株式移管とは、いま持っている株式を別の証券会社(または別の口座区分)へ預け替えることです。

手続き自体は書類を1枚出すだけで終わります。ところがやり方をひとつ間違えると、売るときの税金が3倍近くに膨らむことがあります。

原因は「取得価額(取得単価)が引き継がれない」という一点です。この記事は、そこだけを徹底的に解説します。

手数料・日数・手続きの手順を知りたい方へ

移管にかかる手数料と日数、書類の書き方や手続きの流れ株式の移管とは?手数料と日数、失敗しない手順にまとめてあります。

この記事は「税金と口座区分」だけに絞った内容です。

この記事でわかること

・取得価額が引き継がれないと税金がいくら増えるのか
・口座区分の組み合わせ別「引き継げる・引き継げない」一覧
・特定口座から特定口座へ正しく移す方法
・NISA口座の株が移管できない理由と、払い出しの落とし穴
・相続・贈与で移管したときの取得価額と取得日
・従業員持株会から引き出すときの注意点
・移管できないもの、移管中に売れない期間のリスク
・移管するか、売って買い直すかの判断基準

結論:株式移管で本当に怖いのは取得価額

先に結論を書きます。移管で気にすべきことは、手数料でも日数でもありません。

気にしがちなこと 実際の影響
出庫手数料 かかっても数千円。無料の証券会社も多い
かかる日数 おおむね1〜2週間。その間は売れない
取得価額の引き継ぎ 失敗すると税金が数万〜数十万円増える

手数料と日数は「一度きり・上限がある」損失です。これに対して取得価額の引き継ぎ失敗は、その株を売るまでずっと残り、値上がりするほど損失が拡大します。

実際にどれくらい違うのかを、次の章で数字にします。

取得価額が消えると税金はいくら増えるのか

上場株式等の売却益には20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)がかかります。

この「売却益」は、売った金額 − 買った金額(取得価額)で計算されます。つまり買った金額が分からなくなると、税金の計算が根本から変わります。

100万円で買った株を150万円で売った場合(手数料等は考慮しない試算)
項目 取得価額が引き継げた場合 取得価額が不明になった場合
売却代金 150万円 150万円
取得費 100万円 7万5,000円(150万円の5%)
課税される利益 50万円 142万5,000円
税額(20.315%) 約10万1,000円 約28万9,000円
差額 約18万8,000円 多く払う

取得価額が分からないとき、売却代金の5%を取得費とみなして計算する方法が認められています。これを概算取得費といいます(租税特別措置法関係通達 37の10・37の11共-13)。

本来は「昔の株で買値がどうしても分からない人」を救済するための制度です。ところが移管の手続きを間違えると、買値が分かっているのに、この不利な計算を強いられることがあります。

しかも値上がりしているほど差が開きます。10倍になった株なら、差額は数百万円規模になります。

移管・出庫・入庫の意味

用語を先に整理しておきます。

① 出庫
もとの証券会社から株を取り出すこと。手数料はここでかかる
② 移管中
どちらの口座にも無い状態。売買できない
③ 入庫
移管先が受け入れること。ここで取得価額の引き継ぎが決まる

手続きを申し込むのは移管元(いま株を持っている証券会社)です。移管先ではありません。ここを勘違いすると1往復ぶん時間を無駄にします。

重要なのは③の入庫です。ここで「取得価額の情報が一緒に届いているか」が決まります。届いていなければ、移管先は買値を知らないまま株だけを預かることになります。

口座区分の組み合わせで結果が変わる

証券口座には特定口座一般口座NISA口座の3種類があります。

どこからどこへ移すかで、取得価額が引き継がれるかどうかが変わります。

移管元 移管先 可否と取得価額の扱い
特定口座 特定口座 ✅ できる。専用の依頼書を使えば取得価額を引き継げる
特定口座 一般口座 △ できるが自分で取得価額を管理することになる
一般口座 一般口座 ✅ できる。取得価額の管理は引き続き自分
一般口座 特定口座 🔴 原則できない(相続など限られた場合のみ)
NISA口座 他社のNISA口座 🔴 できない
NISA口座 同じ会社の課税口座 △ できるが取得価額が払出時の時価になる
課税口座 NISA口座 🔴 できない(NISAは新規買付のみ)

押さえるべき方向は1つです。特定口座から一般口座へは行けますが、一般口座から特定口座へは戻れません。

これは一方通行だと覚えてください。うっかり一般口座で受け取ってしまうと、あとから特定口座へ入れ直すことは原則としてできません。

特定口座から特定口座へ正しく移す方法

1番多いケースがこれです。専用の書類を使うことが条件になります。

手順 やること
① 先に開設 移管先で特定口座を開いておく(口座番号が必要)
② 書類を請求 移管元へ「特定口座内保管上場株式等移管依頼書」を請求する
③ 記入して提出 移管先の口座番号・部店コード・銘柄・株数を記入して移管元へ出す
④ 確認 入庫後、移管先の残高画面で取得単価が正しいか必ず見る

この書類を使うと、取得価額と取得日の情報が証券会社の間で受け渡されます。一般の「振替依頼書」で出すと株だけが動き、取得価額が付いてこないことがあります。

入庫後に必ず確認すること

・株数が合っているか
取得単価が移管前と同じ金額か
・口座区分が「特定」になっているか
・取得日(買った日)が引き継がれているか

🔴 おかしければ、すぐ両方の証券会社へ連絡してください。売ってしまうと修正が難しくなります。

取得価額が引き継がれない4つの場面

実際に事故が起きるのは、次のパターンです。

① 一般口座で受け取った
移管先の口座区分を間違えた。特定口座へは戻せない
② 専用の依頼書を使わなかった
株だけ動いて取得価額の情報が付いてこない
③ NISAから課税口座へ払い出した
買値ではなく、払い出した日の時価が取得価額になる
④ 昔の紙の株券を預けた
買った記録が残っておらず、証明できない

①②は手続きのミスなので、事前に防げます。③は制度上そうなるので、知らずにやると必ず起きます。次の章で詳しく説明します。

④のように古い株の取得費が分からないときは、当時の取引報告書や預金通帳の出金記録、株主名簿への記載時期などが手がかりになります。それでも分からない場合に、はじめて概算取得費(5%)を使うことになります。

NISA口座の株は移管できない

NISA口座で買った株は、他の金融機関のNISA口座へ移すことができません。これは制度としてそう決まっています。

やりたいこと できるか
NISAを使う金融機関を変える ✅ できる(年単位・所定の手続きが必要)
すでに買った商品を新しい会社へ移す 🔴 できない
古い会社に置いたままにする ✅ できる。非課税のまま持ち続けられる
売って新しい会社で買い直す ✅ できる。ただし新しい年の枠を使う

金融機関を変えても、すでに買った商品は元の会社に残ります。非課税のまま持ち続けられるので慌てる必要はありませんが、口座が2社に分かれることになります。

NISAから課税口座へ払い出すと取得価額がリセットされる

ここが最大の落とし穴です。NISA口座の株を同じ会社の課税口座へ移すと、取得価額は「払い出した日の時価」に置き換わります。

NISAで100万円ぶん買った株を、時価60万円のときに課税口座へ払い出した場合
時点 起きること
払い出し時 課税口座での取得価額は60万円になる
40万円の含み損 税務上はなかったことになる(損益通算に使えない)
その後100万円で売却 買値に戻っただけなのに40万円の利益として課税される

損をしているのに税金がかかる、という状態が起きます。

NISAはもともと利益が非課税である代わりに、損失も税務上は存在しないものとして扱われます。これは払い出しに限らず、NISA口座で売って損が出た場合も同じです。NISAとはで制度全体を確認できます。

相続で移管したときの取得価額

亡くなった方の株を受け継ぐときも移管の手続きになります。ここでの扱いは売買による移管とはまったく違います。

項目 扱い
取得価額 亡くなった方が買った金額をそのまま引き継ぐ
取得日 亡くなった方が買った日を引き継ぐ
根拠 所得税法60条(取得費・取得時期の引継ぎ)
相続税評価額 取得価額とは別物。相続税の計算にだけ使う

相続したときの時価が取得価額になるわけではありません。ここは間違えやすいところです。故人が50年前に10万円で買った株なら、取得価額は10万円のままです。

そのため亡くなった方の取引記録を探すことが重要になります。証券会社に残っていることも多いので、相続手続きの際に取得価額の確認を依頼してください。

なお相続した株を相続税の申告期限の翌日から3年以内に売った場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります(措法39条)。この特例を使うと税負担が軽くなることがあります。

贈与で移管したときの取得価額

生前に株を譲り受ける場合も、考え方は相続と同じです。

項目 扱い
取得価額 贈与した人の取得価額を引き継ぐ
取得日 贈与した人が買った日を引き継ぐ
贈与税 贈与時の時価で判定される(年110万円の基礎控除あり)
注意 含み益ごと引き継ぐので、売却時の税金は受け取った側が負担する

つまり「含み益も一緒に贈られる」ということです。時価100万円の株をもらっても、取得価額が10万円なら、売ったときに90万円ぶんの税金が発生します。

贈与税と譲渡所得税の両方が関わるため、金額が大きい場合は税理士に相談することをおすすめします。

従業員持株会から引き出すとき

勤務先の持株会で積み立てた株を自分の証券口座へ移すときも、移管の一種です。

確認すること 内容
単元にまとめる必要 多くの持株会は100株単位でしか引き出せない
端数の扱い 100株に満たない分は持株会に残るか、現金で精算される
口座区分 特定口座で受けられるかを事前に確認する
取得価額 積み立てた買付価額の平均。奨励金の分も含めた金額になる

口座区分の確認を忘れないでください。取り扱いは持株会の事務委託先や証券会社によって異なるため、引き出す前に「特定口座で受け入れられるか」を必ず聞いておきます。

持株会は毎月コツコツ買い付けるため、実質的にドルコスト平均法と同じ形になります。長く積み立てるほど、取得価額が分からなくなったときの損失が大きくなる点にも注意してください。

移管できないもの・移管しにくいもの

すべての商品が移せるわけではありません。

対象 扱い
国内株(100株単位) ✅ 基本的に移管できる
単元未満株 🔴 受け付けない証券会社が多い
投資信託 移管先が同じファンドを取り扱っていることが条件
外国株 △ 受け付けない会社が多い。手数料も高くなりやすい
信用取引の建玉 🔴 移管できない。決済するしかない
貸株に出している株 先に貸株を解除する必要がある

投資信託は同じファンドを両社が扱っていないと移せません。ネット証券専用ファンドなどは、移管先で取り扱いがないケースがよくあります。

移管中は売れないというリスク

手続きが完了するまで、その株は売ることも買い増すこともできません。

避けたい時期 理由
決算発表の直前 結果しだいで大きく動くのに、手を出せない
権利付最終売買日の前後 権利落ちで下がっても売れない
年末(12月) 年内の損益確定に間に合わない可能性がある
相場が荒れているとき 損切りしたくてもできない

移管は「しばらく動かさない銘柄」でやるのが基本です。短期で売買している銘柄を移すのは、手数料以上のリスクを抱えることになります。

移管するか、売って買い直すか

移管が面倒なら、いったん売って新しい証券会社で買い直すという手もあります。どちらが有利かは含み損益で決まります。

状況 おすすめ 理由
大きな含み益がある 移管 売ると20.315%の税金が確定してしまう
含み損がある 売却も検討 同じ年の利益と損益通算できる
損益がほぼゼロ どちらでも 売買手数料と移管手数料を比べて決める
NISA口座の商品 置いたまま 移管できず、売ると非課税枠を消費し直す
取得価額が不明 まず調べる 動かす前に記録を探すほうが、金額的な影響が大きい

含み益が大きい株ほど、売らずに移管する価値が高くなります。税金の支払いを先送りできるぶん、そのお金を運用に回せるからです。

逆に含み損を抱えている銘柄は、その年に他の利益が出ているなら、売って通算するという選択も現実的です。判断の考え方は塩漬け株とはでも扱っています。

移管の前にやっておくこと

最後に、手続きに入る前のチェックリストをまとめます。

移管前チェックリスト

・移管先の特定口座を先に開設したか
特定口座内保管上場株式等移管依頼書を使うか確認したか
・移管元の取得単価をスクリーンショットで残した
・年間取引報告書をダウンロードして保存したか
・貸株を解除したか/信用建玉を決済したか
・単元未満株や投資信託が対象外でないか確認したか
・決算・権利日・年末をまたがない時期を選んだか
・入庫後に取得単価をもう一度確認する予定を決めたか

とくに3つ目が重要です。移管元の口座は、手続き後に取引履歴が見づらくなることがあります。画面を残しておけば、万一取得価額が引き継がれなくても、自分で証明する材料になります。

株式移管の税金に関するよくある質問

株式を移管すると税金はかかりますか?
移管そのものには税金はかかりません。株を売ったわけではないので、この時点で利益は確定していないためです。ただし取得価額が正しく引き継がれないと、将来その株を売ったときの税金が大きく増えます。特定口座から特定口座へ移す場合は「特定口座内保管上場株式等移管依頼書」を使えば取得価額と取得日が引き継がれます。この書類を使わないと、株だけが動いて取得価額の情報が付いてこないことがあります。
取得価額が分からないとどうなりますか?
売却代金の5%を取得費とみなして計算する概算取得費という方法が認められています。租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-13が根拠です。ただしこれは非常に不利です。100万円で買った株を150万円で売った場合、正しく計算すれば税額は約10万1,000円ですが、概算取得費だと約28万9,000円になります。差額は約18万8,000円です。値上がりしているほど差が広がるため、まずは取引報告書や通帳の記録を探してください。
一般口座から特定口座へ移すことはできますか?
原則としてできません。特定口座から一般口座への払い出しは可能ですが、その逆はできない一方通行だと覚えてください。例外として、相続により取得した株式で被相続人が特定口座で保管していたものなど、法令で定められた限られた場合のみ特定口座へ受け入れられます。うっかり一般口座で受け取ってしまうと、以後は自分で取得価額を管理し、売却時に確定申告をする必要が出てきます。
NISA口座の株を他の証券会社へ移せますか?
移せません。NISAを使う金融機関を変えることは年単位でできますが、すでに買った商品は元の会社に残ります。非課税のまま持ち続けられるので売る必要はありませんが、口座が2社に分かれることになります。どうしてもまとめたい場合は売却して新しい会社で買い直すことになり、その場合は新しい年の非課税枠を消費します。生涯投資枠は売却した翌年に簿価分が復活します。
NISAから課税口座へ払い出すとどうなりますか?
取得価額が払い出した日の時価に置き換わります。NISAで100万円ぶん買った株を時価60万円のときに払い出すと、課税口座での取得価額は60万円になります。40万円の含み損は税務上なかったことになり、他の利益と損益通算することもできません。その後100万円まで戻して売ると、買値に戻っただけなのに40万円の利益として課税されます。含み損のまま払い出すのは避けたほうがよい場面です。
相続した株の取得価額は相続時の時価ですか?
違います。亡くなった方が買ったときの金額と買った日をそのまま引き継ぎます。所得税法60条が根拠です。相続税を計算するときの評価額とはまったく別の数字なので混同しないでください。故人が50年前に10万円で買った株なら、取得価額は10万円のままです。取引記録は証券会社に残っていることが多いので、相続手続きの際に取得価額の確認を依頼してください。なお相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すると、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。
移管中に株価が急落したら売れますか?
売れません。出庫から入庫が完了するまで、その株はどちらの口座にも存在しない状態になります。期間はおおむね1〜2週間です。この間は売却も買い増しもできないため、決算発表の直前、権利付最終売買日の前後、年末、相場が荒れているときは避けてください。移管は当面売る予定のない銘柄で行うのが基本です。短期で売買している銘柄を移すのは、手数料以上のリスクを抱えることになります。
移管と売って買い直すのはどちらが得ですか?
含み損益で決まります。大きな含み益があるなら移管が有利です。売ると20.315%の税金がその場で確定し、再投資できる資金が減るためです。逆に含み損があり、その年に他で利益が出ているなら、売って損益通算するほうが有利になることがあります。損益がほぼゼロなら、売買手数料と移管手数料を比べて決めてください。NISA口座の商品は移管できないうえ、売ると非課税枠を消費し直すため、置いたままにするのが基本です。

まとめ

株式移管で見るべきなのは、手数料でも日数でもなく「取得価額がついてくるか」です。

この記事のまとめ

・移管そのものに税金はかからない。危険なのは取得価額の引き継ぎ
・🔴 取得価額が不明だと譲渡代金の5%で計算される(概算取得費)
・100万円→150万円の株なら、税額の差は約18万8,000円
・特定口座間は「特定口座内保管上場株式等移管依頼書」を使う
・🔴 一般口座から特定口座へは戻れない(一方通行)
・NISAの商品は他社のNISAへ移管できない。置いたままでよい
・🔴 NISAから課税口座へ払い出すと取得価額が払出時の時価になる
・相続・贈与は、亡くなった方・贈与した人の取得価額と取得日を引き継ぐ
・単元未満株・信用建玉・貸株中の株は移管できないことがある
・移管中の1〜2週間は売れない。決算・権利日・年末を避ける
・🔵 移管前に取得単価のスクリーンショットを必ず残す

※ 本記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な解説であり、個別の税務判断を行うものではありません。実際の申告にあたっては、証券会社または税理士・税務署にご確認ください。

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