発行価額とは、会社が新しく株式を発行するときに決める、1株あたりの価額のことです。投資家が払い込む金額の基準になります。

似た言葉が多く混乱しやすい用語です。発行価格、払込金額、行使価額、公募価格はそれぞれ別のものを指します。

この記事では、その整理に加えて「安く発行しすぎると株主総会の特別決議が必要になる」という有利発行の論点まで解説します。

この記事でわかること

・発行価額・発行価格・払込金額の使い分け
・新株予約権の行使価額との違い
・有利発行と判断されるディスカウント率の目安
・有利発行になると何が必要になるか
・発行価額のうち資本金になるのはいくらか

発行価額とは

発行価額(読み方:はっこうかがく)とは、新株を発行する際に、1株につきいくら払い込んでもらうかを定めた金額です。

現在の会社法での呼び方
会社法では「払込金額」という用語が使われています(会社法第199条)。
「発行価額」は旧商法の用語ですが、実務やニュースでは現在も広く使われています。
→ ほぼ同じ意味として読んで差し支えありません。

会社が新株を発行するとき、取締役会は「何株を、いくらで、誰に、いつまでに払い込んでもらうか」を決めます。この「いくらで」にあたるのが発行価額です。

発行価額と発行価格の違い

この2つは混同されがちですが、見ている立場が違います。

用語 意味 立場
発行価額
(払込金額)
会社が受け取る1株あたりの金額 発行する会社の側
発行価格 投資家が実際に支払う1株あたりの金額 買う投資家の側
引受価額 証券会社が発行会社へ払う1株あたりの金額 引受証券会社

なぜ違いが生まれるかというと、あいだに証券会社が入るからです。

投資家が2,000円で買う(発行価格=公募価格 2,000円
 ↓
証券会社は会社へ1,900円を渡す(引受価額 1,900円
 ↓
差額の100円が証券会社の引受手数料になる

この構造があるため、投資家が払う金額と、会社に入る金額は一致しません。

行使価額との違い

もうひとつ紛らわしいのが行使価額です。こちらは新株予約権に関する言葉です。

用語 いつ払うか 何に対する対価か
発行価額 株式を引き受けるとき 株式そのもの
行使価額 権利を行使するとき(後日) 権利を使って株式を取得するため
新株予約権の発行価額 権利を取得するとき 権利そのもの(無償のこともある)

ストックオプションで考えるとわかりやすくなります。権利をもらう段階(発行価額=多くは無償)と、実際に株を買う段階(行使価額)は別です。

発行価額が登場する場面

場面 発行価額の決まり方
公募増資 価格決定日の終値から3〜5%程度を割り引く
第三者割当増資 直前の株価を基準に決める。有利発行の判定が問題になる
株主割当増資 既存株主が対象のため、低めに設定されることもある
IPO ブックビルディングを経て公募価格が決まる
自己株式の処分 新株発行と同じ手続き。処分価額と呼ばれる

有利発行とは

ここがこの記事のいちばん重要な部分です。発行価額を安くしすぎると、法律上の特別な手続きが必要になります。

有利発行(会社法第199条第3項)

払込金額が「特に有利な金額」である場合、
取締役は株主総会でその理由を説明し、特別決議を得なければなりません。

なぜ規制されるのでしょうか。安く新株を発行すれば、既存株主の持分価値がその分だけ移転してしまうからです。

既存株主から見た不利益
株価1,000円の会社が、特定の相手にだけ500円で新株を発行したら
→ その相手はいきなり1株500円の含み益を得る
→ その利益は既存株主の持分から出ている

有利発行の判断基準

「特に有利」かどうかの明確な法律上の数値基準はありませんが、実務では日本証券業協会の指針が目安とされています。

ディスカウント率 実務上の扱い
10%以内 有利発行にあたらないと整理されるのが通例
10%を超える 有利発行の可能性が高まる。合理的な理由の説明が必要
大幅な割引 株主総会の特別決議を経るのが原則

※ 日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」では、払込金額を原則として直前日の価額に0.9を乗じた額以上とすることが示されています。個別の判断は事案によります。

第三者割当増資のニュースを見たら、発表前日の終値と払込金額を比べてみてください。割引率が10%を大きく超えているなら、既存株主にとって不利な条件である可能性があります。

有利発行になると何が必要か

区分 必要な手続き
通常の発行 取締役会決議のみ(公開会社の場合)
有利発行 株主総会の特別決議+取締役による理由の説明

特別決議は議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成が必要です。ハードルが高いため、多くの企業は有利発行に該当しない水準で発行価額を設定します。

手続きを欠いた発行は、株主から差止請求を受けたり、引受人が会社に対して差額の支払義務を負ったりすることがあります。

発行価額のうち資本金になる額

払い込まれた金額は、全額が資本金になるとは限りません。

資本金と資本準備金の分け方(会社法第445条)

原則 払込金額の全額が資本金
例外 2分の1を超えない額を資本金に組み入れず、資本準備金にできる

1株1,000円で100万株を発行(払込総額10億円)した場合
→ 資本金5億円、資本準備金5億円 という配分が可能

なぜ分けるのでしょうか。資本金の額によって、税制上の扱いが変わるからです。資本金1億円以下なら中小企業向けの軽減措置を受けられるなど、規模による区分が存在します。

資本金を減らす手続きについては減資とはで解説しています。

IPOにおける発行価額

新規上場では、投資家が払う金額と会社に入る金額の差がはっきり出ます。

名称 誰から誰へ
公募価格(発行価格) 投資家 → 証券会社
引受価額 証券会社 → 発行会社
差額 証券会社の引受手数料になる

この引受価額は、グリーンシューオプションの行使価格としても使われます。オーバーアロットメントで生じた株式を追加取得する際の価格は、公募価格ではなく引受価額です。

投資家が開示資料で見るべき点

① 払込金額と直前の株価の差
ディスカウント率が10%を大きく超えていないか
② 発行する株数と希薄化率
発行済株式数の何%にあたるか。25%以上なら影響は大きい
③ 割当先は誰か
事業上の提携先か、投資ファンドか、経営陣か
④ 資金の使い道
成長投資か、借入金の返済か
⑤ 株主総会の決議を経ているか
特別決議を取っているなら、有利発行にあたる水準ということ

⑤は見落とされがちですが、わざわざ株主総会を開いているという事実そのものが、条件の性質を語っています。

※ 本記事は制度の解説であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

発行価額に関するよくある質問

発行価額と発行価格はどう使い分けますか?
発行価額は会社が受け取る1株あたりの金額、発行価格は投資家が実際に支払う金額です。あいだに引受証券会社が入るため、両者は一致しません。会社法上の正式な用語は「払込金額」で、発行価額は旧商法の用語ですが実務では今も使われています。
有利発行とは何ですか?
払込金額が「特に有利な金額」である新株発行のことです。既存株主の持分価値が引受人へ移転してしまうため、会社法により株主総会の特別決議と取締役による理由の説明が必要とされています。
ディスカウント何%から有利発行になりますか?
法律上の明確な数値基準はありません。ただし日本証券業協会の指針では、払込金額を原則として直前日の価額に0.9を乗じた額以上とすることが示されており、実務上は10%以内であれば有利発行にあたらないと整理されるのが通例です。それを超える場合は合理的な理由の説明が求められます。
行使価額と発行価額は何が違いますか?
支払うタイミングと対象が違います。発行価額は株式そのものを引き受けるときに払う金額です。行使価額は、新株予約権という「株式を買う権利」を後日行使して株式を取得するときに払う金額です。ストックオプションでは、権利をもらう段階と株を買う段階が分かれています。
払い込まれたお金は全額が資本金になりますか?
なりません。会社法では原則として全額が資本金となりますが、2分の1を超えない額を資本金に組み入れず資本準備金とすることができます。資本金の額によって税制上の扱いが変わるため、意図的に配分を調整する企業もあります。
発行価額が低いと株価は下がりますか?
下がりやすくなります。安い価格で新株が発行されると、既存株主の持分価値が薄まるうえ、市場では「その価格が適正水準だ」と受け止められることがあります。ディスカウント率と希薄化率の両方を確認してください。
自己株式を処分する場合も同じ扱いですか?
同じです。自己株式の処分は新株発行と同一の手続きによることとされており、処分価額が特に有利な金額であれば有利発行の規制がかかります。市場に出回る株数が増えるという点でも、実質は増資と変わりません。
株主割当増資でも有利発行になりますか?
株主割当は既存株主全員が持株数に応じて引き受けるため、持分割合が変わりません。そのため低い価額で発行しても有利発行の問題は生じにくいと整理されています。ただし引き受けなかった株主の持分は薄まります。

まとめ

発行価額は「会社にいくら入るか」を示す数字です。投資家が払う金額とは一致せず、安すぎれば法律上の手続きが必要になります。

この記事のまとめ

・発行価額=会社が受け取る1株あたりの金額。会社法上は「払込金額」
・発行価格=投資家が払う金額。差額は証券会社の引受手数料
・行使価額は新株予約権を行使して株式を取得するときの金額
・払込金額が特に有利な金額なら、株主総会の特別決議が必要
・実務上はディスカウント10%以内が目安とされる
・払込金額の2分の1を超えない額を資本準備金にできる
・自己株式の処分にも同じ規制がかかる
・開示ではディスカウント率と希薄化率の両方を見る

あわせて読みたい:増資とは第三者割当増資とは公募価格とは新株予約権とは発行済株式数とは

スポンサーリンク

Xでフォローしよう

おすすめの記事