逆イールドとは、短期金利が長期金利を上回る現象のことです。通常とは金利の高低が逆転している状態を指します。

本来、お金を長く貸すほどリスクが高くなるため、長期金利のほうが高くなります。それが逆転するのは異常な状態であり、景気後退の前触れとして広く知られています。

ただし「逆イールドが出たら株を売る」という使い方は、実測に支持されていません。米国で10年債と3か月債の利回りが逆転した局面を調べたところ、主要な6局面のうち5局面で、発生から6か月後のS&P500はプラスでした。

この記事でわかること

・イールドカーブとは何か(図で解説)
・なぜ金利が逆転するのか
実測:1980年以降に検出された12の逆イールド局面
実測:逆イールド発生後6か月・12か月・24か月のS&P500
2022年から503営業日続いた史上最長級の逆イールドのその後
・投資判断にどう使えばよいか

逆イールドとは

項目 内容
読み方 ぎゃくイールド
状態 短期金利 > 長期金利(通常は逆)
通常の状態 順イールド(長期金利のほうが高い)
よく使われる組み合わせ 10年債と2年債、10年債と3か月債
意味するもの 市場が将来の景気悪化と利下げを織り込んでいる
発生頻度 1980年以降の全営業日の10.3%

4行目の組み合わせについて補足します。報道でよく使われるのは「10年債と2年債」ですが、景気後退の予測力という点では「10年債と3か月債」の組み合わせが優れているとする研究が多く、この記事でもこちらを使っています。

イールドカーブと金利の関係

残存期間ごとの利回りを線でつないだグラフをイールドカーブ(利回り曲線)といいます。まず通常の状態を確認します。

残存期間が長いほど利回りが高くなる順イールドの曲線グラフ

横軸が残存期間、縦軸が利回りです。期間が長くなるほど利回りが高くなる右上がりの形になっており、これを順イールドと呼びます。

長く貸すほど利回りが高くなるのは、期間が長いほど価格変動やインフレのリスクを負うためです。値動きの荒さに見合った上乗せが求められる、という考え方になります。

逆転すると形が変わる

短期金利が長期金利を上回り右下がりになった逆イールドの曲線グラフ

短期側が高く、長期側が低い右下がりの形になっています。これが逆イールドです。

イールドカーブの形は、大きく4つに分類されます。

状態 市場が見ていること
順イールド 右上がり(通常) 経済は正常に成長している
スティープ化 傾きが急になる 景気回復やインフレの加速を予想
フラット化 傾きが平らに近づく 逆転の一歩手前。転換点が近い可能性
逆イールド 右下がり 将来の景気悪化と利下げを織り込んでいる

実務では、逆転しているかどうかだけでなくフラット化が進んでいるかも見られます。急に平らになっていく局面は、市場の見方が変わりつつあるサインになります。

なぜ金利が逆転するのか

逆転は、短期と長期で金利の決まり方が違うために起こります。

短期金利は政策で決まる
中央銀行の政策金利にほぼ連動する。インフレを抑えるための利上げで押し上げられる。
長期金利は予想で決まる
市場参加者が将来をどう見るかで決まる。景気悪化と利下げを予想すれば下がる。

つまり逆イールドは、中央銀行が金利を上げているのに、市場は「いずれ下げざるを得なくなる」と見ている状態を表しています。政策当局と市場の見方が食い違っているサインだといえます。

逆イールドが生まれるまでの流れ

① インフレが進み、中央銀行が利上げを続ける
短期金利が上がる
③ 市場は「これだけ上げれば景気が冷える」と考える
④ 将来の利下げを見込んで長期国債が買われ、長期金利が下がる
⑤ 短期と長期が逆転する

【実測】1980年以降の逆イールド局面

米国の10年債利回りと3か月債利回りの差を、日次で計算しました。

検証の条件

・10年債利回りから3か月債利回りを引いた値を毎営業日算出
・対象:1980年1月〜2026年8月28日(11,696営業日
・マイナスが10営業日以上続いた期間を1つの局面として数える
・株価の検証にはS&P500を使用
期間 継続 最大の逆転幅
1980年1月〜4月 82営業日 −2.98pt
1980年10月〜1981年3月 95営業日 −3.73pt
1981年4月〜9月 95営業日 −2.95pt
2000年8月〜2001年1月 114営業日 −0.76pt
2006年9月〜2007年5月 162営業日 −0.48pt
2019年(4回に分かれて発生) 計79営業日 −0.47pt
2022年11月〜2024年11月 503営業日 −1.70pt
2024年11月〜12月 12営業日 −0.20pt

※ Pacific Stockが米10年債・3か月債の利回りから独自に集計。検出された12局面を時期ごとにまとめて表示(2026年8月28日時点)

目を引くのが2022年11月から2024年11月まで503営業日続いた局面です。約2年にわたる継続は、検出された中で群を抜いて長くなっています。

なお2026年8月28日時点では、10年債4.72%に対し3か月債3.73%で、差は+0.99ポイントの順イールドに戻っています。

【実測】逆イールドの後、株価はどうなったか

ここがこの記事の中心です。主要な6局面について、発生後のS&P500を追いました。

発生時期 6か月後 12か月後 24か月後 最大下落
1980年1月 +8.0% +27.7% +15.6% −7.1%
1980年10月 +5.0% −7.3% +8.9% −19.9%
2000年8月 −4.5% −16.2% −38.5% −44.5%
2006年8月 +13.2% +11.0% +1.5% −5.5%
2019年5月 +10.7% +5.5% +48.4% −20.2%
2022年11月 +4.2% +9.9% +51.0% −4.4%

※ 各局面の開始日を起点としたS&P500の騰落率。「最大下落」は起点から500営業日以内の終値ベース安値まで。Pacific Stockが独自に集計

この表からわかること

6か月後にプラスだったのは6局面中5局面。逆イールド直後に急落したわけではない
・24か月後も5局面がプラス
唯一大きく崩れたのが2000年8月(24か月後−38.5%、最大−44.5%)
2022年11月の局面は24か月後に+51.0%と大きく上昇した
・つまり逆イールドは「すぐ売れ」というサインではない

「逆イールドが出た=暴落が近い」という理解は、実測に支持されていません。むしろ発生直後は上昇していることのほうが多くなっています。

ただし2000年8月の局面のように、時間差を置いて大きく崩れる例も存在します。外れることもあるが、当たったときの下落は大きいというのが、この指標の性格になります。

景気後退との時間差

逆イールドが景気後退の前触れとされるのは事実ですが、タイミングまでは示しません。

逆イールドの発生 その後の景気後退
2000年8月 2001年3月に景気後退入り(約7か月後
2006年8月 2007年12月に景気後退入り(約16か月後
2019年5月 2020年2月に景気後退入り(約9か月後・感染症拡大が契機)
2022年11月 2026年8月時点で景気後退は認定されていない

※ 米国の景気後退の期間は全米経済研究所(NBER)の判定による

最終行が重要です。2022年11月から約2年続いた史上最長級の逆イールドの後、2026年8月時点で景気後退は認定されていません。

この事実は、逆イールドが万能の予測装置ではないことを示しています。また過去の例でも、発生から景気後退までの時間差は7か月から16か月とばらついており、いつ来るかは分かりません。

投資判断にどう使うか

① 売買の合図ではなく、環境の確認に使う
実測では発生後6か月の成績が悪くありませんでした。「逆イールドだから売る」ではなく「市場が将来の悪化を織り込み始めた」という状況把握にとどめるのが実務的です。
② 解消するタイミングに注意する
過去の景気後退は、逆イールドが解消して順イールドに戻った後に始まっています。逆転が続いている間より、短期金利が急低下して差が戻る局面のほうが、実際には要注意だという見方があります。
③ 単独では使わない
2022年からの局面のように、景気後退につながらない例もあります。雇用や企業業績など他の材料と併せて確認する必要があります。経済指標景気動向指数と組み合わせるのが基本になります。

逆イールドに関するよくある質問

逆イールドが出たら株を売るべきですか
実測では、主要6局面のうち5局面で発生後6か月のS&P500がプラスでした。24か月後も5局面がプラスです。「逆イールド=すぐ暴落」という理解は支持されていません。ただし2000年8月の局面では24か月後に38.5%下落しており、外れることもあれば当たったときの下落は大きいという性格の指標になります。
2年債と3か月債のどちらで見るべきですか
報道では10年債と2年債の組み合わせがよく使われますが、景気後退の予測力という点では10年債と3か月債の組み合わせが優れているとする研究が多くなっています。どちらを見ても方向はおおむね一致しますが、逆転する時期は少しずれます。
いまは逆イールドですか
2026年8月28日時点では、10年債4.72%に対し3か月債3.73%で、差は+0.99ポイントの順イールドに戻っています。2022年11月から2024年11月まで503営業日続いた逆イールドは解消しました。
逆イールドの後、必ず景気後退が来ますか
来るとは限りません。2022年11月から約2年続いた史上最長級の逆イールドの後、2026年8月時点で景気後退は認定されていません。また過去に景気後退へつながった例でも、発生からの時間差は7か月から16か月とばらついています。
なぜ長期金利が下がるのですか
市場参加者が将来の景気悪化と利下げを予想して、長期国債を買うためです。債券は買われると価格が上がり、利回りは下がります。逆イールドは「中央銀行が金利を上げているのに、市場はいずれ下げると見ている」という食い違いを表しています。
逆イールドは日本でも起きますか
理論上は起こり得ますが、日本は長くゼロ金利や量的緩和が続き、短期金利がほぼ0%に固定されていたため発生しにくい状況にありました。2026年8月時点の政策金利は1.0%程度で、米国の3.50〜3.75%と比べても水準が低くなっています。
逆イールドはどれくらいの頻度で起きますか
1980年以降の全営業日のうち、10年債と3か月債が逆転していたのは10.3%にあたります。10営業日以上続いた局面としては12回検出されました。1980年代前半と、2000年・2006年・2019年・2022年に集中しています。
逆イールドが解消したら安心ですか
むしろ注意が必要とする見方があります。過去の景気後退は、逆イールドが解消して順イールドに戻った後に始まっています。解消の理由が「短期金利の急低下」である場合、それは中央銀行が景気悪化に対応して利下げを始めたことを意味するためです。解消そのものより、なぜ解消したかを確認する必要があります。

まとめ

この記事のポイント

・逆イールドは短期金利が長期金利を上回る異常な状態
・短期は政策で、長期は市場の予想で決まるため逆転が起きる
1980年以降の全営業日の10.3%で発生。12局面を検出
実測:主要6局面のうち5局面で、発生後6か月の株価はプラスだった
唯一大きく崩れたのは2000年8月(24か月後−38.5%)
2022年11月からの503営業日の逆イールド後、景気後退は認定されていない
・景気後退までの時間差は7か月〜16か月とばらつく

逆イールドが注目されるのは、株価やニュースではなく、債券市場に参加している投資家の集合的な予想が数字として現れるためです。市場が将来をどう見ているかを、直接読み取れる数少ない指標のひとつになります。

一方で実測が示したのは、その予想が当たるまでに長い時間がかかり、外れることもあるという事実でした。売買のタイミングを決める道具ではなく、いまどんな局面にいるかを確認するための材料として扱うのが、この指標との適切な距離になります。

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