信用評価損益率とは?マイナス20%で底という説を18局面で検証

信用評価損益率とは、信用取引で買っている投資家全体が、いまどれくらいの含み損益を抱えているかを示す指標です。

読み方は「しんようひょうかそんえきりつ」です。ほとんどの期間でマイナスの値を示し、マイナス20%前後まで悪化すると相場の底が近いとされてきました。

ただし、この経験則をそのまま信じると危険な場面があります。日経平均株価が直近1年の高値から20%下落した18局面を調べたところ、1年後にプラスだったのは11回で、7回は1年たっても含み損のままでした。そのうち1回はさらに51.8%下落しています。

この記事でわかること

・信用評価損益率の計算式と、なぜ常にマイナスなのか
・水準ごとの目安(マイナス3%・10%・15%・20%)
実測:株価が2割下げた18局面のその後(1年後にプラスは11回)
・マイナス20%が底とされる仕組みを追証から説明
・どこで確認できるか(東証・松井証券の日次データ)
・この指標で分からないこと

信用評価損益率とは

項目 内容
読み方 しんようひょうかそんえきりつ
示すもの 信用買いをしている投資家全体の含み損益の割合
対象 信用取引の買い建玉のみ(現物株は含まない)
通常の水準 マイナス3%〜マイナス10%程度
分類 需給を測る指標(逆張りの判断材料として使われる)
公表の頻度 週次が基本。松井証券は店内分を日次で配信

この指標が見ているのは、株価そのものではなく投資家が置かれている状態です。相場が下がっているという事実ではなく、下がったことで投資家がどれだけ追い詰められているかを測っています。

計算式と、数字がマイナスから始まる理由

計算式はシンプルです。

信用評価損益率 = 信用買い建玉の評価損益 ÷ 信用買い建玉の残高 × 100

ここで多くの人が疑問に思うのが、この数字がほぼ常にマイナスであるという点です。相場が上昇していてもプラスにならないことがあります。理由は3つあります。

① 利益は早く確定される
含み益が出た建玉は決済されて集計から消える。残るのは含み損の建玉
② 損失は先延ばしされる
含み損の建玉は「戻るまで待とう」と持ち越されやすく、集計に残り続ける。
③ 高値づかみが混ざる
信用買いは上昇局面で増えるため、直近高値付近で建てた玉が多くなりやすい。

この3つが重なるため、0%に近づくことすら珍しい状態になります。プラス圏に浮上するのは、相場が大きく上昇したごく短い期間に限られます。

水準ごとの目安

数字がマイナスから始まる以上、「マイナスだから悪い」という読み方はできません。絶対値ではなく、いつもと比べてどの水準にあるかで判断します。

水準 相場の状態 一般的な読み方
0%前後〜プラス 強い上昇局面 利益確定売りが出やすい。天井が近い可能性
マイナス3%〜10% 平常時 通常の範囲。特段の判断材料にならない
マイナス10%〜15% 調整局面 警戒領域。投げ売りが出はじめる水準
マイナス15%〜20% 下落が深い 追証が広く発生する水準。底が近いとされる
マイナス20%超 暴落・パニック 歴史的な急落局面でのみ見られる

※ 水準の目安は市場参加者の経験則であり、公式に定められた基準ではありません

マイナス20%が底とされる仕組み

この経験則には根拠があります。信用取引の追証の仕組みと結びついているためです。

項目 水準
委託保証金率 30%以上(法令上の下限)
最低委託保証金 30万円
委託保証金維持率 20%程度を下回ると追証(証券会社により異なる)

委託保証金率30%で信用取引を始めた場合、レバレッジはおよそ3.3倍になります。このとき株価が20%下落すると自己資金の約67%が失われ、維持率は追証の水準に近づきます。

つまり信用評価損益率がマイナス20%に近づくということは、市場全体で追証が同時多発している状態を意味します。追証は期限までに入金するか、建玉を決済して解消しなければなりません。この決済が投げ売りとなって最後の下げを作り、売るべき人が売り終わったところで下げ止まる、というのが経験則の中身です。

底ができるまでの流れ

① 株価が下落し、信用買いの含み損が拡大する
② 維持率が基準を割り、追証が発生する
③ 入金できない投資家の建玉が強制的に決済される
④ その売りが下げを加速させ、さらに追証を呼ぶ
売らざるを得ない人が売り切ると、売り圧力が消える

注意したいのは、追証は一度発生すると株価が戻っても取り消されない点です。翌日に株価が急反発しても、追証そのものは解消されません。この「戻っても消えない」性質があるため、投げ売りは相場が反転したあとも数日続くことがあります。

【実測】株価が2割下げた18局面のその後

「マイナス20%で底」という経験則が、実際にどこまで当てになるのかを確認します。信用評価損益率そのものの長期データは一般に入手しづらいため、株価が直近1年の高値から20%下落した局面を代わりに使いました。信用評価損益率が20%近くまで悪化するのは、おおむねこうした場面になります。

検証の条件

・対象:日経平均株価の日足(1985年1月〜2026年8月28日)
・直近1年の高値から終値ベースで20%下落した日を「局面の始まり」とする
・高値から10%以内まで戻した時点で局面終了とし、次の局面を数える
・該当したのは18局面
信用評価損益率そのものではなく、株価による代理的な検証
その後 勝率 平均リターン
20営業日後(約1か月) 66.7% +3.8%
60営業日後(約3か月) 61.1% +5.7%
120営業日後(約6か月) 66.7% +8.7%
250営業日後(約1年) 61.1% +10.5%

※ Pacific Stockが日経平均株価の日足から独自に集計(2026年8月28日時点)

平均で見れば、2割下げた局面から買うと1年後には10.5%上昇していました。経験則にはたしかに根拠がありそうに見えます。

【実測】ただし4割弱は1年後も含み損だった

平均値だけを見ると判断を誤ります。18局面を1つずつ並べると、結果が大きく割れていることが分かります。

局面の始まり そこからさらに下げた幅 1年後
1990年3月20日 −35.8% −15.3%
1991年12月11日 −34.0% −19.7%
1997年1月9日 −19.8% −16.3%
1997年10月9日 −26.4% −25.2%
2000年5月22日 −30.2% −16.0%
2008年1月7日 −51.8% −41.8%
2018年12月25日 −1.1% +25.4%
2020年3月12日 −11.9% +56.2%
2024年8月5日 −2.1% +35.6%
2025年4月4日 −8.8% +71.3%

※ 18局面のうち特徴的な10局面を抜粋。「さらに下げた幅」は局面開始から1年以内の安値までの下落率

18局面からわかること

・1年後にプラスだったのは11回(61.1%)、マイナスは7回(38.9%)
2008年1月の局面では、そこからさらに51.8%下落した
・1990年代の局面は、ほとんどが1年後もマイナス
・2018年以降の局面は、いずれも1年後に大きくプラス
・つまり底のサインではあっても、底そのものではない

最も注意すべきなのは2008年1月の局面です。すでに2割下げていたにもかかわらず、そこからさらに51.8%下落しました。「2割下げたから底が近い」と判断して信用取引で買い向かっていれば、レバレッジぶんの損失が生じていた計算になります。

この指標が示しているのは「売り圧力がたまっている」ということであって、「もう下がらない」ということではありません。底の目安として使うなら、一度に買わずに分けて買う、レバレッジをかけないといった前提が必要になります。

どこで確認できるか

提供元 頻度 特徴
東京証券取引所 週次 信用取引残高を公表。これをもとに各社が算出する
松井証券 日次 店内の建玉をもとに毎営業日公表。グロース銘柄の数値も配信
各証券会社・情報サイト 週次 二市場(東証・名証)ベースの数値が中心

実務上よく使われているのが松井証券の日次データです。週次のデータでは、暴落が起きてから数値が出るまでに時間差が生まれます。相場が急変している局面では、日次で追えることの価値が大きくなります。

ただし松井証券の数値は同社の顧客の建玉をもとにしたものです。市場全体とは母集団が異なる点は理解しておく必要があります。

この指標で分からないこと

信用評価損益率には構造的な死角があります。ここを知らずに使うと読み違えます。

分からないこと 理由
現物投資家の状況 集計対象は信用買いの建玉のみ。現物株の含み損は反映されない
空売り側の損益 買い建玉だけを見ているため、売り方の状況は分からない
個別銘柄の事情 市場全体の平均値。特定銘柄の需給は別に確認が必要
これから発生する追証 数値は過去の一時点。翌日の下落による追証は含まれない

特に1つ目が重要です。信用取引は市場全体の売買代金の一部にすぎません。信用買いの投資家が投げ売りを終えても、現物で持っている投資家や海外投資家の売りが続けば、相場は下げ止まりません。

信用買い残・売り残と合わせて見る

信用評価損益率だけでは判断材料が足りません。同じ週次データに含まれる買い残・売り残と組み合わせると、状況が立体的に見えてきます。

評価損益率 買い残 読み方
大きく悪化 減っている 投げ売りが進行中。需給の整理が進んでいる
大きく悪化 減っていない 含み損を抱えたまま。戻り売り圧力が残る
0%に接近 増えている 強気が広がっている。過熱の可能性

2行目の状態は「戻り売り」を生みます。含み損を抱えた建玉が残ったまま株価が戻ると、買値に近づいたところで一斉に売りが出ます。これが上値を重くする要因になります。

需給を測る指標としては、他に貸借倍率逆日歩もあります。買い残が積み上がった銘柄には増担保規制がかかることもあり、規制が入ると信用買いの新規参入が抑えられます。

信用評価損益率に関するよくある質問

なぜプラスにならないのですか
含み益の出た建玉は決済されて集計から外れ、含み損の建玉が残り続けるためです。加えて、信用買いは上昇局面で増えるため高値づかみが混ざりやすくなっています。この3つが重なり、通常はマイナス3〜10%の範囲で推移します。プラスになるのは相場が大きく上昇した短期間に限られます。
マイナス20%で買えば儲かりますか
実測では、株価が2割下げた18局面のうち1年後にプラスだったのは11回(61.1%)でした。残りの7回は1年たっても含み損で、2008年1月の局面ではそこからさらに51.8%下落しています。底のサインではあっても、底そのものを示すものではありません。買うとしても分割し、レバレッジをかけないことが前提になります。
松井証券の数値と東証の数値が違うのはなぜですか
集計している母集団が違うためです。松井証券は自社の顧客の建玉を集計しており、東証のデータは市場全体の信用取引残高をもとにしています。松井証券の数値は日次で早く出る一方、市場全体を表しているわけではありません。速報性と代表性のどちらを取るかという違いになります。
個別銘柄の信用評価損益率は分かりますか
市場全体の数値として公表されるのが一般的で、個別銘柄の評価損益率は通常公表されていません。個別銘柄については、信用買い残・売り残や貸借倍率から需給を推測することになります。
追証はどのくらいの下落で発生しますか
委託保証金率30%(レバレッジ約3.3倍)で建てた場合、株価が20%前後下落すると維持率が20%の水準に近づきます。ただし証券会社によって維持率の基準や計算方法が異なるため、実際の水準は取引している証券会社の規定を確認する必要があります。追証は一度発生すると株価が戻っても取り消されません。
この指標は空売りにも使えますか
集計対象が買い建玉のみのため、空売り側の含み損益は分かりません。ただし0%に近づく局面は信用買いの投資家に含み益が出ている状態であり、利益確定売りが出やすい水準とされています。売り方が判断材料にするとすれば、この過熱感の側面になります。
週次データはいつ発表されますか
東証の信用取引残高は、原則として毎週の第2営業日に前週末時点の数値が公表されます。つまり数字が出るころには数営業日が経過していることになります。急落局面では情報が追いつかないため、日次で確認できる手段を併用する意味があります。
信用取引をしていなくても見る意味はありますか
あります。信用買いの投げ売りは現物株の価格にも影響するためです。含み損を抱えた建玉が減らないまま株価が戻ると、買値付近で戻り売りが出て上値が重くなります。現物だけで投資している場合でも、上値の重さの理由を説明する材料になります。

まとめ

この記事のポイント

・信用評価損益率は、信用買いをしている投資家全体の含み損益を示す指標
・利益は早く確定され損失は残るため、通常はマイナス3〜10%で推移する
・マイナス20%前後は追証が広く発生する水準で、底が近いとされてきた
実測では2割下げた18局面のうち1年後にプラスは11回(61.1%)
2008年1月の局面ではさらに51.8%下落した
・示しているのは「売り圧力がたまっている」ことであり、「もう下がらない」ことではない
・現物投資家の状況は含まれない点に注意が必要

この指標の価値は、株価という結果ではなく投資家がどれだけ追い詰められているかという原因の側を見られる点にあります。売らざるを得ない人がどれだけいるかが分かれば、これから出てくる売りの量を見積もれます。

一方で、実測が示していたのは「2割下げたあとにさらに5割下げることがある」という事実でした。目安として使いながらも、それ単独で底を判断しないという距離の取り方が現実的だといえます。

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