることがあります。貸借銘柄から除外されたり、信用取引に規制が入ったりする場合があります。値動きも荒くなるため、売買の条件そのものが変わる点を確認してから取引してください。

まとめ

疑義注記は、事業継続に重要な疑いがあることを財務諸表に明記したものです。それ自体は上場廃止基準ではありませんが、原因と対応策の確定度を読む必要があります。

この記事のまとめ

・継続企業の前提に重要な疑いがあることを示す注記
・重要事象 → 疑義注記 → 前提が成立しない、の3段階
・注記そのものは上場廃止基準ではない
・2025年3月期は約2,300社のうち21社に付いた
・注記には対応策も書かれる。確定度で実現性を測る
・解消の過程では大規模な希薄化を伴うことが多い

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