証券口座の乗っ取り|出金を止めても防げない理由と対策

証券口座の乗っ取りで最も多い被害は、資金を盗まれることではありません。保有株を勝手に売られ、その代金で価値の低い銘柄を買わされることです。

金融庁が各証券会社から受けた報告によると、被害はこの規模で起きています。

項目 2025年1月〜2026年5月
不正アクセス件数 18,915件
不正取引件数 10,474件
不正な売却金額 約4,353億円
不正な買付金額 約3,829億円

売却と買付がほぼ同額であることが、この犯行の性質を示しています。

犯人は現金を引き出していません。あなたの資産を、自分たちが仕込んだ銘柄の買い注文に変えています。この記事では、その仕組みと、今日中にできる対策を整理します。

この記事でわかること

被害の実数と、月ごとの推移
なぜ現金を盗まず、株を買わせるのか
・侵入の手口4パターン
・狙われやすい人の特徴
いますぐ確認する7項目(チェックリスト)
・パスワードと二段階認証の設定
・セキュリティソフトの選び方
・被害に遭ったときの連絡先と手順

被害はいつ、どれだけ起きたか

2025年の月別推移を見ると、急増した時期がはっきりわかります。

2025年 不正アクセス 不正取引
1月 96件 39件
2月 71件 33件
3月 1,420件 687件
4月 5,279件 2,910件
5月 3,556件 2,289件

出典:金融庁が各証券会社から受けた報告(報道による)。

1月の96件から4月の5,279件へ、わずか3か月で約55倍に増えています。

その後、証券各社が多要素認証を必須化したことで件数は減少に向かいました。2025年通年では不正アクセス17,559件・不正売買額7,393億円、2025年12月時点では月間の不正売買額が41億円まで縮小しています。

ただしゼロにはなっていません。手口が変わりながら続いているのが現状です。

なぜ現金ではなく株を買わせるのか

この犯行のいちばん重要な点です。

段階 犯人がやること
① 事前 出来高の少ない銘柄を、あらかじめ安値で買い集めておく
② 侵入 他人の証券口座にログインする
③ 売却 その口座の保有株をすべて成行で売り、現金化する
④ 買付 その現金で、①の銘柄を高値で買わせる
⑤ 利確 吊り上がったところで、①の持ち株を売り抜ける

この手口が厄介な理由

🔴 出金の制限をかけていても防げません。お金は口座の外に出ないからです

🔴 口座には「株」が残っているので、一見すると資産が消えていません。気づくのが遅れます

🔴 買わされた銘柄は出来高が少なく、売ろうとしても買い手がいないことがあります

🔵 だから対策は「出金を止める」ではなく「ログインさせない」に集中させる必要があります

出来高の少ない銘柄がなぜ危険かは、出来高の記事でも扱っています。

どうやって侵入されるのか

手口 内容 対策
① フィッシング 本物そっくりの偽サイトへ誘導し、IDとパスワードを入力させる。最も多い経路 メールやSMSのリンクから開かない
② 使い回しの発覚 他のサービスから漏れたパスワードを、証券口座で試される 証券口座だけは専用のパスワードにする
③ 情報を盗むソフト 端末に入り込み、保存されたパスワードや入力内容を送信する セキュリティソフトとOSの更新
④ 公衆Wi-Fi 暗号化されていない回線で通信を盗み見られる 外では取引しない。使うならVPN

①のフィッシングが圧倒的に多いのは、技術ではなく人の判断を狙うからです。

「セキュリティ強化のため再ログインしてください」「重要なお知らせがあります」といった件名で、緊急性を作って考える時間を奪います。本物と見分けるのは年々難しくなっています。

いますぐ確認する7項目

ここから実際の作業です。上から順に確認してください。

# 確認すること なぜ
1 多要素認証をオンにする 最も効果が大きい。パスワードが漏れても入られない
2 パスワードを他と違うものにする 使い回しは、他社から漏れた時点で突破される
3 取引通知メールをオンにする 身に覚えのない約定に、その場で気づける
4 ログイン履歴を見る 知らない日時や端末からのアクセスがないか
5 登録メールアドレスを確認する 勝手に変更されていると、通知が届かなくなる
6 出金先口座を確認する 見覚えのない口座が追加されていないか
7 OSとブラウザを最新にする 既知の弱点をふさぐ

1だけでも今日中に済ませておくと、被害の可能性は大きく下がります。実際、証券各社が多要素認証を必須化してから件数は減少しました。

パスワードの作り方

やること 避けること
12文字以上にする 8文字以下
英大文字・小文字・数字・記号を混ぜる 誕生日、電話番号、名前
証券口座だけ専用のものにする 他のサービスと同じもの
パスワード管理ソフトで保管する ブラウザに保存したまま放置

重要なのは複雑さより「使い回していないこと」です。どれだけ複雑でも、他のサービスから漏れれば同じ文字列で試されます。

証券会社側の対策と、その限界

証券会社の仕組み 効かなくなる条件
多要素認証 利用者がオフにしている
異常なアクセスの検知 通常の環境から入られると検知しにくい
出金時の追加認証 そもそも出金しない手口には無力
取引の通知 メールアドレスを書き換えられている

証券会社の対策は整ってきていますが、設定するのは利用者です。初期設定のまま放置していると、用意された仕組みが働きません。

おすすめのセキュリティソフトと選び方

端末側の対策として、セキュリティソフトの導入は基本になります。選ぶときは次の機能があるかを確認します。

機能 証券口座を守るうえでの役割
フィッシング詐欺の検出 最も多い手口を入口でふせぐ。優先度が最も高い
ウイルス・マルウェア対策 情報を盗むソフトの侵入を止める
パスワード管理 使い回しをやめられる
VPN 外出先の回線でも通信を暗号化できる
リアルタイム監視 不審な通信をその場でブロックする

代表的なソフトを挙げます。いずれも上記の機能を備えています。

ノートン(Norton)

総合力が高く、パスワード管理とVPNを含む構成が選べます。


ウイルスバスター(トレンドマイクロ)

国内での利用者が多く、日本語のサポートを受けやすいのが利点です。

ESET

動作が軽く、取引ツールと同時に動かしても負担が小さいことで知られます。


Surfshark Antivirus
VPNを主軸にした構成で、外出先から取引することがある場合に向いています。


ソースネクスト「ZEROシリーズ」

更新料がかからない買い切り型で、長く使う場合の費用を抑えられます。

※ 上記にはアフィリエイトリンクを含みます。価格や提供内容は変わることがあるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。

選ぶときの優先順位

1. フィッシング対策の性能(被害の入口として最も多い)
2. 対応する端末の台数(スマホで取引するなら必須)
3. パスワード管理機能の有無
4. 動作の軽さ(取引ツールと併用するため)
5. 費用(買い切り型か、年額か)

🔵 すでに何か入れているなら、買い替えるより「有効期限が切れていないか」を先に確認してください。期限切れのまま放置されている例が少なくありません。

被害に遭ったときの手順

順番 やること
1 証券会社へ電話する。まず口座を止めてもらう
2 画面のスクリーンショットを保存する(取引履歴・ログイン履歴)
3 パスワードを変更する。別の安全な端末から行う
4 警察へ相談する(サイバー犯罪相談窓口)
5 端末をウイルススキャンする
6 同じパスワードを使っていた他のサービスも変更する

1が最優先です。被害を止めない限り、取引は続けられてしまいます。証券会社の連絡先は、ログインしなくても公式サイトで確認できます。

補償については、証券会社ごとに対応が異なります。利用者側に重大な過失がないと認められた場合に補償されることがありますが、一律ではありません。多要素認証を設定していなかった場合、過失と判断される可能性があります。

よくある質問

出金の設定を厳しくしておけば安全ですか?
この手口には効きません。犯人は現金を引き出さず、あなたの保有株を売った代金で別の銘柄を買わせるからです。金融庁への報告でも、不正な売却金額約4,353億円に対して買付金額が約3,829億円とほぼ同額でした。お金は口座の外に出ていません。対策は出金の制限ではなく、そもそもログインさせないことに集中させる必要があります。
いちばん効果がある対策は何ですか?
多要素認証(二段階認証)をオンにすることです。パスワードが漏れても、それだけではログインできなくなります。実際、証券各社が多要素認証を必須化した後、被害件数は減少に向かいました。2025年4月に不正アクセスが5,279件でピークを打ち、12月時点では月間の不正売買額が41億円まで縮小しています。設定は数分で終わります。
どうやって侵入されるのですか?
最も多いのはフィッシングです。本物そっくりの偽サイトへ誘導し、IDとパスワードを入力させます。次に多いのがパスワードの使い回しで、他のサービスから漏れた情報を証券口座で試されます。ほかに端末に入り込んで情報を盗むソフト、暗号化されていない公衆Wi-Fiでの盗み見があります。技術で破るより、人の判断を狙う手口が中心です。
被害に気づくにはどうすればいいですか?
取引通知メールをオンにしておくのが最も確実です。身に覚えのない約定があれば、その場で通知が届きます。あわせて、登録メールアドレスが勝手に変更されていないかも確認してください。書き換えられていると通知が届かなくなります。ログイン履歴で知らない日時や端末からのアクセスがないかを見るのも有効です。
被害に遭った場合、お金は戻ってきますか?
証券会社ごとに対応が異なり、一律ではありません。利用者側に重大な過失がないと認められた場合に補償されることがあります。ただし多要素認証を設定していなかった場合、過失と判断される可能性があります。補償の有無にかかわらず、まずは証券会社へ電話して口座を止めてもらうことが最優先です。手続きや条件は各社の公式サイトで確認してください。
セキュリティソフトは本当に必要ですか?
端末側の防御として有効です。とくにフィッシングサイトの検出機能は、被害の入口として最も多い経路をふせぎます。ただしソフトを入れれば安心というわけではなく、多要素認証とパスワードの使い分けが先です。順番としては、まず証券口座の設定を見直し、そのうえで端末側を固めるという流れになります。すでに導入している場合は、有効期限が切れていないかを確認してください。
狙われやすいのはどんな人ですか?
口座残高の大小より、設定を初期のままにしている人が狙われます。具体的には、多要素認証をオンにしていない、他のサービスと同じパスワードを使っている、取引通知をオフにしている、長期間ログインしていないといった状態です。長期保有で普段ログインしない人は、異変に気づくのが遅れやすいという点でも危険が大きくなります。
買わされた銘柄はすぐ売れますか?
売れないことがあります。犯人が選ぶのは出来高の少ない銘柄で、少ない資金でも株価を動かせるものだからです。そのため買い手が薄く、売ろうとしても値段がつかない、あるいは大幅に安い価格でしか約定しないという状況が起こりえます。株が口座に残っているため一見すると資産が消えていませんが、実際には売却が難しい状態になっている場合があります。

まとめ|守るべきは出金ではなくログイン

この記事の要点
2025年1月〜2026年5月で不正アクセス18,915件・不正売却約4,353億円
売却と買付がほぼ同額。現金は盗まれず、別の銘柄を買わされる
だから出金の制限では防げない。ログインを守るしかない
最も効くのは多要素認証。必須化以降、件数は減少した
入口の中心はフィッシングとパスワードの使い回し
気づくために取引通知をオンに。登録アドレスの改ざんも確認する

この被害でいちばん危険なのは、口座に株が残っているせいで、資産が減ったことに気づきにくい点です。

普段ログインしない長期保有の口座ほど、発見が遅れます。今日やるべきことは1つで、多要素認証がオンになっているかを確認することです。それだけで、この記事にある手口のほとんどが成立しなくなります。

※ 被害件数と金額は金融庁が各証券会社から受けた報告(報道による)に基づきます。補償の条件やセキュリティ機能は証券会社・提供各社によって異なるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。

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