特定口座とは、証券会社が1年間の売買損益を計算し、年間取引報告書を作成してくれる口座のことです。
さらに「源泉徴収あり」を選べば、税金の納付まで証券会社が代行してくれるため、原則として確定申告が不要になります。日本の個人投資家のほとんどが使っている、事実上の標準の口座です。
ただし、特定口座(源泉徴収あり)にしておけば全部おまかせ、というわけではありません。設定を一つ間違えると、配当と売却損が通算されずに税金を払い過ぎることがあります。この記事では、そこまで踏み込んで解説します。
この記事でわかること
・売るたびに税金が引かれ、損が出ると戻ってくる仕組み
・配当と売却損を自動で通算するために必要な設定
・年間取引報告書のどこを見ればいいか
・源泉徴収ありでも確定申告したほうがいい場面
※ 一般口座を含む4つの口座区分の横並び比較は証券口座の種類、一般口座そのものの解説は一般口座とはをご覧ください。この記事は特定口座の中身に絞ります。
目次
特定口座とは
特定口座は、投資家の申告負担を軽くするために2003年から始まった制度です。
株式の売却益には20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の税金がかかります。この計算に必要な取得価額の管理を証券会社が行い、「特定口座年間取引報告書」という1枚の書類にまとめてくれるのが特定口座の本質です。
特定口座は、さらに2つに分かれます。
自動で差し引かれる
報告書だけ作られる
どちらも損益計算はしてもらえる。違いは「納税まで代行するか」
源泉徴収ありとなしの比較
| 項目 | 源泉徴収あり | 源泉徴収なし |
|---|---|---|
| 確定申告 | 原則不要 | 原則必要 |
| 税金が引かれるタイミング | 売却のたび | 申告後にまとめて |
| 資金効率 | やや悪い | 良い |
| 扶養・社会保険料への影響 | 申告しなければ出ない | 出る |
| 配当との自動通算 | できる(設定が必要) | 申告で行う |
源泉徴収ありの唯一の弱点は資金効率です。利益が出るたびに税金が引かれるので、その分を再投資に回せません。一方で、確定申告の手間と扶養判定への影響を考えると、多くの人にとっては「あり」のほうが実質的なメリットが大きくなります。
売るたびに引かれ、損が出ると戻ってくる
ここは知られていないわりに、実務でとても重要な仕組みです。
源泉徴収ありの特定口座では、口座内の損益がその都度、年初からの累計で再計算されます。その結果、後から損失が出ると、すでに納めた税金が口座に戻ってきます。
| 時期 | その取引の損益 | 年初からの累計 | 口座内の税金 |
|---|---|---|---|
| 3月に売却 | +50万円 | +50万円 | 約101,575円を徴収 |
| 9月に売却 | -30万円 | +20万円 | 約60,945円が還付 |
| 年末時点 | — | +20万円 | 約40,630円で確定 |
※ 税率20.315%で計算した簡易な例です。手数料等は考慮していません。
確定申告をしなくても、同じ口座の中でなら損益通算は自動で行われます。「損切りしたら税金が戻ってきた」という現象は、これが理由です。
配当を通算するには設定が要る
ここがいちばん取りこぼしが多いポイントです。
売却損と配当金を自動で通算するには、2つの条件を両方満たす必要があります。
配当金の受け取り方には、証券口座で受け取る方式のほか、銀行振込や郵便局で現金受取といった方式があります。株式数比例配分方式以外を選んでいると、配当は特定口座に入らず、売却損と通算されません。
証券会社の設定画面で、配当金を特定口座(源泉徴収あり)に受け入れるかどうかを選べます。ここがオフだと、条件①を満たしていても通算されません。
設定あり:配当10万円と損失が相殺され、配当の源泉税が還付される
設定なし:配当10万円に約20,315円が課税されたまま
口座を作ったときの初期設定のままになっていないか、一度確認してください。設定変更は数分で終わります。
なお、NISA口座で配当を非課税にする場合も株式数比例配分方式が必要です。詳しくはNISAとはで解説しています。
年間取引報告書の見方
毎年1月ごろ、証券会社から「特定口座年間取引報告書」が交付されます。電子交付を選んでいる場合はサイト内でPDFとして取得します。
| 欄 | 意味 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 譲渡の対価の額 | 1年間に売却した金額の合計 | 利益ではないので驚かないこと |
| 取得費及び 譲渡に要した費用の額 |
買った金額と手数料の合計 | 手数料が含まれているか |
| 差引金額 (譲渡所得等の金額) |
この口座の1年間の損益 | ここがマイナスなら申告を検討する |
| 源泉徴収税額 | 実際に納めた所得税・住民税 | 還付分が反映された後の金額 |
| 配当等の額 | 口座で受け入れた配当 | 0円なら受入設定を確認する |
特に見てほしいのは「差引金額」と「配当等の額」の2つです。差引金額がマイナスなら繰越控除のために申告する価値があり、配当等の額が0円なら前章の設定が漏れています。
源泉徴収ありでも確定申告したほうがいい場面
| 場面 | 申告で得られるもの |
|---|---|
| 年間の損益がマイナスだった | 損失を翌年以降3年間繰り越せる(繰越控除) |
| 複数の証券会社を使っている | A社の利益とB社の損失を通算できる。片方だけ源泉徴収されている分が戻る |
| 課税所得が低い | 配当を総合課税で申告すると配当控除が使え、税率が下がる場合がある |
| 過去の繰越損失がある | 今年の利益と相殺して、源泉徴収された税金の還付を受けられる |
源泉徴収ありのまま申告しなければ、その利益は合計所得金額に含まれません。しかし申告すると含まれるため、配偶者控除の判定、扶養、国民健康保険料、住民税の非課税判定などに影響することがあります。還付される税額と、増える負担を比べて判断してください。
令和5年分から住民税の扱いが変わった
以前は、所得税では申告し、住民税では申告不要とする「異なる課税方式の選択」ができました。これを使えば、配当控除を受けながら国民健康保険料への影響を避けることが可能でした。
この方法は令和5年分(令和6年度課税)から使えなくなりました。所得税で選んだ課税方式が、そのまま住民税にも適用されます。
※ 出典:令和4年度税制改正による地方税法の改正。令和5年分の所得税確定申告(令和6年度分の個人住民税)から適用
古い解説記事にはまだ改正前の説明が残っていることがあります。「住民税は申告不要にすればいい」という情報を見かけたら、それは現在使えません。
源泉徴収ありとなしは途中で変えられるか
変更できます。ただしタイミングに制限があります。
その年に一度も売却しておらず、配当も受け入れていなければ変更できます。年末に翌年分を切り替えておくのが確実です。
一度でも譲渡したり配当を受け入れたりすると、その年は変更できません。翌年からの適用になります。
細かい取扱いは証券会社によって異なる場合があるため、変更前に自分の証券会社の案内を確認してください。
複数の証券会社で特定口座を持つとき
特定口座は1つの金融機関につき1口座ですが、複数の証券会社でそれぞれ持つことはできます。
A社で50万円の利益、B社で50万円の損失が出た場合、A社では源泉徴収され、B社では何も起きません。通算するには確定申告が必要です。両社の年間取引報告書を用意して申告すれば、A社で引かれた税金が還付されます。
複数口座を使う場合は、年末に各社の損益をまとめて確認する習慣をつけておくと取りこぼしがありません。証券会社を1社に集約したい場合は株式の移管という手段もあります。
特定口座で管理できないもの
特定口座は万能ではありません。次のものは特定口座に入れられず、一般口座で管理することになります。
| 対象 | 特定口座 | 理由・補足 |
|---|---|---|
| 上場株式・ETF・投資信託 | 入る | 通常の売買はすべてここ |
| 未公開株・非上場株式 | 入らない | 上場していないため対象外 |
| 昔の株券(タンス株) | 原則入らない | 特別口座から移すと一般口座扱いになるのが通常 |
| ストックオプションで取得した株 | 入らないことが多い | 取得の経緯によって扱いが変わる |
| FX・暗号資産 | 入らない | 課税の仕組みそのものが別。株式との損益通算もできない |
開設時に確認しておきたい初期設定
口座を作った直後に3分だけ時間を取って、次の3点を確認しておくと、あとから「払わなくてよかった税金」に気づく事故を防げます。
申込画面の初期値が一般口座になっている証券会社もあります。開設完了メールや口座情報の画面で実際の区分を確認してください。
この設定はすべての証券会社で共通に適用されます。1社で変更すると他社にも反映される仕組みなので、どこか1つで正しく設定すれば済みます。
こちらは証券会社ごとの設定です。オンにしておくことで、売却損と配当が自動的に通算されます。
※ 本記事は制度の一般的な解説です。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。
特定口座に関するよくある質問
まとめ
特定口座(源泉徴収あり)は、確かに手間の少ない選択です。ただし「配当を受け入れる設定」だけは自分でやらないと、払わなくていい税金を払い続けることになります。
この記事のまとめ
・源泉徴収ありなら確定申告は原則不要
・年内に損失が出れば、徴収済みの税金が口座内で自動還付される
・配当と損失の通算には株式数比例配分方式+受入設定が必要
・年間取引報告書は「差引金額」と「配当等の額」を見る
・損失年・複数口座・繰越損失があるなら申告したほうが得
・令和5年分から所得税と住民税で違う方式は選べない











